2019年5月16日、日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC)の総会&研究発表会が東京都渋谷区のアイビーホールで開催された。第1部はJDMC2019年度総会、第2部は特別講演と8つのテーマの研究発表がなされたのでダイジェストで紹介する。
総会
■会長挨拶
総会は会長のNTTコムウェア代表取締役社長の栗島聡氏の挨拶から始まった。
挨拶概要は、次の通り。
本コンソーシアムも、2011年4月の設立から9年目を迎え、会員数250を超える団体となりました。ここにお集まりいただいた関係各位の多大な努力によるものと感謝申し上げます。
データをビジネスに活用することはこれまでも様々な形で行われてきましたが、活用のあり方がよりダイナミックになり、以前にも増して重要な活動となってきています。
また、テクノロジーに目を向けると、IoT(Internet of Things)、人工知能(AI)、ロボティックスなど、その進化は著しく、それらの活用も当たり前のこととなりました。
これら状況を踏まえると、「真にデータを活用し企業の競争力に貢献すること」を目指して発足したJDMCですが、その理念は現在、ますます求められる環境になっているのではないでしょうか。ここでもう一段JDMCは新たな飛躍をしてゆかなければならないと考えます。本コンソーシアムの活性化に資するため、会員制度の変更など本総会の議案に含めていますが、運営サイドとしても、運営方法や会員の活動サポートなど、見直すところは見直し、また良い所は伸ばし、皆様と共にJDMCを良い会にしていきたいと考えています。デジタルそしてデータそのものが日本や世界にとってより良い形に発展してゆく、JDMCがその一助となっていければと思いますので、今後ともJDMCへのご協力ご支援をよろしくお願いします。
■議案決議
2018年度活動報告、会計報告、2019年度予算、定款一部変更、理事監事承認の件等議案が提出され、すべての議案が承認された。
特別講演
総会終了後、第2部としてデータマネジメント大賞受賞者による特別講演と本コンソーシアム主活動である研究会からの発表があった。
2019年データマネジメント大賞アナリティクス賞を受賞したハイパフォーマンススポーツセンターのデータ活用の取り組みについて、その活動を推進された久木留様よりご講演いただいた。
■特別講演「ハイパフォーマンススポーツセンターにおける機能とデータ活用」
独立行政法人 日本スポーツ振興センターハイパフォーマンスセンター
国立スポーツ科学センター長 ハイパフォーマンス戦略部長
久木留 毅様
最初にハイパフォーマンススポーツセンターの機能について説明があった。機能は大きく四つ。一つは世界でもトップクラスの各種トレーニング場、宿泊棟、レストラン等の施設機能である。二つ目は、スポーツ科学、医学、情報面からの支援と研究機能である。三つ目は、各競技団体、統括団体等とのコミュニケーションを主体とした、競技団体における強化戦略プランの策定を推進する機能である。四つ目は、地域、競技団体等における各種システムやプログラムを開発する機能である。
次に施設面でのご紹介があった。その中であまり知られていないのが宿泊棟ではないだろうか。トレーニングする、栄養を取るのと同様に重要なのが休息で、そのために工夫が盛り込まれた宿泊棟になっている。なんと高地トレーニングと同様の5000m高地の低酸素状態での宿泊もこの宿泊棟で可能とのことである。
最後にデータの活用について熱いご説明があった。
これまで「診療」「トレーニング」「栄養」などの各データはそれぞれの方法で取得、ばらばらに管理(時にはノートに記録)されていた。これらデータを一元管理しアスリートやコーチなどがアスリートポート(キオスク端末)で活用できるようにした。データの入力方法にも工夫を施し、例えばこれまでアスリートが食したものは自身で料理毎にデータを入力(あるいは記録)する必要があったが、現在は写真をアップロードするだけでAIによる画像認識、栄養素やカロリーなどの計算、登録などの一連の作業がクラウドで実行されるといったように入力の手間やミスの混入などを大きく低減させた。
「データの活用は目的ではなく手段である。目的は世界で勝つこと。」その取り組みの興味深い事例が紹介された。
