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レポート

(報告)データマネジメント2025:データで切り拓く! デジタルバンク「みんなの銀行」の競争力を高めるデータマネジメント

(レポート: 情報発信部会・株式会社日立ソリューションズ 倉田 公史)


JDMC情報発信部会が、データマネジメントの知見を共有するためにお届けする企画です。今回は「データマネジメント2025」の講演をテーマに、情報発信部会メンバーが特に興味をもったセッションをレポートします。ぜひご一読ください!

  [C-5]データで切り拓く!
  デジタルバンク「みんなの銀行」の競争力を高めるデータマネジメント

  株式会社みんなの銀行 / ゼロバンク・デザインファクトリー株式会社
  Architecture Division DWH Group グループリーダー
  本嶋 大嗣 氏

  株式会社NTTデータ バリュー・エンジニア
  データマネジメント事業本部 部長
  田村 英樹 氏


みんなの銀行は、ふくおかフィナンシャルグループ傘下にて全国のデジタルネイティブ世代をターゲットにする新銀行として設立され、2021年5月にみんなの銀行アプリをリリース、サービスを開始している。
このアプリのリリースにあたっては、2017年に事業構想を開始、スクラッチ開発で2021年5月にサービスインした。銀行としては異例のスピードでの実現だった。

みんなの銀行が提唱するサービスのコンセプトは
・みんなの「声」がカタチになる
・みんなの「いちばん」を届ける
・みんなの「暮らし」に溶け込む
の3点であり、このコンセプトすべてが業務にデータが絡むものである。
業務プロセス・意思決定プロセスの品質改善、業務効率化、データ起点のサービス改善・プロダクト改善、データ施策の推進など、すべてがデータマネジメント、データガバナンスが施策のベースとなっており、みんなの銀行にとってデータは切っても切り離せないもの(データが肝)になってきている。
上記を推進していくためにはきちんとデータの整理をしていく必要があった。

今回の講演者であるみんなの銀行の本嶋さんは、みんなの銀行でのデータマネジメント導入の流れを以下のように纏めている。

2022年度:データマネジメントの取り組みをスタート
データマネジメントユニット(社内横断組織)を組成したが、メンバが他業務に稼働を取られることにより思った成果は得られない結果となった。
この課題に対して社員にヒアリングを実施し、抱えている課題を洗い出して会社に報告した。
このヒアリングでは、「データを活用したいと考えてはいるが、データを利活用するための1歩目を踏みだすところにハードルがあり、そこで躓いている」ことが1つの課題として顕在化した。
さらには、社員の中に「データの民主化」がどのような状態を示すことかをイメージできずに(自分の業務がどう変わるのかがイメージできない)協力が得られないこともあり、データ活用の目指す姿である「データの民主化」が具体的にどのような状態なのかを整理した。

2023年度:データマネジメントの進め方の見直し
データマネジメントを進める上での大きな課題として、人財リソースの不足(専属で担当する人がいない)、また、そもそもスキルが不足していたことから
・外部リソースを活用
・データマネジメントの専門人財の採用
の取り組みを実施、また、外部リソースの活用については以下の3点を目的に推進している。
・正しく進める(誤った判断をしないよう専門家の知見を得る)
・ノウハウの活用(重要な取り組みであるため、考え方のテンプレートを持つ人(組織)にサポートを依頼し、効率的、かつ不足していた稼働を担保する)
・ノウハウ蓄積(内製化に向けた知識の吸収)

※この部分をNTTデータバリューエンジニアに一緒に取り組みを進めて頂いた
また、当初は、社員へのヒアリング結果をもとに、専門家にデータマネジメントの全体構想、ロードマップを作成して進める方向を考えていたが、計画を変更し、対象領域を絞って、短期間で成果を出しながら進める方向とした。
これは、外部リソース活用などのコストを考慮し、継続した取り組みとするためにも、成果を出しつつ、その成果を全社に説明できるよう、スコープを絞った取り組みに変更した。
このスコープの絞り込みは、成果が出やすいところにターゲット(まずはデータカタログ整備)を絞って取り組みを開始、新しい体制を作ることなく、現状の体制で、できる範囲にスコープを絞ってスタートした。
但し、必要な人にはきちんと絡んでもらう必要があるため、課題感を持っているデータエンジニアとデータサイエンティストの組織とはタッグを組んで進めていく形とした。

成果と今後の展望
これまでの成果と今後の展望について以下のように纏めている。
データ利活用の1歩目を踏み出すことにハードルがある点については、カタログ管理ツールの導入、利用手引き/ガイドラインを作成するなど利活用するための敷居を下げる施策を実施。
また、間接的な効果として、全社の戦略資料にデータマネジメントの項目が登場した。
今までもデータの活用に関する内容は戦略資料には盛り込まれていたが、その前段階であるデータマネジメントの部分が取り上げられたのは、取り組みに対する全社の意識が上がってきた裏付けになっていると判断している。
今後の展望としては、スモールスタートした領域の拡大、体制の整備、教育、運用の定着を図っていくなど、継続した取り組みを進めていくとしている。

成功と失敗の分岐点
本講演にてNTTデータバリューエンジニアの田村さんは、データマネジメントに係るプロジェクトのKSF(主要成功要因)として、以下の2点が重要なポイントであると本講演にて説明している。
・推進者の熱量
・取り巻く環境
さらにみんなの銀行では、推進者の熱量、取り巻く環境が以下のポイントでうまく結びつくことによりデータマネジメントのプロジェクトが成功したと分析されている。
■推進者の熱量
・データマネジメントを信じる心
・データエンジニアスキル
・スピード感
・周りを巻き込むプロジェクトマネジメントスキル
■取り巻く環境として
・会社戦略・方向性との一致
・効果の蓄積とその証明
・理解・協力をしてくれる仲間
・態勢の構築
これに対して、データマネジメントの導入が失敗する場合は、以下の状況になるとプロジェクトが頓挫する可能性が高いと説明している。
■推進者の熱量(熱を持って語りきれない)
・「 データマネジメントの力 」を信じ切れない
・データエンジニアリングとプロマネに係るスキル・経験値の不足
■取り巻く環境(推進者が孤立)
・ツールから導入し予算も人も枯渇(管理のための管理)
・役員の変更に振り回される

みんなの銀行の本嶋さんは、今回のプロジェクトにて、人財不足、リソース不足の対応が、逆に組織、人を巻き込み過ぎることになり、関係者に当事者意識を持ってもらうことが難しかったと苦労した点を語っている。
そのため、スモールスタートで成果を出し、全社の会議、経営層のミーティングにて活動を定期的に報告していくことで、少しずつ会社に取り組みを浸透させていくことを行っており、今の段階であれば違った取り組みをしてくれるのではとしている。

現場からのメッセージ
このセッションの締めとして、これからデータマネジメントを取り組む企業に向けて、以下のメッセージを送っている。

経営層にデータマネジメントを推進したいと進言してNOと言われることはなく、生成AIなどが出てきている状況からやらなければならないものと考えているはずである。
しかし、経営陣はデータマネジメントについて詳しくは理解できてはいない。また、上からやれと言われてもなかなか進まないものでもある。
そのため、現場で課題感を持っている人が多いと思うので、課題感を持っている人が進めていくよう現場からの声を上げて動かしていくのがよい。
また、データマネジメントは、やるには早ければ早い方がよいものだと考えている。思いたったら早めに始めてもらうのがよい。




▼JDMC情報発信部会による、2025レポート

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▼ITLeaders 「データマネジメント2025」特集
https://it.impress.co.jp/category/c320102

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