日本データマネージメント・コンソーシアム

会員コラム

【Vol.105】アビームコンサルティング 中村大輔さん、データの価値を出すためには

JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、アビームコンサルティング株式会社 中村 大輔さんです。


2022年2月からJDMC会員として活動させていただいております、アビームコンサルティングの中村と申します。
JDMCの活動としては第一回目LT (※1) の登壇や、『データドリブン経営を始めるためのガイドの研究』に2022年のサブリーダとして参加しておりました。
また2023年から本研究会は『データドリブン経営研究会』に名称変更し、リーダとして推進していくことになりましたので、ぜひ皆様のご参加をお待ちしております(※2)

私自身は前職を含め、数多くのデータ利活用に関する現場を経験しております。
その経験の中で感じていることは、エンタープライズにおける先進事例でさえも、蓋を開けてみるとデータ管理が追いついていない状態となっていることが多いということです。
具体的にはデータが組織ごとにサイロ化、管理・統制が効かなくなり、品質は低下、それにより不明な障害が多発している状態が多くの現場で発生しており、何とかこの状況を変えていかなければならない、と考えております。

実は、これらは私自身が経験した個別の事象だけではなく、『データダウンタイム(※3)』と定義され、現在も世界中の企業で発生している課題となります。
近年、データ基盤の進化や各種エビデンスからこれらの課題に対し、打ち手を実施できるようになってきました。
本コラムではデータの価値を出していく上で重要なポイント3つをご紹介いたします。

1.『やりたいこと』と『やれること』を整理し、優先順位を見極める

データ利活用・データマネジメントを進める上でまず初めに実施すべきことは『やりたいこと』と『やれること』を整理し優先順位をつけることです。
・やりたいこと:ビジネス目標に紐づいたデータ利活用のユースケース
・やれること:データの状態、システムの状態、人や体制等

これらを整理しないまま、画一的な施策を実施してしまうと、現場との実態があわず、形骸化してしまうケースがよく見られます。
また一部の企業では、少し前のビッグデータブームで、取り敢えずデータを蓄積したものの価値が出せないまま、未だ高いライセンス費用やストレージコストを支払う状況も見受けられます。

一方、難しいのがどこまで『やれること』を把握するのかという点です。
まず、完璧な全体最適を狙うために、“全て”のデータ・システムを把握し、綺麗に整合させた上で施策を打つトップダウン・アプローチがありますが、こちらは推奨しません。
多くのデータ・システムの状況は複雑怪奇であり、調査・整理するだけでも難しい状態となっていることが多いためです。

一つの考えとしては、データ利活用のフェーズや状況に合わせて、『やれること』をトレードオフが見極められる程度まで抽象化させて整理を行い、議論する方針が良いと考えます。
その中でも、トレードオフが見極められるまでに多くのコストがかかる調査(例:全社的なデータ統合のためのデータモデル状態調査、重厚な成熟度アセスメント等)は、費用対効果が出るかどうかよく検討することが必要となります。

昨今ではMVD(minimum viable dataset)という概念(※4)や、顧客の360度ビューを追求すると費用対効果が出なくなる(※5)といったエビデンスも出始め、より効果が確実に出る施策・データの見極めが益々重要となってきています(※6)

『やりたいこと』と『やれること』をそのコンテキストに応じた粒度で整理し、より地に足の付いたやり方でデータの価値を出すことを推奨します。

2. 徹底的に自動化する

昨今、分散管理を行うための概念であるData Meshや、それらを実現するためのデータ契約(Contract)やデータプロダクトという考えが注目を集めています。
注目を集めている裏を返すと、中央集権型のデータ管理の場合、規模が増えてくると管理しきれなくなり、困る現場が多く存在するということです。
よくこの手の話になると、人組織や手法に話題が行きがちですが、これらは社会技術的(sociotechnical)アプローチとなります。つまり、大規模な組織によるデータ利活用にガバナンスを効かせ成功させるためには、人組織や手法のアプローチに加え、技術によるサポートが必要ということです。

残念ながら分散管理以前に、データ利活用の現場において、一般的なアプリケーション開発と比べ、基本的なエンジニアリングプラクティス(例:CICD、自動テスト等)すら活用されておらず、自動化されていないことが多いです。

さらにデータは様々な領域に波及するため、これらの状態は知らない所で重大なリスクを抱えることになります。具体的には、昨今ますます厳しくなるデータ関連の規制への違反や、誤ったデータを用いて顧客へ訴求することによるレピュテーションリスク、といった事柄が挙げられます。
データ利活用・データマネジメントを推進される際は、開発・運用プロセスやポリシーの適用含め、全社的に徹底的に自動化することを推奨します。

3. データ統合の少ない領域から攻める

突然ですが、『データ利活用を進める上で最も難しいことは何ですか』と質問されたらどのように答えますか?
色々な答えはあると思いますが、私は『データ統合』と答えます。

規模の大小はあるものの、複数の違うドメインに対し用語の整理をし、各関係者と調整をしながら、一つに整合していくのは骨が折れる作業です。この作業がもし簡単であれば、世の中はこんなにもデータサイロで溢れてはいないはずです。

特に大規模でカオスな環境であればあるほど、より確実に早く成果を出していくためには、データ統合の少ない領域(例:個別のユースケース・システム・組織に閉じられている領域)から着手し、それらの開発から得られたデータモデルや開発プロセスの情報・ノウハウを蓄積し、全体戦略に反映させるやり方が良いと考えます。

また、クイックWinがし易いデータ統合の少ない領域から着手することで、実績が積み上がることによる推進ポジションの確立といった副次的効果も得られます。

事業間のシナジーを出すためのデータの横断的な統合は、高いビジネス価値を創出するために避けて通れない挑戦ですが、そこを目指すための順序と範囲を工夫することで、より費用対効果の高い投資が行えるものと考えます。

以上、データの価値を出すための重要なポイント3つをご紹介させて頂きました。
今後とも、JDMC会員の皆様と議論を深めていき、現場で役に立つ知見を蓄積・発信していきたいと考えています。引き続きよろしくお願いいたします。


中村 大輔(なかむら だいすけ)

アビームコンサルティング株式会社
エンタープライズトランスフォーメーションビジネスユニット 
マネージャー

データマネジメント、データエンジニアリング、アジャイル開発の知見から幅広い顧客にコンサルティングサービスを提供している。SIer、通信会社を経て現職。

※1: JDMC LT#1 「データ組織がデータマネジメントを進める上でのポイント」(https://japan-dmc.org/?p=19471)
※2: 4「データドリブン経営」研究会_FY23 (https://japan-dmc.org/?p=21774)
※3: What is Data Downtime? (https://www.montecarlodata.com/blog-the-rise-of-data-downtime/)
※4: MVD(minimum viable dataset)(https://humansofdata.atlan.com/2022/08/key-takeaways-gartner-data-analytics-summit-2022/)
※5: Pursuing a 360-Degree View of the Customer Will Destroy Your Business (https://www.gartner.com/doc/4003189)
※6: ABeam advocates lean data methodology to enhance marketing strategies and drive business (https://www.abeam.com/th/en/about/news/20221104)

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