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レポート

(報告)MDMとデータガバナンス研究会#11 スタートアップLazuliが提供する「リテールの未来をつくる」AIを活用したクラウド製品マスタ「Lazuli PDP」

MDMとデータガバナンス研究会リーダー 水谷 哲

2022年4月22日の「MDMとデータガバナンス研究会#11」では、Lazuli株式会社(以下Lazuli)代表取締役の萩原静厳氏。Lazuliが提供するのは、AIを活用したSaaSの製品マスタ「Lazuli PDP (Product Data Platform)」。2020年7月に設立されたスタートアップだが、Lazuli PDPはすでに複数の企業で採用が進んでいる。関東を中心に220以上の店舗を展開するホームセンターチェーンのカインズもその1社だ。Lazuli PDPとはどんな課題を解決するソリューションなのか。今後、同社ではどのような展開を考えているのか。萩原氏が紹介した。

■2020年7月に設立されたスタートアップLazuli

スタートアップ「Lazuli」は萩原氏とCOOの池内優嗣氏によって2020年7月に設立された。AIを活用した製品マスタ「Lazuli PDP」サービスを開発・提供している。同技術のAIアドバイザーとして、東京大学大学院教授の松尾豊氏が参画している。

萩原氏は05年にリクルートに入社。半年間の飛び込み営業を経て、旅行情報メディア「じゃらん」を担当。最初の受注は「長野・善光寺のそば屋だった」という。次はWebマーケティングやサービスの企画からローンチまでを担当する責任者を務めた。ビッグデータが話題になった2010年頃から、データサイエンティストとして「スタディサプリ」へのAI実証実験をはじめ、数々のデータ活用・事業化をリードした。松尾氏と出会ったのはその頃である。やがて2018年、外食産業向け予約管理SaaSを提供するトレタに転職。POSデータと格闘する日々のなか「汚いマスタの問題」に目覚める。同時に「AIによるマスタのキレイ化」を考えるようになったという。2年後にAIコンサルタントとして独立。コンサルティングを手がけるうちに、データが「ある」からといって「使える」わけではないケースを数多く目にした。その打ち手にAIやデジタルテクノロジーを活用するアイデアを実現するため、Lazuliを創業したという。LazuliはICCパートナーズが運営するスタートアップイベント「ICC KYOTO 2021 SaaS RISING STAR CATAPULT」で2位を獲得。この4月にはシリーズAラウンドで5億円の資金調達を行い、いっそうの組織およびサービス強化を図っている。

 

■プロダクトデータプラットフォーム「Lazuli PDP」とは

Lazuliが提供するSaaS「Lazuli PDP」とはどんなサービスなのか、萩原氏の発表内容を紹介する。

Lazuliは2020年7月に創業したスタートアップです。ミッションは「情報流通を変革する」。商品マスタやデータマネジメントという領域において、デジタル情報の流通をスムーズにしたいという思いを込めました。

今や小売や流通業ではリアル店舗だけではなく、Webでも販売を展開するなど、販売チャネルがどんどん増えています。デジタルなチャネルでは、リアル店舗とは接客の仕方が異なります。デジタル世界での接客に何よりも必要なのが情報です。

たとえば、ECサイトでこんな経験はないでしょうか。「同じような商品が大量に並んでいて選べない」「説明もスペック情報も足りなくて選べない」「Amazonに慣れているため、それと異なるカテゴリだとうまく探せない」。「関係の無い商品がオススメされてイライラする」。

従来は価格や商品名だけで売れていた世界でした。今は、色々な情報を駆使して売る時代と変わりつつあります。消費者ニーズは多様化し複雑化しており、販売チャネルそれぞれに合わせた情報の提供が必要です。しかし、そうした思考になかなかシフトしきれず、もがいている企業は多いのが現状です。一方で、商品マスタデータには毎週、何百、何千もの商品が追加されます。このボリュームはマスタデータというよりもトランザクションデータに近いものです。人手で整理していては商品のペースに追いつけません。ある企業では、新商品の商品マスタへの登録作業に年間8億円のコストがかかっているといいます。

