JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、大阪学院大学の喜田昌樹氏さんです。
大学経営でのデータ活用―退学者対策を中心に
皆さま、こんにちは。大阪学院大学の喜田と申します。JDMC研究会ではテーマ8に参加しています。事務局よりコラム執筆のお話を受けて、今回は、大学経営におけるデータマネジメント(データ活用)の事例をお話しさせていただきます。
現在、大学は少子化の影響を受けて競争激化の中にあり、各校とも生き残りのための努力を行っています。その一方で、退学者の問題も深刻化しています。現在、日本の大学全体で約5万5000人が毎年退学者を出しています。これは大学経営にとっては大きな損失(数字にして、学生1人当たり約100万円の減収、日本全体では550億円もの減収)になります。
本学も以前は全国平均を上回る退学者が出ていました。そこで、データマイニングを研究してきた私に、大学から、データマイニングを用いた退学者予測と、退学者の面談記録のテキストマイニングの実施依頼がありました。
退学者予測を行ううえで参考になる考え方が、米国通信業界で取り組まれている「チャーン(Churn)マネジメント」です。チャーンは通信業界で「乗り換え」を意味し、つまり同業他社に顧客が移っていくことを指しています。チャーンマネジメントは、他社に乗り換えると予測された顧客のリストを作り、個別にサービス・商品を提供するなどの方策により乗り換えを引きとめる手法で、保険業界や会員制サービスにも適用されています。
退学者予測を行うにあたっては、まず、日常業務で利用している基幹系システムから、データマイニング用のデータを作成することになります。そのデータは、「学籍番号順に退学・卒業した」という事象を変数化したうえで、基幹系システムでの変数が含まれたシートの形で扱います。データの準備が整ったところで、次に、ニューラルネットワークや決定木といった機械学習(マシンラーニング)の手法を用いて予測モデルを作ります。
退学者予測分析の結果から、入試関連とカリキュラム関連の2つがあることが分かりました。前者は高校設置区分、入試区分、評定平均などであり、これは本学においては入学定員の件も含めて入試制度改革につながりました。後者は学部などですが、当時、全学部でのカリキュラム改革につながっています。学生への個別対応については十分とは言えないのですが、退学者数も徐々に下がってきているので、一定の効果があったと思われます。
この後に取り組んだのが、退学者の面談記録を中心に分析用データを作成し、テキストマイニングを用いて、退学者の意向をより深く理解することです。全体の分析では、「授業」「アルバイト」「(単位)修得」「就学意欲」「専門学校」の順で多いことが判明しました。
また、1・2年次退学と3・4年次退学では事情が異なることも明らかになりました。前者は「専門学校」などの進路変更が中心であり、後者は「卒業の目途」などの卒業の可能性が重要であることが分かりました。これらから初年次では大学生としてのキャリア意識が低いかもしれないという結論を導き、初年次教育の科目設定につながりました。そして、この両者に共通するのがアルバイト関連であり、これもアルバイトに関する学生行動基準の改定を行いました。
以上の活動が文科省においても認められ、データマイニングの手法を用いて退学者を分析している大学という評価をいただいています。
ただ、チャーンマネジメントを行ううえでの注意点も明らかになってきています。それは、チャーンがクレームと直結するゆえ、チャーンに注目しすぎてしまうことです。そうなると、データの偏りが発生し、モデルの有効性に問題が出てきます。また、チャーンの扱い方次第では、ともすれば結果的に顧客満足度を下げるような施策になってしまうおそれもあります。こうした問題の解決を考えていくのが、今後の課題になります。
喜田昌樹(きだまさき)
大阪学院大学 経営学部 教授。同志社大学経済学部卒、神戸大学 博士(経営学)、1995年に大阪学院大学 経営科学部 専任講師に就任し、2014年より現職。主要研究テーマは、経営戦略、ナレッジマネジメント、テキストマイニングおよびデータマイニング。著書に『組織革新の認知的研究』(2007年)、『テキストマイニング入門』(2008年)、『ビジネス・データマイニング入門』(2010年)(以上、白桃書房)