「長年パシュートではオランダに勝つことができなかった。そこで選手たちは実験用の風洞に入り3選手の頭の高さ、間隔、左右のずれなどを少しずつ変えながらデータを測定した。データを分析し最適解を求め、競技にフィードバックして平昌で金メダルを獲得した。」
久木留様は最後に、「ハイパフォーマンススポーツセンターでのデータの活用について、アスリート、コーチ共にまだまだ使いこなせていないことも事実、テクノロジーも進歩し続けているのでJDMCからの支援も期待したい」とご講演を締めくくった。
研究会発表
■JDMCエンジニアの会
発表者は東京海上日動システムズ 山田文彦氏
JDMCエンジニアの会は、データ分析に触れて楽しくデータ活用を実践する体験を通じて「データ活用・分析を身近に感じる」、「エンジニアの技術力向上」、「エンジニアのコミュニティ形成」を実現する場である。オープンデータを利用した実際のアプリ開発、公的団体が開催するデータ活用アイディア募集コンテストへのチャレンジを試みるなど、積極的に活動した。
また、Autonomous 選手権~オープンデータ分析編~Oracle×JDMC エンジニアの会」と題して日本オラクル社でアイデアソンを開催し、エンジニアの会から5 チームが出場、「飲食店の廃棄ロスに挑む」、「老後の住まいはどこの県がオススメ?」、「購買行動を決定付ける要因は?」といった工夫を凝らしたテーマで発表を行った。JDMCカンファレンスでハンズオンを企画、運営し大勢の方にデータ収集・加工・可視化を体験いただいた。
今年も複数企業様より実データを提供いただき、提供データやオープンデータなどを組み合わせたビジネス案を検討していく。検討だけでなく、アプリ化や実証実験に進めそうな案件があれば積極的に提案、進めていきたい。データ提供企業、エンジニアの奮っての参加をお願いしたい。
■テーマ1: 顧客行動分析による実践的なデータマーケティングのアプローチ研究
発表者はリーダーのアシスト 石川俊朗氏
・2018年度活動概要
キーワードはデータエクスチェンジ。成果物はフレームワーク。
顧客についてよく知り、顧客との新しい関係性を構築し、効果的にアプローチするため、顧客データを有効に活用するデータエクスチェンジや社内外のデータ活用の活性化を目指し、活用時の課題を、事例や実践を通じた研究から探り、実践を踏まえてフレームワークを作成している。
・2019年度活動計画
フレームワークの作成は継続していく。自社にフレームワークを持ち帰って実務にフィードバックしてもらいたい。
■テーマ2: データマネジメントの基礎と価値
発表者は2108年リーダー NEC 谷口直行氏、2019年リーダ― NECソリューションイノベータ 秋田和之氏
・2018年度活動概要
データマネジメントに関わる基礎的な事柄から、ビジネス成果を創出するためのアプローチに至るまで、様々な理論や事例からノウハウを集約、さらに体系的にまとめる活動を進めてきた。2018 年度は、これまでKindle版だけであったデータマネジメント概説書の書籍化(オンデマンド印刷)を実現し利用者の要望に応えた。また普及啓発活動として横浜国立大学の学生向けに「データガバナンス講座」を実施し、実施後のアンケートから学生の理解度、満足度とも高評価であることが確認できた。
・2019年度活動計画
研究テーマは3つ計画しており、①DM活動を推進する上で必須となる企業が得られる効果や価値訴求の検討、②SoE/DXとデータマンジメントの関係整理、③普及啓発のためのエッセンスやコンテンツ整備を積極的に進めていくこととしたい。
■テーマ3: MDMとデータガバナンス
発表者はリーダー ダッソー・システムズ 水谷哲氏
・2018年度活動概要
マスタデータやデータガバナンスの定義を狭く限定せず、有識者/初学者、ユーザ/ベンダーの情報共有の場を提供し、ディスカッションを通してメンバーの知識や体験を共有し、それぞれ役立てる。ギブアンドテイクを基本とし、ここでしか聞けない話を持ち帰り実務に役立ててもらう。MDM World Compass(羅針盤)を作成した。
・2019年度活動計画
マスタデータ、メタデータ/データカタログへと領域を拡げていく。データカタログのあるべき姿と導入方法を考察する。データカタログの参考としてコンテキストデータの研究も考えており、OSSであるGround Context Serviceを読み解く予定。。研究会はMDM、データガバナンス、メタデータ、データカタログ全般に関してての情報共有の場、研究および発表の場と位置付ける。
