情報の「有用・無用」を知り、活用する道を求める日々
JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、株式会社アイネスの矢野禎久さんです。
空港から客先へ向かうタクシーの車窓からは、瑞々しい葉を茂らせた木々が立ち並んでいるのが見える。ビニールの天蓋の下にあるその木々の緑の間には、よく見ると真紅の粒が多数混じっている。山形は、本格的なさくらんぼシーズンを迎えていた。
私はITコンサルタントとして、主に顧客企業の中でコンサルティング活動に従事している。顧客は製造業であることが多いため、主力工場の置かれた地方に常駐するばあいが少なくない。前々回は大阪に2年、前回は静岡に半年、そして現在は山形で今のところ半年の客先常駐。マスターデータの移行や整備に関わることが、主なコンサルティング領域となっている。
どの案件でも常駐すると、必ず馴染みの飲み屋ができる。家からは遠く離れ、日々客先とホテルの往復となると、落ち着くことのできる場所を求めてしまうのだろう。そんなサードプレイスのひとつが山形にもある。その焼き鳥屋は、羽州街道沿いではありつつも周りは住宅街で、夜にはここの看板以外は真っ暗。それでもいつも混んでいるのは、炭火で焼かれた焼き鳥が美味しいこととマスターの人柄によるものだ。
先日、仕事が終わった後の遅い時間に入店。混んでいた店内も1時間ほどするとカウンターは私だけとなり、マスターととりとめのない会話をしていた。すると、マスターはお客さんの情報を毎日ノートにメモしているという。すべてのお客さんではないものの、どこの人か、何をしているかといった簡単なメモ書きを残すようにしているそうだ。次に来店したときにそんな情報がスムーズな会話に役にたつとのこと。ただ、必要のない余計な情報は書かないようにしているらしい。たとえば、Aさんの妹の元旦那はBさんだとか、知っているとかえって災いとなるようなことは、極力書かないようにしているそうだ。
「韓非子」にこうある。「知の難きにあらず、知に処する、すなわち難し」。情報を得ることは難しいことではない、むしろ難しいのは得た情報をどのように処理するかということだ。与えられたデータをいかに取捨選択し、どのように処理して、事業に活用していくかをデータマネジメントにたずさわる私たちは考えていかなければならない。
ただ困ったことに「荘子」には、「人みな、有用の用を知りて、無用の用を知るなきなり」とある。一見、無用と見えるものにも、有用なものがあるものらしい。基幹業務のデータマネジメントに携わる私としては、こちらの無用の用はビッグデータのサイエンティストの方たちにお任せして、有用の用をマネジメントすることに注力しよう。
ところで、山形の銘酒「十四代」は地元でもなかなかお目にかかれない。マスターに相談しても、ほとんどが東京に買われてしまっていて入手困難とのこと。こちらの情報は取捨せず広く収集して、十四代を手に入れられるよう情報処理することとしよう。飲まない方からすればこんな努力は真の無用と思われるに違いないが……。
※出典:「韓非子」説難篇/「荘子」人間世篇
矢野禎久(やの よしひさ)
大衆酒場 美好(みよし)の長男として生まれ、家業手伝いで店舗経営を学んだ後、株式会社アイネスに入社。主に要件定義支援、ERPシステム導入コンサルタント、マスターデータ管理支援に従事。趣味は、「易経」研究と立ち飲み。現在、英語と山形弁の学習に注力し、トリリンガルとなるべく奮闘中。