【Vol.76】オムロン 田中訓さん、データマネジメント人材の育成には 「データの面白さ」を教え、みずから学ぶ意欲を持たせる

JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。今回、バトンを受け取ったのは、オムロン株式会社の田中訓さんです。


データマネジメントに携わって20年、今もなお勉強の毎日

JDMCの皆さま、初めまして。オムロン株式会社の田中訓と申します。
私は1991年に入社以来、一貫して情報システム部門に籍を置いてきましたが、1990年代後半から2000年代にかけて、日本ではまだ事例が少なかった大規模DWH(データウェアハウス)や全社マスタ管理システムの構築・導入を進めた経験を持っています。

私と同じシニア世代の方々はお分かりかと思いますが、当時はネットの活用もままならず、情報収集に苦労しました。しかしその過程でDOA(データ中心アプローチ)の考え方を知り、幸運にもご縁があってデータ総研の創業者である椿正明さんと出会うことができたのです。日本のDOAの草分け的存在であり、データマネジメントの泰斗でもある椿さんの薫陶を受け、データマネジメントの重要性や面白さを学ばせていただきました。

その後もデータマネジメントに携わり続けて20年以上が経過しましたが、JDMCの活動への参加をはじめ、今も学び続けているさなかというのが現状です。そこで今回は、これまでの私の経験を踏まえ、表題のテーマ~データマネジメント人材の育成について、いささか私見を述べてみたいと思います。

データマネジメントを取り巻く環境は、大きく変化している

昨今、デジタル庁の設立やDX推進など、政府主導で強力にIT政策が進められているのはご承知のとおりです。クラウドやAIといった技術もすでに実用化されて久しく、企業におけるデータ活用のニーズは非常に高まっています。

それに呼応する形で、データ活用の条件整備ともいえるデータマネジメントの必要性への理解も進むように待っています。私自身、長年データマネジメントに携わった経験からも、かつてないほど今この分野に脚光が当たっていると感じています。

さらに、2010年代以降、DM-BOKが発行されるなど、データマネジメントの知識が広まり、MDM(マスターデータ管理)ツールやDQM(データ品質管理)ツールなど、データマネジメントに活用できるITソリューションも発展してきました。

またコロナ禍の副産物といえるでしょうか、ウェビナーが多数閲覧できるようになり、データマネジメント関連の情報収集も容易になりました。かつて情報集めにひどく苦労し、スクラッチでシステムを構築してきた者からすると、まさに隔世の感があり、「便利になったものだなぁ」と感じているところです。

環境や技術は進化しても、なぜデータマネジメント人材は増えない?

環境や技術が飛躍的に進化する一方で、データマネジメントの推進に関する課題感は強く、特に人材育成や体制整備は大きな課題とされています。以前に比べてその必要性も理解され、メソドロジーやツールもそろってきているにも関わらず、なぜデータマネジメントの普及拡大は進まず、人材も増えず、育たないのでしょうか? そこで私は、何か重要なピースが足りないのではないかと考えています。

少し話はそれますが、ゴルフの世界ではクラブやボールなど道具の進化や、スイング計測機器の発達などがあった結果、プロや学生などの上級アマチュアの飛距離は飛躍的に伸び、スコアも向上しています。一方、一般的なアマチュアの飛距離やスコアはあまり変化がなく、上級者の象徴であるシングル・ハンディキャップの人の割合は20~30年前と大して変わっていないそうです。これは、「道具や情報など環境の良い変化があっても、使う人の意識が変わらなければ、さほど結果は変わらない」ことを示しているように思います。そして、同じような構造がデータマネジメントの世界でもあるのではないかと、私は考えています。

私にデータマネジメントの「面白さ」を教えた2つのエピソード

本題の、データマネジメント人材の育成に話を戻しましょう。JDMCに参加されている方々は、データマネジメントに興味と使命感を持って取り組まれている「データマネジメント人間」(勝手に命名して恐縮ですが)が多いのではないでしょうか。その原動力は、データに関する「面白さ」であり、それらが知的好奇心をくすぐるものだから……ではないかと思っています。

そこで私も、自分がデータについて「面白さ」を感じたエピソードを、2つご紹介したいと思います。

1つ目は、マスタ管理システムの要件定義で、商品コードの定義で悩んでいた時のことです。当社は製造業であるため、製品の識別は企業の根幹ともいえるものです。とはいうものの、販売対象には製品以外のソフトウェアやサービスなどの無形物も含まれ、また製品でも原産国や同梱物、価格などの違いがあります。こうした複雑さのために、「何が採番対象か」、「何が同じであれば同じものか」といった、コード定義でもとりわけ重要な要素を決められないという悩みを抱えていました。

