JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、三菱UFJ信託銀行 桑原哲也さんです。
皆さんこんにちは。オルタナティブデータ推進協議会 の事務局で広報・渉外グループのリーダーを務めております桑原と申します。本協議会は今年の7月にJDMCに入会いたしました。どうぞよろしくお願いいたします。
今回のコラムでは、本協議会の設立経緯や活動内容などをご紹介できればと思っております。
投資判断の可能性を広げるオルタナティブデータ、日本で活用が進まない3つの理由
「オルタナティブデータ」というと耳慣れない方もおられると思いますが、金融機関が投資判断にデータを活用する中で、従来から使われている定型的なデータ(企業の財務情報や金融統計など)をトラディショナルデータ、それ以外の非金融のデータや非定型のデータをオルタナティブデータと呼ぶのが一般的です。例えば、POSデータや気象情報、衛星画像、特許情報、位置情報、SNSなどがそれに該当します。これまで使われてこなかったさまざまなデータが、テクノロジーの進歩によって、今後オルタナティブデータとして活用されるようになっていくとみられています。
(参考記事)【オルタナティブデータって何?】
投資判断の最前線、新たな経済指標を用いた資産運用事例<https://sorabatake.jp/27566/>
逆に企業の財務情報や金融統計といった、従来から使われている定型的なデータはトラディショナルデータと呼ばれます。これまで使われてこなかったさまざまなデータが、テクノロジーの進歩によって、今後オルタナティブデータとして活用されるようになっていくとみられています。
このオルタナティブデータ、グローバルで見ると、欧米を中心に右肩上がりに利活用が進んでいるのですが、日本は残念ながらこの波に完全に乗り遅れています。
なぜ活用が進まないのか。資産運用の観点で考えてみると、概ね3つの課題に集約されることが分かりました。
①他社のデータを扱う際に解決すべき「レギュレーション」の問題
金融機関の運用担当者がオルタナティブデータを購入しようとすると、さまざまな点で検討が必要となります。コンプライアンスやプライバシーの観点、インサイダー規制上の問題はないか、当該データを提供するプロバイダーのデューデリジェンスなど……。
そういったハードルを運用担当者は一つ一つ丁寧にクリアしていく必要がありますが、途方もない時間と労力を費やす可能性もあり、途中で断念せざるを得なくなることもあるでしょう。
②データを分析できる人材の不足
投資判断にまつわるデータ分析は、データの分析能力だけでなく、金融・経済を分析する知識も必要です。両方を兼ね備えた人材は希少で、どこの業界でも不足しています。
仮に数人雇えたとしても、データ分析の実務においてデータクリーニング、加工・補正などの前処理にはかなりの手間がかかるため、データ分析の専門部署のような組織がない限りはできることに限界があり、雇用側も人材を持て余してしまうのです。
③オルタナティブデータは「ROI」が示しにくい
使えるデータが増えても、投資判断の精度がどれだけ高まるのか、その相関を示すのは非常に難しいです。ROIが示しにくいことから、オルタナティブデータの購入において、社内で承認を取り付けるのは骨の折れることだと思われます。コストを極限の水準にまで引き下げたパッシブ運用が全盛の中、データ購入の予算をどこから工面するかについても頭を悩ませることでしょう。 これらの課題を解決すべく、業界団体として設立することとなったのがオルタナティブデータ推進協議会です。一昨年の夏から構想を練り、2021年2月に法人を設立し、同年4月より本格的に活動を開始しております。
毎週水曜日に勉強会を開催、200人規模で行う外部向けイベントも
本協議会のルーツですが、とあるワークショップに私が参加していたとき、オルタナティブデータをテーマとした会が大変好評で、「これは業界横断的な団体を作って取り組んだ方がよい」という流れになったのがきっかけです。私自身も、三菱UFJ信託銀行として、この領域は押さえておかないと機会損失になると考え、当時の部長に相談しました。
結果、当社が関わる意義として「今後、当社が介護、高齢者の認知機能低下、気候変動、地方創生などの社会課題の解決に資する新規事業を進めていくにあたり、オルタナティブデータの利活用が重要になる」ということで了解いただき、私が所属するフロンティア戦略企画部が窓口部署となる形で、本協議会に発足時より入会することとなった、というのが経緯です。
本協議会では前述した課題などに基づき、4つの委員会を置いていますが、紙面の都合上、今回は「理解醸成委員会」の活動をご紹介したいと思います。
具体的な取り組みとしては、週次勉強会や外部向けイベントの企画・運営です。
週次勉強会は、本協議会の設立以降、毎週水曜日に開いている会合で、主にデータプロバイダーの会員企業から取り組みや課題をご紹介いただいています。Q&Aセッションでは、オーディエンスとして参加している他の会員から鋭い指摘や良いアイデアが飛び出すこともあります。 外部向けイベントの方は、依然コロナ禍ということもあり、これまでオンラインで開催してきました。2021年10月から翌3月、そして2022年の7月から9月にかけ、毎月テーマを立ててイベントを企画しました。登壇者はもちろんのこと、ウェビナーの運営も会員メンバーで行っているため「手作り感」満載ですが、それなりに好評を博しておりまして、毎回200人前後の申し込みがあります。
会員数は90超、新サービスの立ち上げなどのコラボレーションにも期待
現在、本協議会に入会済みの企業・団体の会員数は90を超えました。設立当初の会員数が20でしたので、約4.5倍まで拡大したことになります。資産運用領域にとどまらず、不動産会社や保険会社、事業会社などにも入会いただいており、メンバーのバラエティに富んだユニークな団体になっていると感じております。
多様な企業が集まっているため、本協議会は「ビジネスコラボレーションスペース」としての価値も生まれてきています。
例えば、会員企業のデータプロバイダー同士がそれぞれ開発したオルタナティブデータを組み合わせて新しいサービスを確立するということも次々に起こっています。これは大変意義のあることだと思いますし、今後もこの傾向が続いていくことを期待しています。
当社のような企業が本協議会に参加する意義といたしましては、インナーサークルに入ることでさまざまな知見を得たり、各企業の本領域における窓口となり得る方にピンポイントでアクセスできる、リレーションを構築できるといったところが大きいと考えています。
私は本協議会、そしてJDMCのネットワークをうまく活用しながら、新しいデータビジネスを創りたいと考えています。これまでいろいろと検討してきましたが、当社単独という形にこだわらず、パートナーと協働する形で創り上げていく方が、世の中に受け入れられる価値の高いサービスを生み出せるのではと考えています。ぜひ、皆さまの知恵をお貸しいただけますと幸いです。
桑原 哲也(くわばら てつや)
三菱UFJ信託銀行 フロンティア戦略企画部/オルタナティブデータ推進協議会 広報・渉外グループリーダー
三菱UFJ信託銀行(株)にてバンクポート運用・金利ディーリング運用に従事。2008年4月から国際金融情報センターに出向。G7を中心とした経済・金融市場の分析、レポート執筆、講演などを行う。2010年4月に三菱UFJ国際投信(株)に出向。外部委託FM、新興国債券FM、商品企画・マーケティング業務に従事。2018年10月に三菱UFJ信託銀行(株)に帰任し、フロンティア戦略企画部に配属。インフラビジネス室にて太陽光発電所のソーシング・投資、ファンド化を約4年間手掛け、現在はデータビジネスをはじめとした新規ビジネスの創出を担っている。