これは企業単体での努力では解決が困難な課題ですが、私たちが持っている技術で解決できることは多くあると考えています。例えばデータの持ち方をスタティックからダイナミックに変えていくという考え方です。まだまだ”Before Internet”のままの情報流の通仕組みを、AI/Technologyで変革していくという考えです。

私たちが開発、提供する「Lazuli PDP」は、企業が持つ商品マスタをクラウド上で管理し、商品情報に特化したAIによるデータクレンジングと、独自収集した世界中の商品情報とを組合せたプロダクトデータプラットフォームです。データ収集・管理にかかる業務コストを削減し、分析や検索そしてエンドユーザーへのレコメンドなどのデータ利活用に活用し、さらにはDXの実現に向けたデータ基盤としても利用可能なプラットフォームです。

具体的にはID-POSや属性情報、Webログ、広告ログ、CRMログ、アプリ決済、アンケートデータ、リサーチデータなどの顧客情報と商品マスタなどの情報を”Lazuli PDP”に入れると、商品名やJAN、品番などをキーに、AIがネット上の情報を収集、整備します。さらに、収集、整備したデータを教師データとしてAIモデルを更新し、マスタの品質をいっそう高めることができます。例えばECサイトであれば、商品データにタグを付加することで、SEOを改善し、また商品を絞り込みやすくします。こうする事で、たとえ同じような商品が並んでいても、消費者はより選びやすくなります。商品のタグ付けやカテゴライズは、ECサイトだけではなくPOS分析でも有用です。当社のサービスでは、商品のカテゴリを一瞬で整備するような仕組みも提供しています。

Lazuli PDPによる商品情報のクレジングです。今後は楽天やAmazonなど他のECプラットフォームに配信できるようなAPIを提供し、より販売施策につながる開発を進めていこうと考えています。

 

■すでに事例も登場、Lazuli PDP採用の効果

採用頂いた企業の中には、作業時間の93%削減、人員の90%削減という事例も登場。ソリューションは月80万~というそれなりに高めの設定ですが、すでにカインズやアサヒ飲料、イオントップバリュなどエンタープライズ企業を中心に利活用が進んでいます。

例えば「インフォマート」。フード業界向けBtoBプラットフォームを運営しています。ここでは外食の仕入れや発注、店舗の情報などさまざまなマスタのクレンジングに着手しています。当社はインフォマートの取組の一貫として出資を受け、外食を一層よくしていくため協同して取り組んでいます。カインズでは、デジタルのさらなる強化のために活用いただいています。アサヒ飲料では、POS等マーケティングで活用頂いている。トップバリューでは、消費者のニーズに合わせた品揃えや商品開発するためのマスタ整備を私たちが支援しています。いずれの例でも、データ活用のためには、マスタ領域を整備することが重要です。私たちはそこにバリューを提供したいと考えています。

私たちが活用している「NINJA AI」は商品情報に特化しています。表記の揺れや単位の揺れ、情報の重複・微妙な表記の違い、複数の管理コード、同一企業に複数商品マスタなどに強いです。そしてクライアントの保有情報を整備するだけではなく、当社が独自収集した情報を付与して、情報をキレイに使いやすい形にしています。

独自収集した情報で情報を補完したり、商品説明文から特徴を抽出してメタタグを付与したり、商品と別の商品との関係性を商品グラフとして可視化したりもできます。

ある製薬企業では、多様な薬剤マスタを統合するAI基盤としてLazuli PDPを活用、「NINJA AI」で医薬品の名寄せや、効能の関連付などを行い、薬剤の検索が容易にできるようになりました。CDP (カスタマーデータプラットホーム)とLazuli PDPを連携させ、新たな切り口でのマーケティング分析に活用している事例も登場しています。

将来的には、よりスムーズに商品情報の収集から整備、活用までをワンストップで実現できるようなソリューションへの発展を考えています。業界的にはスーパードラッグストア、ホームセンター、コンビニエンスストア、そのあたりの食品、飲料など、SKU(品目)の多い企業に活用いただいています。楽天などECとの接続などで、より使いやすくしていきたいと考えています。

サービスをリリースしてもうすぐ2年になります。流通を変革したい。その気持ちを強く持ってこれからも取り組んで行きたいと思います。

 

