日本データマネージメント・コンソーシアム

会員コラム

【Vol.123】富士通株式会社 鈴木庸介さん─データ利活用を加速するメタデータ──人間系を超えて

JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、富士通株式会社 鈴木庸介さん です。


皆さま、こんにちは。富士通株式会社の鈴木庸介です。2018年からJDMCに参加し、MDM&データガバナンス研究会に参加しています。

先日のJDMCの年次総会では、私のお客さまの小野里樹さんとともに、データマネジメントを導入した基幹システム再構築の実践経験をまとめた書籍「DX Ready 基幹システム刷新術」の発刊記念で、特別講演を行わせていただきました。初めて私を知った方、どうぞよろしくお願いいたします。

今回のコラムでは、私の現場経験を踏まえて、データ利活用とメタデータのお話ができればと思います。特にユーザー企業のDX部門、データマネジメント組織、情報システム部門の皆さまのメタデータ管理の参考になれば幸いです。

●ウォーミングアップ

本題に入る前に、少しウォーミングアップです。突然ですが、この数値の羅列、一体何のデータだと思いますか?

8, 36, 194, 495, 3614, 6174, 8110

ほとんどの人が、この数値の意味がわからないかと思います。

このデータには私に関するデータが含まれていて、いくつかのグループに分けることができます。

8, 36
194, 3614, 8110
495, 6174

それでもピンと来ない人がほとんどでしょう。ただ、もしかしたら「世代だから分かる!」とか「数学で学んだ!」と、自分の経験から何かしら解釈できた人もいるかもしれません。しかし、このデータの意味をすべて理解できている人は、この時点でまだ私以外にはいないはずです。

では、それぞれのグループにラベルと説明を付け加えてみましょう。

私の好きな数8, 36
ポケベル暗号194(いくよ), 3614(さむいよ),
8110(バイト)
カプレカ数495, 6174

私の好きな数は完全に個人的な好みです。ポケベル暗号は懐かしい人もいますよね。私が大学生の頃に流行っていました。カプレカ数はちょっとマニアックな数です。不思議な性質を持っていて、こういったものに私は興味を惹かれます。気になる方は調べてみてください。

これでデータが何を表しているのか、理解できたのではないでしょうか?私に関することも少し伝わったかと思います。でも、分かったところで「別にどうでもいい情報だったな」と思った人もいるかもしれません。

実はこのデータを通して、私に関すること以外に、皆さんにお伝えしたいことがありました。

・数値の羅列だけでは、それが持つ意味が伝わらないことが多い

・分類やラベル、説明が与えられることで、初めてデータの意味が理解でき、情報として認識できる

・興味や関心がない情報と分かると、すぐに「どうでもいい」と感じてしまう

つまり、「データは説明や解釈によって初めて意味を持ち、それが私たちにとって興味深い情報になるかどうかは、主観的に判断される」ということです。データに対する説明や解釈を「メタデータ」と呼ぶと、データ、メタデータ、そして情報の関係は「データはメタデータによって意味を持つ情報となり、情報の価値判断は人に依存する」ということになります。

データマネジメントの世界では常識かもしれませんが、この辺の感覚を皆さんと共有できたところで、長くなりましたが本題に入りたいと思います。

●データ利活用が失敗する理由を「メタデータ」から考える

これまで私は、多くの企業でデータ利活用がうまくいかないケースを見てきました。その原因をメタデータという視点から考えてみたいと思います。

(データガバナンスの不足やチェンジマネジメントの不足など、他の原因も考えられますが、メタデータにフォーカスするため、今回はあえて触れないことにします)

以下の事例は、実際に私が見たさまざまなケースを参考に、架空で構成したものです。特定の企業や活動とは関係ありません。

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ある企業では、トップがデジタル変革を推進し、データ利活用による業務改善を目指していました。現場の課題を解決するために、特定のデータを用いたPoC(概念実証)を実施し、その成功を踏まえて、全社的なデジタル基盤が構築されました。デジタル基盤が構築されたことで、データ利活用者は、さまざまなデータにアクセスし、自由に加工、集計、共有できるようになりました。

しかし、想定していたほどデータの種類は増えず、データ利活用は思うように進みませんでした。データ利活用者は「データの意味が分からないので、必要なデータを選べない」と困り、データ提供者は「データに関する質問が大量に寄せられ、業務に支障をきたしている」と訴えていました。公開されているデータには、ほとんど説明がなかったため、データの意味を理解することが難しかったのです。

