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レポート

(報告)データマネジメント2025:データでビジネスを駆動する! リクルートのデータマネジメント活動、これまでとこれから

(レポート: 情報発信部会・日本電気株式会社 出嶋 琢志)


JDMC情報発信部会が、データマネジメントの知見を共有するためにお届けする企画です。今回は「データマネジメント2025」の講演をテーマに、情報発信部会メンバーが特に興味をもったセッションをレポートします。ぜひご一読ください!

  [E-8]データでビジネスを駆動する!
  リクルートのデータマネジメント活動、これまでとこれから

  株式会社リクルート
  プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室 データ推進室
  SaaS領域データソリューションユニット SaaSデータソリューション部
  SaaSデータマネジメントグループ グループマネージャー
  林田 祐輝 氏


リクルートが行ってきたデータマネジメントがどう発展してきて、今後どうなっていくのか。多数の企業のデータを取り扱うことをビジネスとし、自身も社内のデータ利活用を発展させてきたリクルート社におけるデータマネジメント活動について、組織面と施策面の2つの側面において掘り下げて語られた。

リクルートは、販促や人材マッチングなど複数の事業領域でメディアを運営する企業である。かつては各システムが独立して運営されていたが、将来的にはシステム間でのデータ共有が進むことで、システムを利用する企業が人材マッチングによる採用から販促までをまとめて管理できるようになるエコシステムを描いている。

1つ目の組織面においては、全社の横串組織としてデータ推進室があり、社内の各組織からのデータ利活用に関する要望、課題を受け付け、ソリューションや環境を提供している。さらにその中のデータマネジメント部には事業領域ごとにグループが配置されており、事業に即した知識と、横串のデータ活用技術の専門性を掛け合わせられる組織構成になっている。
この組織がどう発展してきたのか。リクルートが一つの会社に統合される前は事業会社ごとにデータ組織があった。リクルートの統合後にデータ推進室が発足され、各事業領域のデータマネジメントグループを束ねる組織となった。過渡期にはデータによる意思決定に注力するため分析目的のアナリティクスエンジニア組織となったが、注力すべきはデータの収集から活用までの流れであることから、本質的なデータマネジメント組織に戻ることとなった。アナリティクスエンジニアとはデータアナリストとデータエンジニアの中間的な職種になる。活動としては、データのクリーン化、変換、整理を行い、即時分析可能なデータの提供などを行い、DataOpsの推進、データポータルの整備、意思決定者へのトレーニングを通じてデータ利活用の実用化を支援することが役割となる。
アナリティクスエンジニア組織が立ち上げられた背景は、データ利活用の事業領域および活用の形が多岐に渡ること、データ利活用の難易度が高度化してきたこと、データマネジメントライフサイクルが10年以上に及び、負債が蓄積している状況が背景にあった。まずは生産性の高い開発体制でそれらを解消するため、分析目的のアナリティクスエンジニア組織が立ち上げられた。その後、生産性の高い開発体制が実現したあとでデータそのものが課題になってきた。信頼性の高い状態でデータを提供すること、データの流れを管理することが重要になり、データマネジメント組織に戻ることになった。

2つ目の施策面においては、まずはリクルートの特徴としてデータ需要が高いことが挙げられた。経営陣をはじめとして意思決定のタイミングでデータ利用が多く、タイムリーなデータ取得が求められ、全員でデータを理解し目線を合わせたうえでの議論をしている。

次に、利活用のステージとしては①使える②守る③広げるの3段階を経てきた。
まずは①データを使える状態を作ってきた。三層構造でのデータ集約、BI・SQL実行環境を解放して使えるようにしてきた。しかし、提供を優先するあまり重複するデータが生じてきた。
次に②データを守るガバナンス強化に舵を切った。信頼性の向上のために、カタログ化、セマンティック層を構築。品質面では、ビジネスロジックの正しさを検知、テストする仕組みを作るなどしてきた。
最後に③データの利活用を広げる仕組み作りに注力している。利用者がSQLやBIを気軽に使用できる環境を解放し、データ民主化・セルフ化を進めるためカタログ・ポータルを公開した。これらの段階を進めるには、①利用できる環境を作る ②負担を取り除く ③効率的、脱属人化 がポイントになった。
まずは①BIや分析ツールを提供し、利用者が各自の権限管理のもとで問題なくデータを利用できる環境を作成した。次に②利用における不明点や負担を取り除くため、情報提供と教育支援を行った。カタログ・ポータルを公開し、データマネジメント部が組織横断でツールから分析手法まで学習の機会を提供した。そして③効率的な開発のため、データモデリングしながら保守性の高いデータ開発をし、ビジネスロジックの正確性チェックも実装しておくことで属人的でないチェックの仕組みを残すようにした。

ここまでデータ利活用を発展できたリクルートならではの文化として、データによるビジネス判断を経営陣から現場まで多くの人が高頻度に行ってきたことと、兼務することがよくあることだったため横串組織が組みやすかったことが挙げられた。

今後は、データ利活用の段階がさらに進んで、分析に生成AIを活用していくようになること、期待される領域はセマンティック層への貢献であることが将来像として語られた。

最後に、林田氏は「データ利活用の段階によってリクルートのアナリティクスエンジニアに求められるミッションは変わってきたが、根幹にあるのは事業成長をデータ活用で支えることであり、そのための仕組みや環境を構築、提供していく人材はリクルート社に来て欲しい、”We Are Hiring!!”」と、就職活動のリクルートらしい言葉で締めくくった。





▼JDMC情報発信部会による、2025レポート

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▼ITLeaders 「データマネジメント2025」特集
https://it.impress.co.jp/category/c320102

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