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レポート

(報告)データマネジメント2025:データメッシュと生成AI活用が拓く 東京ガスグループのデータ民主化

(レポート: 情報発信部会・日本電気株式会社 中関 高光)


JDMC情報発信部会が、データマネジメントの知見を共有するためにお届けする企画です。今回は「データマネジメント2025」の講演をテーマに、情報発信部会メンバーが特に興味をもったセッションをレポートします。ぜひご一読ください!

  [C-8]データメッシュと生成AI活用が拓く
  東京ガスグループのデータ民主化

  東京ガス株式会社
  DX推進部 データ活用統括グループ グループマネージャー
  笹谷 俊徳 氏


東京ガスは、「データ基盤の進化」と「生成AI」を武器として「データの民主化」に取り組んでいる。この取り組みについて、東京ガスで長年データサイエンティストとして各領域のデータ分析PJに携わりつつ、近年ではデータ基盤整備や人材育成など含む全社のAI・データ利活用の推進を担う笹谷氏が語った。

東京ガスは、1980年代以前からデータ分析を活用してきた企業のパイオニアである。そのデータ活用の歴史は深く、1000万件を超える顧客データや年間500万件を超えるお客様とのリアルな接点データや様々な設備データを基に、エネルギー供給の最適化や、顧客サービスの向上に力を注いできた。具体的な例を挙げると、LNGバリューチェーンのデジタル化を実現することで東京ガスが保有するアセットを最適にコントロールし、需要と供給の最適化に向けた取り組みを展開している。また、LNGの輸送や供給にAIを活用することで需要・価格予測、市場取引最適化、リスク管理の高度化等により意思決定の迅速化にも取り組んでいるところだ。

このようにデータ活用を推進し続ける東京ガスにおいても、「PoC(概念実証)で止まってしまう」「システム化したが思うように使われない」「業務に組み込むことはできたが、担当者が異動するといつの間にか元通りの状況になる」といった壁があることに笹谷氏は触れ、それらの壁を超えて企業全体でいかにデータ活用を推進していくか、すなわち、データの民主化こそが、バリューチェーン全体のデータ活用には非常に重要であると力強く語った。

データの民主化を進めるための1つ目の取り組みは「データ基盤の進化」だ。東京ガスにおけるデータ基盤は、電力・ガスの小売全面自由化のタイミングで、データに基づくマーケティングPDCAを高速に回すための基盤を作り始め、2019年には全社データ分析基盤を構築した。これにより、戦略的にデータを活用していくべきという全社的な流れを作ることができた。しかし、進化するビジネスと技術に対応していくためのアジリティ、拡張性・柔軟性と、拡大していくデータ利活用を適切に管理するガバナンスにおいて徐々に課題が顕在化していった。これらの課題を踏まえ、データ活用の更なる広がりを目指し、東京ガスは既存の中央集約型から分散型データ基盤へとシフトしている。その中心にあるのが、データメッシュと呼ばれる新たなアプローチだ。具体的には、ドメイン(事業領域)ごとにデータを管理しつつ、データの流通やサイロ化防止、データガバナンスの統制を図るため、中央管理基盤としてのハブドメインを整備し、全体のデータ統合と最適化を進めている。この基盤の再構築によって、従来基盤における「データが基盤上にない場合に整備に時間がかかる」「AIモデル等の実装までの一連のプロセスを内製で進めにくい」といった課題を解消し、データ・AIの業務実装によるDXの“X”加速を狙っている。

また、データの民主化を進める2つ目の「生成AI」に関する取り組みも目を引く。多様な業務領域において生成AIに対する高まるニーズに対し、限られたリソースで変化の激しい技術に追従するためには、数ある活用ニーズから「ゴールデンパターン」を見極めることが重要だと笹谷氏は語った。具体的には、まずSaaSベースのチャットツールを全社導入し、社員に日々の業務の中で生成AIによる効率化の効果を感じてもらい、生成AIでできることを具体的にイメージしつつ、求められるユースケースを具体化させることを狙った。さらに、そのユースケースからゴールデンパターンとしては、「回答・ナレッジ活用」「評価・分析・データ変換」「アウトプット作成プロセス自動化」を抽出し、それぞれに対して雛型となるアプリを開発し、横展開することで、限られたリソースで効率的・効果的にユースケースを実装できるようになった。さらに、タスクレベルの効率化は限界があるため、複雑な一連のタスクを自律的に処理できるようにフローを構築し自動化を図る「AIエージェント」への取り組みを目指している。

さらに笹谷氏は、「デ―タ基盤の進化」と「生成AI」それぞれの取り組みは一見するとそれぞれ独立した取り組みのように見えるが、目指す先は同じである。これらの取り組みは、利用者が全社員になる、つまり本当の意味でデータの民主化を実現する道筋である。さらに、経営者や従業員がデータ駆動型の意思決定を積極的に受け入れることが、非常に重要とし、今後の展望としては、組織としての文化、KPI、マネジメントシステム等への働きかけが重要だと強調する。

最後に「将来、人のためのデータ基盤から、AIのためのデータ基盤へ変わっていくと想定されるが、先がなかなか見えないこの時代において、アジリティを高め、必要なときにクイックに整備をしていくような、新しい時代のデータ基盤の整備が求められていると考える。そのための組織、あるいは人材の育成を含めて今後取り組んでいく必要がある」と締めくくった。




▼JDMC情報発信部会による、2025レポート

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▼ITLeaders 「データマネジメント2025」特集
https://it.impress.co.jp/category/c320102

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