JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。今回、バトンを受け取ったのは、エーザイ株式会社の瀬能敬司さんです。
「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」理念で、人々の健康と医療を支える
日本データマネジメントコンソーシアムの皆さま、初めまして。エーザイ株式会社の瀬能です。当社は、患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献することを企業理念とする、医薬品の製造・輸入・販売会社です。この「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」理念のもと、人々の「健康憂慮の解消」や「医療較差の是正」といった、社会善を効率的に実現することを目指しています。
2021年4月よりスタートした中期経営計画「EWAY Future & Beyond」では、当社が貢献すべきヘルスケアの主役を、医療領域のみならず、日常領域で生活する人々にまで拡大しました。アンメット・メディカル・ニーズ(いまだ満たされていない医療ニーズ)が極めて高く、当社が最も強みを持つニューロロジー(神経学)領域とオンコロジー(腫瘍学)領域に立脚したサイエンスおよびデータに基づくソリューションを創出し、それらと他産業との連携によるエコシステムの構築を通じて、人々の「生ききる」を支える「hhceco(hhc 理念+エコシステム)企業」へと進化することを目標としています。
これを実現する上で中核となるのが、「エーザイ・ユニバーサル・プラットフォーム」です。具体的には、ベンチャーやアカデミアと連携して生み出される新規治療薬やデータを基にソリューションを創出し、自社のネットワークや他産業とのコラボレーションを通じて、日常と医療の領域で生活する人々にお届けします。当社において、データはこのプラットフォームの根幹であり、イノベーションを生むための重要なアセットとして位置づけられています。
エーザイのデータ利活用の基本であり大原則である「hhcフェアウェイ」
当社ではデータ利活用に関して、以下の5項目をポリシーとして定めています。
1. 法令・コンプライアンスの遵守
2. hhc 理念の追求
3. 社内外関係者との信頼構築
4. ガバナンスの実行
5. イノベーションの加速
データを利活用する際、その目的は必ずhhc 理念が定める範囲の内にあり、これを逸脱してはなりません。また実際にデータを扱う時にも、そのデータを提供してくださる患者様や生活者の皆様(“The People”)との信頼関係を維持すること、そこに関係するすべての原則とガイドラインを守ること、これらを総称して、「hhcフェアウェイ」と呼んでいます。
例えば、認知症に関するデータは、将来的な認知症予防や診断、治療、そしてケアのためのソリューションパッケージ開発に使用するといった具合に、データ利用の目標は、ゴールまでの道のりにかかわらず、hhcフェアウェイの範囲内に収まっていることが厳格に求められます。
hhcフェアウェイを逸脱する目的での利活用は、”The People”からの信頼を失うことにつながり、到底許容されるものではありません。もちろん、当社のデータを利活用したいと要望される企業があった場合にも、hhcフェアウェイに則って使用してもらう必要があります。このように、hhcフェアウェイは当社のデータ利活用の大原則として、いかなるデータ利用にも適用されます。
データドリブンイノベーション:
エビデンスに基づいたデータ利活用で、当社独自のソリューションを開発・提供
エビデンスにもとづく効果的なソリューションを、“The People”の方々に迅速に提供するためには、データ利活用による知の創造が、すべての事業領域に求められてきます。私たちは、患者様や医療関係者を含む、社会の人々と約束したビジネスを達成する義務を担っています。
その実現のために、これまでもデータ提供者の協力を得てデータを入手、活用し、治療薬を柱とするさまざまなソリューションを提供してきました。こうした多くの方の同意のもとで生み出される、当社独自のデータアセットこそが、新たな知識創造の鍵となります。これを適切な形で活用して、薬創りを超えた新しい価値あるソリューションパッケージを人々に提供していきます。
データの拡大利用:
hhc 理念をもとに適切な拡大利用を行い、人々の共感と信頼を獲得すること
データの中でも、いわゆる臨床試験データなど、非常に厳格な取り扱いを求められるのが、要配慮個人情報を含む一連のデータです。これらは各々の国や地域の法律、レギュレーションで厳重に保護されており、原則として当初の目的に即さない利活用はできません。ただし個人情報を匿名加工することで、より幅広いデータ利活用が可能になります。当社では、これを「拡大利用」と呼んでいます。
もちろん拡大利用が可能と言っても、その目的はhhc 理念を遵守したものであり、「”The People”のベネフィット向上を意図したビジネスを遂行すること」でなければなりません。また、たとえデータが個人情報を含んでいなかったとしても、”The People”からの共感を得られない目的での利活用は絶対に許可されません。
データの不適切な利活用は人々に不安や疑念を抱かせ、社会的批判を呼び起こし、結果的に法的リスクはもちろんのこと、会社やブランドの信頼失墜など、ビジネスに多大な影響を及ぼします。そうした事態を招かないためにも、データの利活用は、あくまで”The People”の憂慮を取り除くこと(例:アルツハイマー病になりたくないという想いに応えること)を目的に、当社にしか生み出せない新たな知をお届けすることを、常に意識する必要があると考えています。
全社統一のデータガバナンスの構築:
データ利用者を適切に導き、社内外から信頼、評価されるエーザイ・データ・ガバナンスの構築~
hhcフェアウェイに準拠したデータ利活用を促進するためには、①データ利用者が法令を遵守する ②適切かつ円滑にデータを利活用できる ③データ管理者が安心してデータを提供できる といった体制やプロセス、手順などの仕組みが不可欠です。
またデータを利活用する「目的」は、しかるべき視点から多面的に評価を行い、その適切性を保証する必要があります。さらに、データ利活用時の評価を効率的に進め、コンプライアンスリスクを最小限に抑えるためには、学びや経験を蓄積して共有することも重要です。また、データ利活用における信頼構築のためには、セキュリティやインテグリティを確実にすることはもちろん、データライフサイクル全体を通じて、あらゆるプロセスの透明性を高めることが重要です。
さらにデータ提供者、患者様、アプリ利用者等の人々に対し、積極的に私たちの活動を開示して信頼を構築すること、同時に、協業パートナーに対しては、hhc 理念に賛同し、適切な契約に基づきデータ利活用できる相手かどうかを正確に見極めることが重要です。あらゆるリスクを最小化し、適切な信頼関係の下で効率的かつ円滑にデータ利活用を進め、新たな知を迅速に提供するために、全社統一のエーザイ・データ・ガバナンスが必要不可欠です。
社内にデータガバナンス委員会を設置して、イノベーション推進を支援
当社では、上で紹介してきたデータ利活用促進とその環境構築のため、専門の委員会を設けています。また併せてその下部組織に、複数組織の関係者から構成されるデータ利用提案の評価チームを設置し、社内のあらゆるデータ利用提案の決議、相談に応じています。こうしたガバナンス体制の整備・運用によって、データ利用におけるhhcフェアウェイの社内浸透とデータ活用促進を推進しています。
もちろん、こうしたデータ利用におけるデータガバナンス体制を構築した後も、継続的に法律の改訂や新たに発行されるデータ関連規制などへの対応を推し進めています。データ利用によるイノベーション創出のために、常にデータガバナンスは進化していかなければなりません。こうした当社の取り組みに興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひ気軽にお声がけいただければ幸いです。
瀬能 敬司(せのう たかし)
エーザイ株式会社
チーフデータオフィサー付
データガバナンス推進担当
1989年、東京理科大学大学院薬学研究科を卒業して、エーザイ株式会社入社。製剤研究職を経て、2012年、プロダクトクリエーション本部推進部推進グループ長。2013年、製剤研究部長。2021年より現職。薬剤師。千葉県出身