JDMC 情報発信部会 株式会社ジール 小川淳一
2021年12月14日、「実践CRM」コミュニティにて、株式会社デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木康弘氏(元セブン&アイHLDGS執行役員CIO)より、『ビジネスでデータ活用するための仮説立案能力』についての講義が開催されました。その内容をレポートします。
※本記事は、データ活用に関する最新の取組みや業界動向をより多くのかたにお届けするために、JDMC ホームページと株式会社ジールが運営するメディア「BI online」に掲載しています。
<講義内容>
・DXとデータ経営
DX(デジタルトランスフォーメーション)の概要と本質
2020年代から2050年代までのDXがもたらす未来予想
・データ活用の勘違い
データを活用しきれない原因として、よくある5つの勘違い。
・仮説立案力を磨く
ビジネスでデータ活用するための仮説立案力を磨く手法
<講師自己紹介>
DXとデータ経営 ~DXとはなにか?データはどう活用するのか?~
DXとは?
DXとは?と、よく聞かれますが簡単に言うと、DXの”D”はデジタル化、”X”は変革のことで、デジタルとトランスフォーメーションを合わせた造語です。
今、社会が大きく変化しています。グローバル化、少子高齢化、格差問題、環境問題、コロナショックなど、いろんな問題がある中で、それと同時並行でITが劇的に進化しています。流通業ではアマゾンエフェクト、金融ではフィンテックエフェクト、車業界では自動運転を可能にするコネクテッドカーエフェクトなど、従来のビジネスモデルさえも変えてしまう状況になってきています。このデジタル化の動きがDXと言われるものです。
DXが、今や当たり前に使われるようになってきましたが、こんな調査があります。大企業の経営層、役職者1000人にDXに取り組んでいますか?という質問に対して6割近くはDXに取り組んでいると回答されています。さすがだと思いますが、一方、もう1つの質問では、その役職者にDXとデジタル化の違い説明できますか?という問いについては、説明できないという回答が73%、という衝撃的な内容でした。中間管理職に至っては80%がDXとデジタル化の違いが説明できないという回答でした。つまりDXの違いは説明できないが、DXに取り組んでいるということになります。(出典:2021年8月 ドリームアーツの調査より)
DXはデジタル化を中心に語られることが多くありますが、DXの本質は、「人の意識と行動の変革」です。これはぜひ覚えておいてください。
データというところにフォーカスしてみると、データ分析のプラットフォームとそのデータをどのように活用していくのか?また、そのデータをみる以前にどのような仮説を立てていくのか、まさにデータ経営の文化、これをどのように醸成していくのかということがすごく大事なことになります。
DXがもたらす未来予想
DXが、これからどうなっていくのか2020年から2050年までの予測を立ててみました。
【変化1】 ハイブリッド・ワーキングが始まる
リアルで会うと一体感が生まれ、信頼感が得られるというメリットがありますが、バーチャルで仕事をすると時間と場所に縛られずに働くことができます。既に始まっていますが、リアルとネットを合わせたハイブリットな働き方になってきています。常時ネットにつながるという状況が大きな変化をもたらしました。
【変化2】 デジタル生産性向上が始まる
生産性向上が必要な理由のひとつは、労働力の不足です。ある調査によると2030年には、644万人分の労働力が不足すると言われています。女性、シニア層の雇用、外国人労働者の受け入れなどの政策がうまくいったとしても、163万人足りない計算になります。そのためには、生産性を高めなければいけません。
もうひとつは、経産省が警鐘を鳴らしている2025年の崖です。世の中にあるシステムの8割ぐらいがレガシーなシステムで動いていますが、2025年くらいに現在メンテナンスしている人材が一斉に引退してきます。ですから、そのまま動かしていくと運用費や保守費がどんどん高くなってしまい、経済損失が年間12兆円あるだろうという試算も出ています。
そのため、オープンシステムに移行している会社も多いですが、今までオーダーメイドで作ったシステムを標準化し、クラウドサービスの利用やデータプラットフォームを整備しなければなりません。よって、データプラットフォームをうまく活用した生産性の向上が本格化していくと思われます。
