JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、トライアルカンパニーの西川晋二さんです。
彼我の差を埋めて、データの戦略的活用で世界をリードする日本へ
JDMCの皆様ならびにご関係の皆様、今月のJDMCリレーコラムのバトンを受け取りました西川晋二と申します。
私は九州、福岡を本拠とする流通小売企業、株式会社トライアルカンパニーでグループCIOの役割を担当しております。
JDMCへ参加させていただき、1年くらいになります。私の職務での責任分野、流通小売企業のIT活用、諸々の分野がある中、特に今、「データの分析・活用」に力を入れて取り組んでおります。この取り組みにおいて、他ユーザー企業の方々、関係のシステム、サービス提供企業の方々との交流を求めて参加させていただいた次第です。諸々のセミナー、研究会、情報交換を通じ、だんだんと目的に沿った成果が得られつつあり、今、ここに参加させてもらっている意味合いをポジティブに感じ始めております。
JDMCは、比較的広い「データマネジメント」を対象課題に掲げられています。これについては、この種のコンソーシアムにふさわしい取り上げ方であるかと思われます。その広い範囲の中で、私としましては、「ビッグデータ」と「データサイエンス」を主だった興味の対象分野としております。
このコラムでは、これらの分野において、私自身、この数年間で取り組んで来たこと、および知り得た情報などから、今思うところを記述させてもらいます。「ちょっと、そんなに大きく考えても……?」と笑われそうですが、あえて、IT分野における、米国と日本における、彼我の差。この問題が、ビッグデータやデータサイエンスの分野でもやはり大きく、水を開けられ、追いつけない状況になってしまうのではないかという危惧。このことについて思いを書かせてもらいます。ただ一方では「まだまだ捨てたものではないよ」の思いもあり、そのことも忘れず記さねばとも思っております。
私が、いわゆるビッグデータに携わる業界の多くの方々と直接の接点を持ちながらの活動を始めたのは、自社内のデータウェアハウスの改善プロジェクトがきっかけでした。流通企業として、売上データ等々をデータウェアハウスに持ち、そこから種々帳票に出力する仕組みにおいて、データのサイズ、処理の種類、その難度といった観点からそれまで成長させてきました。そこではご多分に洩れずありがちなのですが、パフォーマンスのボトルネックの問題に直面いたしました。およそ4年前のことになります。
これまで自前主義で、システム部隊を内部に持って地道に取り組んできましたが、この問題に直面して解決を目論むにあたり、既存のシステムの延長線上の解決策に求められたのはRDBMSの高度な設計、パフォーマンスチューニング等々です。ユーザー企業として大きなシステム部隊を持ってはおりますが、それらの技術は専門分野ではありません。また、その専門技術のみを切り出すことをSI企業に求めるのも難しいという状況でした。
そんな折、ビッグデータの技術キーワードであるHadoopやNoSQLなどがクローズアップされ始めたのです。そこに着目して、Hadoopに関しては、社内でテスト環境を構築し動かしてみました。「自前で目的とするデータウェアハウス(DWH)基盤の構築ができるだろうか?」「どこかに構築支援を求めればできるのだろうか?」という思案を重ねました。検討の結果、Hadoopは将来、よりデータ量が大きく成長してからの採用がふさわしいとの判断に至りました。
一方で、分散処理の仕組みでDWHのパフォーマンスボトルネックを解決することをうたった複数のソフトウェア製品が米国発で紹介され始めていました。それらでは、これまでのRDBMS製品との差別化要素として、分散処理とスケールアウト型がクローズアップされていました。
そこで、まだ日本には展開していないある1社に注目して、その会社との話をスタートしました。結果としてその会社は、当時、米国の案件で手一杯ということで日本展開を躊躇し、話を継続することができませんでした。ちなみに現在、その会社は大手DWH製品ベンダーの傘下で日本展開を行っております。一方では、すでに日本展開を始めていたもう1社との話をスタート。評価から導入までスピーディーな案件を進め、DWHのボトルネック解消を行うことができました。
この過程では、残念なことに「Made in Japan」の選択肢は見当たりませんでした。この新規分野における、米国の旺盛活発な技術イノベーションとベンチャー企業に依存することが我々として思いあたる選択肢だったのです。
このことは改めてIT分野における彼我の差を実感させられる出来事でした。“改めて”とここで申すのは、このBI/DWHの分野での市場規模の大きな違い(彼我の大差)があり、それまでもずっと感じていたことだったからです。
欧米では、BI分野のポイントソリューションのソフトウェアベンダーと呼ばれる(または呼ばれた)会社として、年商数百億円規模のところが何社も存在し、競合、M&Aなどでダイナミックな一大業界を形成しています。一方、日本にはその手の会社はいまだ数少なく、規模も小さいです。かつ、米国製のソリューションも含めての日本におけるBI/DWHの市場は、長い間、米国の10%も行かないというのが実態でした。