■テーマ4: 経営におけるデータ活用ガイドの研究
発表者はリーダーのクオリカ 佐野努氏
・2018年度活動概要
企業や組織における「データ活用ガイドライン」の作成を目的に活動してきた。データ主導の経営管理のあり方やその具体像などを探り、経営に直結することを意識したデータ活用に着目して課題やあるべき姿を研究、深堀しガイドライン作成を推進した。トップインタビューはカシオ計算機様から、データの活用は継続的に実践していくことが大切なこと、各社それぞれのデータ活用方法を推進する必要性が大事であることなどを伺うことができた。
・2019年度活動計画
データ活用ガイドラインの発行に向けてパワーポイント版でとりまとめを行う。(書籍化は次のステップ) SCMにおけるデータ経営のあり方をベースとして成果物作成を行いデータ経営フレームワークとの比較検証、ブラッシュアップを行う。また、デジタル化、AI、IoTなど、最新の技術動向やDX化を背景としたデータ経営への影響/変化に行いて検討を進める。
■テーマ5: DM実践勉強会
発表者はリーダーの清水技術士・診断士事務所 清水孝光氏
・2018年度活動概要
経営・業務視点のデータマネジメント実践のための講義・演習をセミナー形式で実施した。実施したテーマは「DM実践体系とイノベーション」、「マスターデータの認識論」、「データ品質」
・2019年度活動計画
今年度のテーマは「現場主導の組織力強化戦略」である。検討事例として、例えば東京商工会議所が運営主体になっている「健康経営」を取り上げ、全員参加の全社活動におけるデータマネジメントの促進・定着方法を検討する予定である。
■テーマ6: IoT・AI研究会
発表者はリーダーの日本テラデータ 金井啓一氏
・2018年度活動概要
IoTとAI をビジネスにどう活かし、データマネジメントはどうあるべきなのか議論・研究を進めた。ビジネス課題を解決するためにIoT・AI を駆使する方法について、「ビジネス分科会」と「アーキテクチャ分科会」の成果を統合し、可能な限り汎用化したフレームワークを作成した。
・2019年度活動計画
作成したフレームワークなどのアウトプットをより良いものとすべく、実際にユーザ企業へ本フレームワークをベースにインタビュー等を実施し、さらなる観点の洗い出しや項目の精査を行う。(項目毎の重み等を明らかにし、成熟度モデル作成も一案) 世の中で「IoT・AI プロジェクトを企画立案」する人のために、拠り所になるドキュメントの精度アップを目指す。
■テーマ7: マーケティングシステム活用研究会
発表者はリーダーのECマーケティング人財育成 石田麻琴氏
・2018年度活動概要
MA実機を運用しJDMCメルマガ会員増を実現した。またこれら取り組みから、JDMCへのマーケティング提案を行った。
・2019年度活動計画
マーケティングにおけるデータ活用術を身に着けるための実践プログラムの作成。=人材育成プログラムの作成。内容としては
-見込み客データの実践活用を発展させ、幅広くマーケティングに必要なデータ収集と、活用を実現するための手法を体系化する。
-前期の整理と次の構想を体系化し、マーケティングを展開するための「座学+ワークショップ」のマーケティング実践プログラムを作成し、成果物とする。
■新研究会紹介: デジタルマーケティング研究会グループ
発表者はリーダーのオムニチャネルコンサルタント 逸見光次郎氏
今年度デジタルマーケティング研究会グループが発足することとなった。3つの研究会から構成される。
- CRM研究会
顧客軸でデータを見て分析して将来の仮説を立てる。CRMのアウトプットを作ってみる
リーダー オムニチャネルコンサルタント 逸見光次郎氏 - マーケティングシステム活用研究会
上記テーマ7をご参照ください。
リーダー ECマーケティング人財育成 石田麻琴氏 - AI・データ活用のためのコンプライアンス研究会
リーダー SBIホールディングス 佐藤市雄氏
そもそもの法律は後追い。デジタル経済の加速にともなう、これまでに無いデータの拡大、活用の幅の拡大に伴う課題や今後のビジネス拡大のための着眼点についてコンプライアンスの観点からディスカッションする。
本研究会グループの取り組み内容に関しては、現時点では検討中の部分もあり、別途2019年6月6日ののデジタルマーケティング研究会グループ説明会で発表する。興味のある方はこの説明会にぜひ参加してほしい。
以上
懇親会の様子