■質問が多数投げかけられ、ソリューションへの期待の大きさも

一旦、サービスの説明が終わったところで、Q&Aタイムが設けられた。

モデレータを務めるNTTコムオンライン 水谷哲氏は「名寄せは昭和の頃から企業が悩んでいました。同じマスタの同じ課題に、名寄せAIという新しい切り口でアプローチしているところに新しい風を感じました」と語り、さらに参加者からの感想を募った。

吉村氏  面白いソリューションだと思いました。印象的だったのは「マスタと言えどもトランザクションなんです」という発言。

似た話で、生鮮食品業界の商品でもキャベツの分類を大玉・小玉に分けるかLLなのか、などマスタといえど流動的・相対的な扱いになっていたりしており、その話を連想しました。

この製品がそのような課題への突破口になりうる気もしますし、その反面これでどこまで行けるだろうか?ということも考えました。

外山氏 以前、お話した時から非常に進化をして、すばらしいと思います。

吉村氏 棚割りという観点から考えると、商品のカテゴライズは絶えず変化する、正解のない問題に見えます。棚割りに対してLazuliではどのようなアプローチを提案されているのでしょうか。

萩原氏 棚割を時期や対象に合わせてダイナミックにする取り組みをしています。過去理想論で語られることはあったと思いますが、人手で変更をかけるのは現実的ではなかったと思いますが、機械的に棚割を提案し変更しやすい状態を作ることは大事だと考えています。とは言っても、棚割を我々がコントールするつもりはありません。皆さんの意思決定から実行までを極めて早く出来る状態を作りたいと考えています。

水谷氏 次はどういう領域を攻めていくことを考えているのでしょう。

萩原氏 今様々な業界でニーズを頂いているのですが、根源的な課題は似ているので横展開を迅速に対応できるように取り組んでいます。その中でも食品や飲料業界は動きが早いです。またカインズなどのホームセンターでは、工具やペット用品などにも用途が広がっています。他にはコンビニ、書籍、ホビー、家電、ファッション、製薬など。それ以外にもコンテンツ(デジタル)、あとは店舗などのマスタの名寄せや情報拡充などにも展開していっています。

水谷氏 SaaSというサービスを売っているようで、実際にはコンサルティングも実施されているように見えました。実態はいかがでしょうか。

萩原氏 コンサルティングというよりはカスタマイズのニーズを頂いていて、初期導入フェーズにその設定やAIのカスタマイズをしているケースはあります。その後SaaSでの利用をいただく形です。

水谷氏 適用が難しい領域はありますか。例えば回転寿司、業務スーパーなどは流通業としては絶対的な品数が少なく、活用が難しそうに感じます。

萩原氏 我々のサービスの入口はSKUが1万点以上で人手での管理負荷が顕在化しているところが多く、業務スーパーという切り口より商品数と管理負荷の観点で見ることが大事だと思っています。一方、仕入れの方面における調査技術も私たちは持っており、商品名である程度、特定できるようにはしているので、それなりのニーズは捉えられると思っています。回転寿司店での活用イメージはおっしゃるとおり、商品点数としてはニーズがなさそうではありますが、仕入れの生鮮食材の数次第でしょうか。スーパーなどの生鮮食品では商品のカテゴリ付与や属性情報の正規化など一定のニーズを頂いています。

最近、注目しているのが医薬品業界です。ご存じの通り、医薬品は厚生労働省が管理しており、コード化されていますが、クライアントは困っています。なぜなら、医薬品にはJANコードだけでなく、異なるコードが10種類ぐらいあるからです。それら商品情報を紐付けするだけでも大変な作業です。特に、医薬品とレセプトとを紐付けるのが一苦労。現在、JANコードで単品管理はされているが、もう一歩進めたいというところでお話をいただいています。

尾関氏 リテールのECにAIを使うイメージは沸くのですが、リアル小売店ではAIにどんなニーズがあるのでしょうか。

萩原氏 レジカートなど、デジタルが絡んだOMOやCRMなどの施策を打ちたいと考えている小売店から話をいただくことが多いです。

尾関氏 確かにリアル店舗でもオンラインでも、お客さま情報を活用すれば施策が当たりやすいです。そこにAIを活用すれば、手作業よりも遙かに容易にお客様情報をカテゴライズ出来ると感じます。高すぎる精度を狙わなければ、リテールでも活用できそうな気がしてきました。