この違いはそのまま、企業がデータを分析し活用している事の裾野の広がりと、その深さにおいて、きっと大きな彼我の差があり、それを反映しているのであろうとの思いでいます。
加えてもう1つのトピックとして、米国でのデータサイエンス分野におけるベンチャー企業の台頭のダイナミックさを垣間見たことも述べたいと思います。
データサイエンス分野の世界先進市場である米国において、展開規模の面でトップを走っている企業、ミューシグマ(Mu Sigma)と話をする機会がありました。彼らは3,000名規模のベンチャー企業で、約400名が米国、残りの約2,600名がインド拠点で仕事をしています。いわゆる、オフショアアウトソーシング、システム開発やBPOにおけるモデルと同様の展開です。いち早く、データサイエンスにおける同様のアウトソーシングモデルを急速に確立し、また急速に進化発展させていることに感銘を受けました。数学が得意で、かつ幼少の頃から特訓されると言われるインドの人々には、むしろシステム開発より、このデータサイエンス分野のほうがより向いているのではなかろうか、との想像もはたらきます。
一方で、このデータサイエンスの分野において、日本で奮戦しているベンチャー企業群のトップクラスの規模については、上記したミューシグマの10分の1以下です。ここにすでに「10Xの彼我の差」が生じています。あともう1社、400名規模の米国データサイエンス企業とも話をする機会がありましたが、こちらも社員の80%以上がインド拠点でした。聞くところによると、やはりこのデータサイエンス分野において、こういったオフショアモデルは、どんどん広がっているとのこと。また、既存の大手IT企業、コンサルティング企業も同じ傾向にあるようです。
ITにおける技術の根幹なるものは、米国において、ベンチャー企業群が営々と産みだし、発展させ続けます。それらを活用し発展させる段においては、圧倒的なダイナミズムで、グローバル人材を活用して展開し、急速に発展させる姿です。
さて、ここまで述べさせてもらいまして、私たちはこの「彼我の差」についてどうとらえていけばよいのでしょう。まず、展開スピードとそのスケールにおいて、「この彼我の差を縮めて追い越せ!」というようなことは不可能と割り切らねばならないのか、と思います。
冒頭にまだまだ捨てた物でもなく……と述べました。これは、データサイエンス分野で活用されるテクノロジー分野においては、日本発信による貢献が、欧米(特にシリコンバレー)が牛耳る世界に一石を投じることができるのではないかの期待があります。いくつかのベンチャー企業が果敢な挑戦をしていることが、その思いのよりどころです。
このデータサイエンスの分野は、何と言っても「成果があっての物だね」です。社会や企業、人々の暮らしや産業が、その恩恵を受けてよいものにならなければ意味がありません。残念ながら、主要先進国の中で日本は、これまでのIT活用による効率化(特にサービス産業分野)において遅れを取っています。今、この数多あるデータの分析と活用が多くの分野で戦略的に重要であり、その活用可能性のある分野、改善・効率化を図るべき分野が見え始めていることには疑いがないと信じます。
ここは、ぜひとも、ユーザーと位置づけられる企業、機関、個人にいたるまでが、データ分析・活用やデータサイエンスを“戦略的手段”としてしっかり役立てる、そして改善・改革を成し遂げる、という目論みを持つことが最も重要ではないかと考えます。言い換えますと、業務システムや情報システムとしてのIT活用において遅れを取り、開いた差=ギャップを、データサイエンスの分野で“倍返し”していくという思いです。
日本企業の場合、データ活用の“質と活用の達成度合い”では、欧米を上回るポテンシャルを持っていると思います。今、この手のIT活用による改善・改革が未達の領域は多く、他の先進国に比べての未達の幅も大きいのではないかと考えます。すると、ことデータサイエンスの分野においては、この彼我の差を埋め、そして追いつき、最後は逆にリードするということもあながち不可能ではない、との思いに集約されます。
人が何かを成そうとする際、思い描いた以上に到達することはありえません。この、データサイエンスの分野においては、その恩恵をフル活用し、その度合い、産業や人々の暮らしがよくなる度合いについては、IT活用で先行する多くの国に、“いずれ倍返しのリード”を獲得する――このことは、今の我々にとって、きっとよいビジョンになるのではないでしょうか。
この場をお借りして、今の思いを述べさせてもらいました。JDMCには、ユーザー企業、システムベンダー、コンサルタント企業等々、多士済々です。JDMCが“彼我の差”を埋める、中長期の逆転劇の基点となっていけば最高ですね。以上をもって、私のリレーコラムとさせていただきます。
西川 晋二(にしかわしんじ)
株式会社トライアルカンパニー グループCIO
九州を拠点に全国に展開する流通小売企業、株式会社トライアルカンパニーの情報システム責任者として、システム改革を推進。前職は、米国ソフトウエア企業の日本法人代表。および、松下電器産業(現PANASONIC)にて、一貫して海外事業を経験。その間、米国シリコンバレーに出向、データストレージ機器の開発営業で米国コンピュータ市場のダイナミックな変革を体感、その後はなにごとにも、変革にチャレンジする事を信念として取り組んでいる。