JDMC会員による「リレーコラム」。メンバーの皆さんがそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。今回、バトンを受け取ったのは、PHC株式会社の松村一世さんです。
医療IT分野におけるデータマネジメント
PHC株式会社の松村と申します。ご存じない方もいらっしゃると思いますので、まずは会社の紹介をさせていただきます。
PHCホールディングス株式会社グループ(https://www.phchd.com)は、1969年に設立された松下寿電子工業株式会社を母体として、2012年に三洋電機株式会社のヘルスケア関連事業の統合、2016年にはバイエルAGの糖尿病ケア事業を統合し、世界125カ国以上で事業を展開しています。(株主はKKR、三井物産株式会社、パナソニック株式会社)
当社では医療機器、ライフサイエンス、ヘルスケアITの3つの事業をコアに、付加価値の高い製品・サービスを提供しています。医療機器では、現在の血糖値測定システムの世界標準として採用されている、酵素を用いたグルコース測定技術を生み出し、製品化を実現しました。ライフサイエンスでは、研究者の日々の研究活動を支援する超低温フリーザーやCO2インキュベーターなどを提供しています。そして私が所属するヘルスケアIT分野では、医療施設の業務効率化をサポートするレセプトコンピューター、電子カルテシステムなど、医師や看護師、薬剤師が日々業務で使用するソフトウェアの開発を行っています。
電子カルテシステムを含む医療情報システムには、患者さんの個人情報(住所、氏名、生年月日、保険証の情報など)だけでなく、医師の思考過程や診断内容(いわゆるカルテに記述する情報)が記録・保存されています。後者の内容について、最近の電子カルテではPOMR(Problem Oriented Medical Record:問題指向型診療録)に従って、SOAP形式で記載することが一般的になっています。
Subjective:患者さんの訴えや病歴、主観的事項、自覚的症状など
Objective:身体の診察所見、検査の成績などの客観的事項、他覚的所見
Assessment:医師による診断、考察、評価、判断
Plan:治療計画と方針
こういった診療データの利用には、大きく一次利用と二次利用に分けられ、一次利用はその患者さんの診療にあたって必要な範囲、例えば、本人への治療方針の説明や家族への説明、院内の看護師や薬剤師など診療に必要なスタッフ間での情報の利用など、医療従事者の守秘義務の範囲でデータの利用が行われます。
診療データの二次利用については、患者さんの診療や治療そのものには直接的に関係しないようなデータの利用、例えば、患者数や収入など施設の経営のためのデータ分析、行政などへの症例報告、学会での研究のためのデータ分析などがあります。上記の通り、医療情報システムに保管されているデータは、患者さん個人に属する個人情報や医師の思考過程や診断など、患者さんにとっても、医師にとっても非常にセンシティブな情報が含まれているため、特に管理や利用については、政府による法規制、データやシステムの管理についてはガイドラインにより厳しく制限されています。
一方で、医療データの利活用についての期待も大きく、疾患や治療ごとのROIの見える化、AIを活用した診断支援、新しい診療のエビデンスの発見などに向けて、次世代の医療データの活用基盤について国を挙げた議論と取り組みが進んでいます。
当社としては、電子カルテや薬歴システムを開発するメーカーとして、将来のデータ活用に寄与するようなシステムの開発、提供を通じ、医療従事者に頼られる存在を目指し、健康を願うすべての人々にとって、なくてはならない企業を目指しています。
松村 一世(まつむら いちよ)
PHC株式会社 メディコム事業部 マーケティング部 部長
大阪府出身。大阪大学基礎工学部にて情報工学専攻。同社入社後、レセプトコンピュータのプログラム開発、電子カルテシステムの企画・開発、保険薬局向けシステムを含む医療ITシステムの商品企画を経て、現職。