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なぜ、PoCでは成功したデータ利活用が、デジタル基盤構築後はうまくいかなくなったのでしょうか?メタデータという視点から考察してみましょう。

PoCは基本的に、扱うデータの種類も関わる人間も本番より少ないもの。そのため、データの意味を理解することが比較的容易だったと考えられます。データの意味や解釈をメタデータとして整備していなくても、会話などの人間的なコミュニケーションによって情報共有が問題なく行われていたのです。

しかし、全社的なデジタル基盤ではデータの種類がPoCよりも大幅に増えます。にもかかわらず、データの説明が不足していたため、データ利活用者はその意味を理解できずに苦労していました。

データの説明がなければ、データに詳しい人に頼って、一つずつ意味を理解していくしかありません。仮に意味が理解できても、そのデータが役に立たないことが分かったら、最初からやり直し。このような状況が続き、データ利活用者はデータの意味を理解するのに疲れてしまい、データ提供者は、同じ質問を何度も繰り返されることにうんざりしてしまったのです。

結局のところ、データの種類が増えても、データの理解をメタデータではなく、人間同士のコミュニケーションに頼ってしまったため、データ利活用がうまくいかなかったと考えられます。

メタデータが不足している状況では、データ利活用者は以下のような困りごとを抱えることになります。

・データの意味が分からず、必要な情報を見つけられない

・必要な情報が、どのデータから得られるのかわからない

一方のデータ提供者も「同じ質問を何度も受け、業務に支障をきたす」という悩みを抱えることに。これらの問題を解決するためには、データに関する知識が限られた人の頭の中にしかない状態から、誰もがデータについて理解できる状態にする必要があります。

データに関する豊富な知識を持っている人を、私たちは「人間メタデータ」と呼んでいます。彼ら/彼女らは、デジタル変革においてとても重要な存在ですが、この人たちに頼りきった状態では、デジタル変革はうまくいきません。限られた人に負担が集中し、それがボトルネックとなって変革が滞ってしまうからです。

人間メタデータと呼ばれる人に頼りきらず、データに関する知識を共有するには、彼ら/彼女らの知見のうち、必要なものをメタデータとして形式化し、誰でもアクセスできる状態にする必要があります。

具体的には「データ項目の定義や説明」「データ間の関係や制約」「データの利用方法」などをメタデータとして管理します。加えて、メタデータは実際にデータ利活用者に役立つものでなければ意味がないため、メタデータの品質を高めるとともに、データカタログなどのツールを通じて、利用者にとって使いやすいインターフェースを提供することも重要です。

デジタル変革を成功させるためには、データに関する重要な知識を、人間メタデータが抱える状態から、共有可能なメタデータへと移行させることが重要です。これにより、データ利活用を促進し、企業全体のデジタル変革を加速させることができます。

●デジタル変革には「メタデータ管理」が欠かせない

私は、企業が持つ基幹システム(企業活動の中心となる業務、いわゆる基幹業務を支える情報システム)に蓄積された膨大なデータを、システム再構築や利活用ニーズの高まりを契機に解きほぐし、活用しやすくすることで、企業のデジタル変革を支援しています。

具体的には、データモデリングやデータプロファイリングの技術を活用し、データを分析、可視化、再構築し、データの標準化を進め、それらを通じて整備されたメタデータを管理する仕組みを導入することで、企業がデータをより効果的に活用できるよう支援しています。

また、データ利活用を促進するためには、データマネジメント組織の体制とガバナンスが必要不可欠となるため、企業の状況に合わせて必要な役割や人材を明確化し、データマネジメントの実践レベルの向上を支援しています。

企業のデジタル変革を阻む、メタデータ管理をはじめとするデータマネジメントの難題の解決に貢献し、JDMCに参加する皆さまと共に、データの力で明るく楽しい未来を創り出していきたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。


鈴木 庸介(すずき ようすけ)
富士通株式会社
ジャパン・グローバルゲートウェイ DX Engagement Division

大手企業向け基幹系・情報系システムの企画、開発、維持に10年以上、
データモデリングを専門とした技術整備および技術支援に約10年従事。
現在は、大手メーカーをはじめ様々な企業のデータマネジメントを技術面から支援する。
講演活動などを通じて、社内外でデータマネジメントの普及・推進に向けてまい進中。


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