尾関氏 例えばUber Eatsのカテゴリに結構いい加減なものがあります。Lazuli PDPを活用すると、そういう問題が解消されそうですね。

萩原氏 Uber Eatsのタグ付けは店舗任せなので、誰が登録するかによって精度が変わるはずです。

萩原氏 画像解析も一部取り入れています。プロダクト・データ・プラットフォームとして画像から得られる情報がある場合に適用しています。

水谷氏 人名や住所の名寄せ機能はいかがでしょう。

萩原氏 住所や法人名、店舗名の名寄せ機能はあります。人名はセキュリティ上、活用することがないので設けていません。

水谷氏 名寄せがあるのは素晴らしいですね。日本は住所や名称などの体系が独自なので、名寄せには人力が必須でした。人の工数を7割削減できれば喜ぶ人がたくさんいるはずです。自然言語の名寄せを目視でやるのは非常に面倒くさいものです。

萩原氏 頑張ります。

深井氏 私はワコムでマスタデータの管理業務を担当しています。業務の中で潜在的な課題だと思っているのが、法人の住所や名前の「揺れ」です。それらを正規化して業務ルール化が必要ですよといっても、現実に実行しようとすると、「この場合はどうするのか」など細かい話が山のように来て、前に進めなくなる怖れがあって手が出せないところがありました。焦点を絞った先行の取組みを始めて、しかも現在進行形で実施している。今日の話は非常に刺さりました。

萩原氏 オペレーションにフィットさせる方法は会社によって異なります。カインズと会話したところ、カスタマイズ要求も出ていますが、8割楽になったという声もいただいています。

伊阪氏 30年ぐらい前にリクルートの顧問に就いていました。今日の話からは、「当たって砕けろ」のリクルート精神を感じました。が、ルールベースの作り方に議論があるので、AIをSaaSというプラットフォームに置くのは極めて難しいことだと思いました。

薬の話がありましたが、ジェネリックといっても、市販した後のジェネリック、認可されただけの第三フェーズのジェネリックなど何通りもあります。そういう分類までAIにやらせるのは無理です。市販薬よりも医家向けの薬はさらに難しいと言われています。そういう世界にAIを持ち込むためには、業界知識が必要です。

今後の期待としては、業種・業界ごとにカスタマイズされたSaaSのプラットフォームができるとさらに素晴らしいサービスになると思いました。

萩原氏 おっしゃるとおりAIをSaaSで提供することの難易度は高いです。当社もAIは使えるところに使って活用しているのが実情です。カテゴリもAIに全部任せて作成するわけではなく、まず業界をリサーチし、業界の感覚を持った上で、どこから学習をさせていくのかノウハウを蓄積しています。

伊阪氏 私のAIに対する反省は、いろいろな案件で得たナレッジを整理しなかったことです。AIを作成するルールベースの参考になったと思います。今後、コンサル案件が出てきたら、何らかのルールに変換できるようなモデルをつくろうと思っています。Lazuli PDPは非常に良い試みなので、さらなる意見交換をしたいと思いました。

萩原氏 伊阪さんのご指摘通り、お客さまのデータだけでAIを回すのは不可能なので、ドメインナレッジの形成が大事だと思っています。当社のAIエンジニアとはどこまでタグにするのか、どこまでチューニングしやすい形にするのかなど、日々、議論しています。ユースケースごとに、データを数多く抱えて学習していき、みなさんに喜ばれる学習エンジンを作っていきたいと思います。

吉村氏 Lazuli PDPはAI以外にいくつも価値の柱があるソリューションだと思いました。今後の展開を期待しています。

 

定刻の時間が過ぎても、質問や感想が途切れなかった。Lazuli PDPがどんな風に洗練されたソリューションに成長していくのか。要注目のソリューションと言えるだろう。

 

※PDP及びProduct Data Platformは、Lazuli株式会社の登録商標です。

 

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