【変化3】 求められる人材が変わる
2030年代にはいるとSTEM人材が入ってきます。STEMとは、Science、Technology、Engineering、Mathematicsの略です。
科学・技術・工学・数学の4つの学問の教育に力を注ぎ、これからのIT社会とグローバル社会に適応した国際競争力のある人材を育てようという取り組みです。今の小学生、中学生はこのデジタルの教育を受けています。こういう人たちが社会に出てくる時代になってくると、今、みなさんがお考えになっている優秀な人材と、この時代の優秀な人材の定義が変わってきます。
上流の部分でビジネスをデザインできる人材、その時にはやはりマルチスキルが要求されますし、その企業の中の論理ではなくて、社外で活躍できるような人材、周りを巻き込めるような人材が必要になるだろうと考えています。
【変化4】 ヒト中心のデジタル共創が始まる
2030年代中盤になってくると、本格的にDXの効果が出てきます。今は業界ごとの常識で動いていますが、デジタルは、様々な業界を横串にドーンと通すものです。そうなってくると、人を中心にして周りに様々な業界を置いたときにそれを繋げていくのが、バーチャルの世界になってきます。例えば、小売業界と金融業界が一緒に新しい価値を生み出したり、旅行業と海外の外食業界が一緒の価値を生み出していく、ということが凄く容易になってきます。そしてまた、このバーチャル空間の中ではデータを共有することで検証もできますし、またそこからアイディアが出てくる、こんな時代になってきます。あらゆる業界や組織がバーチャルにデータを共有し、新たな価値を生み出していく。これがデータを活用する本当の意味だと考えています。
今、データを集めましたという話をよく聞きます。しかし、それは過去のものですし、その企業の中だけのものです。外部のデータとぶつけない限り、本当の真実は見えてこないと思います。
DXとデータ経営
DXとデータ経営ということですが、過去に刀から銃、石炭から石油、手作業から機械など、世の中が変化したように、DXによって私たちの生活は完全に変わっていくだろうと考えています。そしてその核となるデータプラットフォームは、みんなどんどん作っているかと思いますが、これはデジタル化に過ぎず、データをどのように経営に活かす文化・人材を育むことができるかが、本当の勝負になってくると考えています。
データ活用の勘違い ~日本企業の9割は失敗している~
いろいろなメディアでは、DXやデータドリブン経営などよく言われていますが、データを活用しきれず、データに翻弄されているよう見えます。よく相談されるなかで大体5つの勘違いがあると思っています。
【勘違い1】データをみれば戦略を立てることができる。
⇒ 真実1:データ分析は過去の結果でしかない。
仮説・未来は人が考えて、実際にやってみて検証する、これしかありません。データを扱うには、仮説(戦略)を立て、実施(実行)し、その結果を検証(データ分析)し、新しい仮説(戦略)を立てるというサイクルが大切です。
経営者がデータを見ない限り、社員は絶対データを見ません。 まず、経営者が率先して、データから仮説を立て、組織に浸透させ、 実行し、検証していく必要があります。
1:経営者が率先して仮説を立てる
2:仮説を組織に浸透させ実行させる
3:自らの仮説が正しかったか検証する
4:検証結果を踏まえ仮説を修正する
【勘違い3】データは選任部隊だけがみればよい
⇒ 真実3:データは全員がタイムリーに自ら改善していくことが重要。
よくある組織の例ですが、経営者がいて、その横にデータサイエンティストがたくさんいて、そこにデータプラットフォームを作って仮説検証を行っているパターンがあります。私は、データを真ん中に置きましょうと提案しています。もちろんデータプラットフォームを作る人は必要です。大事なのは、データは、みんなが見ることができる状態に開放し、仮説・実施・検証を回せる状態にしなければならないことです。
【勘違い4】デジタルマーケティングはデータ経営
⇒ 真実4:デジタルマーケティングは販促効率を高めるだけ。
デジタルマーケティングは、販促・マーケティング部に閉じた運用になっていることが多く、データ経営のOne of them です。データをいくらほじくり返しても”過去の過ち”を知るばかりで、未来は見えてきません。営業部門だったら?製造の部門だったら?など、様々な部門のことを考えてデータ設計をしていくことが大事です。