私が、その解決策に悩んでいた時です。あるコンサルタントの方から、「商品とはモノではなく、契約の抽象化である。」という示唆をいただきました。なるほど、「商品」は必ずしもモノとは限らないし、契約上、何を約束するのかによって、同定すべき要素は決まってくるということに気づくことができました。

2つ目は、マスタ管理システムの移行でデータクレンジングを行っていた際、既存システムの仕様と合わないデータが多数発見され、どのように移行すべきか悩んでいたときのことです。

それらのデータの中には、新システムの仕様ならば投入できる形式のデータも多数ありましたが、既存システムの仕様から見れば、本来は存在できないはずのものです。このまま投入してよいものかどうか思案していたところ、ある人から「移行のためのデータ形式を合わせることでは不十分。事実にデータを合わせることが重要。」というアドバイスをいただきました。

データを形式的に合わせてとりあえず移行が完了できたとしても、事実と異なるデータを移行してしまえば、システムは正しく稼働せず、業務に悪い影響を及ぼすリスクがあります。事実にデータを合わせることがデータクレンジングの必要十分条件であるということを、この時に学ばせていただきました。

このような経験から、次第にデータマネジメントを学ぶモチベーションが生まれていき、気がつけば私も立派な(?)データマネジメント人間になっていたという次第です。おそらくJDMCの皆さんも、かつて似通った経験があって「データマネジメント人間」になられたのではないでしょうか。

データマネジメント人材の育成に欠かせない「3つの要素」とは?

データマネジメント人材の育成には、さまざまな研修や知識の習得、ツールの使い方の習熟などが必要です。しかし最も大切なことは、その人がデータマネジメントに対するモチベーションを高めること、データの「面白さ」にみずから気づき、楽しむことにあるのではないかと私は考えています。

アメリカの著名な心理学者であるエドワード・L・デシ のモチベーション理論によれば、人は金銭や地位などによって得られる「外発的動機づけ」よりも、その人の内面から促される「内発的動機づけ」の方が、よりパフォーマンスが高く、継続的であるとされています。また、この内発的動機づけに重要な要素には、「自律性」「有能感」「関係性」の3つが挙げられます。自律性とは、その人の意志が尊重されること。有能感とは、自分が他者より優位性を持ち、役に立つというのが実感できること。そして関係性とは、周りの人々と結びつき、共感・連携など良い関係を築けることを、それぞれ指しています。

これをデータマネジメントに当てはめてみると、「自律性」を高めるためにデータマネジメントの「面白さ」や知的なサプライズを自らが感じること。「有能感」を感じるために、他の人が気づいていないデータマネジメントの「肝」を実践し有効性を実感すること。そして、その有効性を周囲と共有することで「関係性」を高めること。さらには、周囲がその活動や成果を認めてあげること……等々。こういった要素が組織の中に生まれると、データマネジメント人材は育つ。つまり「データマネジメント人間」が、自然発生的に生まれてくるようになるのだと思われます。

データを学ぶ人々が「面白さ」に気づける体験の提供を目指そう

データマネジメント人材を育成するには、本人のモチベーションに加え、データに興味を持たせることが重要と述べました。そのためには、「面白さ」に気づく体験ができるような業務にその人をアサインする、あるいは先輩の方々の体験談や失敗談を話してあげるなど、楽しさ・面白さを感じるようにしむけることが大切ではないでしょうか。

そうしていったん本人が興味を持てば、今はネットでみずから情報を得ることは簡単ですし、ツールを試してみることも容易です。適切なタイミングでDM-BOKなどのリファレンスを提示するとか、JDMCなどの研究会に誘ってあげることも有用でしょう。また、彼らが実践したことを周囲が評価することも重要です。あとは本人がみずから行動し、人と出会い、スキルと知識を深めて「データマネジメント人間」になっていけば、きっと業務の面でも大きな成果を挙げてくれるものと思います。もちろん私も及ばずながら、そんな「気づき」の機会をこれからの皆さんに提供できたらと思って活動しています。

つたない私見で恐縮ですが、一度、こういった視点で人材育成を考えてみてはいかがでしょうか。皆さんのご参考になれば幸甚です。 

田中 訓(たなか さとる)
オムロン株式会社
グローバルビジネスプロセス&IT革新本部
コーポレートデータマネジメント部

1967年生まれ、大阪府出身。1991年、オムロン株式会社に入社。情報システム部門において、コーポレートレベルのDWHやマスタ管理システムの構築・運用、開発標準化等を担当。2015年より全社コード統一PJに従事し、現在はコード統括センタのリーダーとしてコード監査を担当している。共著論文に、「グローバルデータウェアハウスの構築」など。趣味は、ゴルフ・ギター演奏・観劇など。

 

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