(レポート: 情報発信部会・日本電気株式会社 加藤 達也)
JDMC情報発信部会が、データマネジメントの知見を共有するためにお届けする企画です。今回は「データマネジメント2025」の講演をテーマに、情報発信部会メンバーが特に興味をもったセッションをレポートします。ぜひご一読ください!
[B-6]金融庁におけるデータ活用の取り組みと
金融分野を中心としたデータマネジメントの今後への期待と展望
金融庁
総合政策局 マクロ・データ分析参事官
兼 チーフ・データ・オフィサー 兼 気候変動関連リスクモニタリング室長
宮本 孝男 氏
金融庁によるデータ活用の取り組み、および金融分野を管轄する同庁がデータマネジメントに対してどのような期待と展望があるか、その取り組みについて語ったのは金融庁でマクロ・データ分析参事官、チーフ・データ・オフィサー、気候関連リスクモニタリング室長と様々な役職を兼任する宮本 孝男氏である。
まず、宮本氏はマクロ・データ分析参事官、チーフ・データ・オフィサーの立場として、約2年間行ってきたデータ活用の取り組みを紹介した。取り組みの前提として、金融庁では時代の流れに応じて金融行政を進化・深化させてきた。行政アプローチを定期的・網羅的な実地検査からリスクベースのモニタリングへ変化させ、データ蓄積・処理技術(Big Data、AI、マシンラーニングなど)の発展・高度化に伴い、それら技術を活用してきたのである。ただ、データ分析、データ基盤の整備をそれぞれ別の組織で行ってしまっていたことで、データが扱いにくい状態となっていたほか、インフラの改善要望が中々行われない、など課題も生じていた。そこで宮本氏がインフラ整備からデータ分析までを一体で統括することで、これらの課題を解決し、より実践的なデータ基盤の整備やデータ分析が可能となった。
取り組みの具体的な内容として、データ基盤の整備を紹介した。これまでは何らかの基軸で集計された集約型データを中心に分析を行っていたが、集計時の基軸とは異なる観点で分析をしたい場合、都度、データを再収集する必要があり、非効率な運用となっていた。そこで新たに機密性の高い高粒度データを連携させることで、分析者が必要な観点で加工・集約し、分析することで効率的な運用に改善された。また、これらのデータに加え、内外の企業財務データや地理データ、SNSなどのテキストデータも外部データとして取り込み、よりきめ細かい分析が可能となった。
高粒度データなどのデータの収集に伴い、分析の精度は高くなったものの、一方で情報漏洩などリスクは当然高くなった。そこで、宮本氏はデータガバナンスをゼロベースで再検討した。大きな考え方は「Need To Knowの原則」ではあるものの、実際の運用では安全性と利便性・利用促進のバランスは難しい状況であった。そこで宮本氏は、最初はより安全、慎重・保守的な運用とし、運用の中で生じた限界事例を一つひとつ判断、事例化し、それらを蓄積することで、データガバナンスのバランスを取ったのである。
続いて、整備されたデータ基盤を活用するためのデータ人材育成の取り組みを紹介した。当初は研修などを通じて底上げ的な手法を検討していたが、時間がかかり、自分で手を動かさないと身に付かない、トライ&エラーで学んでいく必要があるという結論に至り、宮本氏自身が所属するマクロ・データ分析参事官室をインキュベーター/マザー工場とすることで集中的にハイレベルな人材の育成を行う方針とした。
この人材育成の方法として宮本氏は、トライ&エラーを含めた実践を行い、アウトプットまで到達させることが重要であると強調した。加えて、以前はアウトプットの報告は組織内に留まっていたが、積極的に外部(FSA Analytical Notes)に出す方針としたことで、アウトプット作成時の議論や理解が深まり、担当者の達成感・充実感が格段に向上するメリットが生まれたとも話す。さらには、このアウトプットの外部公開により、対外的訴求力が生まれ、金融庁内外からの人材確保にも有効となっており、当初想定していなかった副次的な効果として現れている。
続いて、宮本氏は金融業界を監督する立場である金融庁の目線で、金融業界の今後のデータマネジメントについて語った。金融業界は、ここ10年で規制緩和、デジタル技術の進展、政治・経済動向の変化などにより、金融システムの安定には伝統的金融と呼ばれる銀行、保険、証券以外にも非伝統金融と呼ばれるデジタル金融(FinTech等)、アウトソース(第三者委託)・クラウド、サイバーなども監督する必要が出てきた。その中で新しい技術を規制するだけではなく、伴走型支援を強化してきた。1つが、FinTechをはじめとしたイノベーションを伴う事業の金融面に関する相談受付、情報交換を行う「FinTechサポートデスク」で、もう1つがフィンテック企業や金融機関が前例のない実証実験をする際、個々の案件に対して金融庁内に担当チームを組成して継続的な支援を行う「FinTech実証実験ハブ」である。これらの取り組みにより、イノベーションへの挑戦や実装を支援している。
これらの支援の重要性を押し上げているのが国際規制(国際合意)である。というのも、この国際規制(国際合意)に業界標準・慣行が直接的・間接的に影響するため、日本全体で良い業界標準・慣行を作り上げていく必要があり、官民一体の取り組みが重要となるのである。
最後に宮本氏は官民の立ち位置について触れ、役割の性質上、官民の緊張関係はあるが、協力関係も重要であると強調した。国際規制への対応には特に「普遍的に適用する考え方(筋論)」を如何に提供できるか、積極的に出せるかが重要となるため、これを構築・提案していくための官民での協力関係が必要となる。その協力体制の一環として議論・交流の場となる2つのイベントを紹介し、改めて官民の垣根を越えて意見を交わし、より良い金融業界を目指していきたい、と講演を締めくくった。

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