【勘違い5】柔軟性のないシステムでもデータ経営ができる
⇒ 真実5:データ経営には、柔軟で変化に強いシステムが必要。
今の時代、業務イコールシステムです。システムがダウンしたら営業もできなければ、製造業の工程管理もできません。よって、業務を変えることは、システムを変えることです。柔軟なシステムを同時に作っておかないと、データをうまく活用できないということになります。データを見て行動を変えるとき、システムも同時に変える必要があります。
勘違いする共通要因は、何だろうなと考えると、「他人任せ意識」と「部分最適意識」が引き起こしてしまっているのではないかと思います。
仮説立案力を磨く ~DX人材、仮説立案できる人材を育てる~
主題である仮説立案力を磨くということですが、このセミナーでは技術的なことはお話しませんが、こう考えたらよいですよ、という話をします。
仮説立案力を磨く
データを収集するデータプラットフォームやデータを分析するスキルは必要ですが、圧倒的に少ないのは、仮説立案できる人です。この仮説立案スキルは、何か今回考えました。さまざまなことに興味を持つ能力、全体を俯瞰して見る能力、自ら考え仮説を立てる能力、そして周りを巻き込む能力だと考えています。
様々なことに興味を持つ
あらゆる人、年代、業界、仕事、遊びなどに興味を持ち、様々な人々の立場に立って、自らを見ることが大切です。
全体を俯瞰してみる
地球から世界を見て、アジア、日本、そして地域を考える物の見方、マーケットから業界、企業、組織、そして自分を考える、という大小行ったり来たりする物の考え方、これを磨いていくと仮説力は格段に上がってきます。
意外と自分や自社のことを知らないで何かをやっていることが多くあります。ここの能力を磨いていくことが大事になってきます。
自ら考え仮説を立てる
現代の日本の課題でもありますが、リスクを冒さないことがリスクマネージメントになっています。ルールに縛られて、行動が余儀なくされ、自ら考える力が喪失してしまっているのです。企業でも失敗しないことが優先され、先生や上司に答えを求めてしまう習慣がついてしまっているからです。本来リスクは、コントロールしていくものです。ゴールを妄想し、そして実際に行動していく場作りが大事だと感じています。何かに取り組むときは、常にゴールを妄想し、行動することを習慣づけていく。そして結果は、データを見て検証し、ダメだったらやり直すことをやっていく。これを習慣化していくと、仮説力、妄想力が付いてきます。ただ、これを許す企業文化がないと人は育ちません。本から学ぶことも大事、人から教わることも必要。しかし、それ以上に自分の頭で考えてやってみるということがすごく大事です。
まわりを巻き込む
仮説を立てて何かをやったときに、必ず周りを巻き込まなければ実現できません。よって、周りを巻き込む仮説を立てることが大事です。どういうことかというと、周りがやってみたいと思わせる内容ではないといけません。やってみたい、分かりやすいということを意識しながら、常に人を巻き込むことを想定することが、良い仮説を立てるには必要です。
様々な最新ニュースやいろんな人のインタビューを掲載しています。カインズの社長やトリドールのCIOなど様々な人にインタビューをしています。また、DX実践セミナーということで、いろんな人と対談記事なども掲載しています。
2022年は、DX元年
DXが正しく認識される年になるのではないかと思っています。さきほどの衝撃的なレポートにあった、デジタルとDXの違いがわからない、という人の比率が下がると思っています。よって少しでも早く、将来の布石をうっていただきたい、と考えています。2030年代になった時には、あの時やっておけばよかったと絶対後悔しないように、ぜひ今取り組んで頂ければなと考えています。
所感
マスメディアでは、DXのことが毎日のように取りざたされ、DX化についての記事を読む機会も増え、ある程度分かっていた気になっていました。しかし、本セミナーを受講し、DX化の本質がわかっていないことに気づかされました。ツールや仕組みの導入について良く聞くことがありますが、DX化に向けてどのように取り組んでゆけばよいか、具体的な方策について話をされている方はあまり見受けられません。本セミナーでは、講師が自ら実践した内容を基に、この課題に対して、どのように立ち向かっていけばよいかをわかりやすく解説しています。まず、自らの考え方を変え、行動を変化していくことがDXへの第一歩であることを実感しました。