日本データマネージメント・コンソーシアム

会員コラム

【Vol.116】スマートグラフ合同会社 西岡健一さん──ドラッカーの「マネジメント」に学ぶ、データ管理の考え方

JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、スマートグラフ合同会社・西岡 健一さんです。


スマートグラフ合同会社の西岡と申します。

今回は経営学の古典であり、多くのビジネスリーダーに影響を与え続けるピーター・F・ドラッカーの「マネジメント」について、特に「組織運営におけるデータの利用」という側面から、私の考察を紹介させていただきたいと思います。

本題に入る前に、少し私のキャリアについてお話しします。1990年代にWeb系プログラマーとしてスタートし、2010年にはソーシャルゲームの波に乗り、データエンジニアおよびサイエンティストとしての道を歩み始めました。

その後はWebメディアの効果測定からマーケティング戦略立案、Web広告商品の開発、セールスデータサイエンスなどを経験し、直近では、昨年末までデータエンジニアリングのSES企業での取締役COOとしての経験を経て、さまざまな組織とプロジェクトの指揮をとらせていただきました。
キャリアを重ねるごとに、責任者としての決断を迫られることが多くなり、そうした際に頼りにしてきた書籍の一つが、ドラッカーの『マネジメント』になります。


ピーター・F・ドラッカー (著)・上田 惇生 (翻訳)/マネジメント[エッセンシャル版] – 基本と原則/ダイヤモンド社 (2001/12/14)

本書は、発刊から50年経った今でも“経営学の名著”と言われるだけのことはあり、その内容はビックデータ・AI全盛期の現在でも通用する内容で、多くのビジネスパーソンや経営者にとって貴重な指針を提供し続けています。

ドラッカーは「効果的な経営とは何か」「組織が直面する主要な課題は何か」「マネジメントの使命とは何か」という根本的な問いに対して、深い洞察と実践的な答えを提示しています。特に組織におけるデータの利用に関しては、彼の見解は現代のデータドリブンな経営環境においても、非常に関連性が高いと思っています。

データを活用することの重要性は、今やどの組織でも共通の認識となっていますが、そのデータをどのように管理し、どのように意思決定に役立てるかは、組織の成功を左右する重要な要素です。

ドラッカーは、情報を経営の中心に据えることの重要性を説き、正しい情報が、正しい時に、正しい人の手に渡る──ということの価値を強調しており、これは現代のデータマネジメント戦略を考える上でも、まったく遜色のないものだと思います。

ドラッカーの「マネジメント」では、データ管理について以下のように述べられています。

データ管理能力そのものの向上に結びつけるには、3つの特徴がある。
(中略)
1. 管理手段は純客観的でも純中立的でもありえない
2. 管理手段は成果に焦点を合わせなければならない
3. 管理手段は測定可能な事象のみならず、測定不能な事象に対しても適用しなければならない

書籍『マネジメント 基本と原則』より引用

この3つの特徴について、自分なりに意訳といいますか、以下のような解釈をしています。

データ管理の根本問題は、「いかに管理するか」ではなく、「何を測定するか」にあり、管理手段の選択や利用方法は、必ずしも客観的や中立的にはなりえません。

この客観性や中立性については、データ管理者が何を価値あるものと見なし、何に焦点を当てるかに大きく依存することになります。

例えば、顧客満足度を高めるためには、単に売上高を測定するのではなく、顧客のフィードバックやサービスの質に焦点を当てる場合がありますが、この判断は、組織がどのような価値を提供しようとしているかに基づいています。したがって、データ管理の戦略を立てる際には、測定する側の指標の選択が非常に重要となります。

データ管理は、組織の目標達成に寄与する成果を生み出すために存在します。したがって、データ管理のプロセスや手段は、常に組織の最終的な成果に焦点を合わせる必要があります。

そういう意味では、データ管理を行う対象は社内のデータだけではなく、市場動向、競合情報、社会的トレンドなど、多様な外部データを収集・分析することが求められます。この外部のデータの取得というのは、入手が難しく労力も多い作業となりますが、データの測定を正しく行う上では、極めて重要なタスクとなります。

ドラッカーの時代では、外部データの取得は極めて難しい業務だと言われていましたが、現在ではSNSのトレンドデータや各種オープンデータがAPIを通じて容易に取得できるため、技術を駆使してデータを取得し、成果に焦点を当てながら計測していくことが肝心となります。

データ管理で重要なことは、定量化可能なデータだけでなく、定量化が難しい要素にも対応する必要があります。

例えば、従業員の満足度や組織文化といった「ソフトな」要素は直接的には数値化しにくいものの、組織のパフォーマンスや持続可能性に大きな影響を与えます。これらの測定不能な事象に対しても、データ管理の手段を適用し、理解しようとする努力と工夫が必要となります。

これができるか?できないか?により、そのプロジェクトの成功/失敗の明暗が分かれることになるでしょう。

これらが自分なりに解釈した、ドラッカー流のデータマネジメントについてとなります。執筆された時期の50年前とは時代背景や技術も全く異なるため、古くさいというか基本的すぎる感はありますが、組織運営という観点でのデータ管理という意味では、本質を突いた名著だと改めて考えさせられました。

もちろん実務という意味では、「DMBOK」の方がより具体的で詳細にまとめられており、間違いなくこちらを優先して学ぶべきだと思います。

ただ、マクロの視点で俯瞰したデータ管理を理解するという意味では、ドラッカーの「マネジメント」も参考になるはずです。興味がありましたら、ぜひ目を通してみてください。


西岡 健一(にしおか けんいち)
スマートグラフ合同会社
代表社員

1997年にシステムエンジニアとしてキャリアをスタート。2011年よりデータエンジニア・データサイエンティストとして活動を始める。ソーシャルゲームのデータドリブン運用、主要メディア会社でのデータ分析基盤の構築、オンプレミスからGoogle Cloudへのシステム移行、セールスデータサイエンティストなどを経験し、その後は株式会社データ・エージェンシーの取締役COOに就任、2023年12月に辞任する。現在はスマートグラフ合同会社の代表社員として活動を行っている。

<関連サイト>
データ分析 西岡健一 YouTubeチャネル
https://www.youtube.com/channel/UCZLTaI46BQxkiooEZzSKFKw

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