(セミナー部会・脇本 康宣)
2018年7月5日開催の第40回定例セミナーは、アイティメディア株式会社の会場をお借りし、「データ流通とオントロジー」と「業務プロセスとシステムの標準化に基づくグローバルSCM改革」の2つのテーマでご講演いただいた。50席の会場は満席となり、大盛況のうちに終了した。
講演1 「データ流通とオントロジー」
現在、世界で流通するデータ量は30ゼタバイト(ZB)を超え、急激に増加している。2025年にはさらに増加し、人・企業・自然の活動に関するデータが全体の約50%を占めるといわれている。これらの大量のデータを利活用できるようにするためには、データの整理、公開条件の整理、自治権の保障、データの紹介と決済などの仕組みを整備した上で流通させる必要がある。
2018年4月にドイツのInternational Data Spaces Association(以下IDS)がリファレンスアーキテクチャv2.0を公開した。この中にデータ流通に求められる機能が定義されている。DAMA-DMBOKと共通の観点が含まれているが、データを整理する道具立て(ツール)が異なっている。新しいツールを使いこなせば、手持ちのデータが宝の山になるのではないかと北澤氏は語った。
流通するデータを利活用するためには、提供側と利用側との間で対応関係を適切な表現で整理しておくことが重要であり、その整理にはオントロジーが用いられている。オントロジーはグラフベースで表現力があり、リレーショナルより精密で正しい定義が可能である。
言語解析やIoTプロジェクトなど、オントロジーを活用したプロジェクトの成功事例も出始めている。オントロジーはデータマネジメントに関わっている我々がいま知っておくべき技術の1つではないかと感じた。
今回の講演に合わせて、NECソリューションイノベータの早川氏にオントロジーエディター「Protégé」の使い方に関するわかりやすい動画を作成していただいた。みなさまにも動画を見て実際にツールを触っていただき、オントロジーを体験していただきたい。
「オントロジーエディター protégéの使い方」(JDMC YouTubeチャネル)
講演2「業務プロセスとシステムの標準化に基づくグローバルSCM改革」
NECプラットフォームズは、NECのものづくり統合会社として、2017年4月にハードウェア開発・生産会社4社・3部門の再編・統合した。その際、顧客価値向上、業務効率化、変動力強化、ITコスト削減等を目的として、業務プロセス標準化と基幹システムも統合した。基幹システム統合においては、個々のシステムが保持するデータをスムーズに移行させることが成否のポイントの1つと言っても過言ではない。今回はデータ移行に焦点を当て、システム統合について事例を紹介していただいた。
会社統合に伴うシステム統合の際、データ移行は非常に難易度が高く、期間も長くなるケースが多い。しかし今回、設計・需給・生産・財務といった製造業の「要」となる複数のシステムを12ヵ月という超短期間で統合できたという点が特筆すべきポイントである。では、なぜ実現できたか? プロジェクトの成否の3つのポイントについて、嵯峨氏は語った。
1.開発規模を極限まで絞り込む
2.従前のプロセスを踏襲せず、既成プロセスの片寄せをする
3.マイルストーンの達成状況をできるだけ数値化して周知する
加えて、データ移行については、移行リハーサルとテストを繰り返し実施することにより、移行データの品質を向上させた。今回の事例では3回程度繰り返すことにより、マスタデータ、トランザクションデータ共に、移行成功率は99%以上を達成した。早い段階から繰り返しリハーサルとテストを実施することにより、不具合を早期に発見し是正できたこともスムーズに移行できた要因である。
近年、VUCA(ブーカ)※という不確実かつ複雑で変化が激しい時代に突入し、企業が競争力を強化するためには、迅速に変化していくことが求められている。今回紹介していただいた事例は非常に実践的な内容であり、興味深い内容であった。
※【VUCA】=「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」という4つの単語の頭文字をつなぎ合わせた造語。
<参加者感想>
・オントロジーに興味があり、普段聞くことのできない学術的な内容で、勉強になりました。 また、オントロジー検索の評価として、(1)見逃さない、(2)無駄がない という2つの視点が利用できそうだと思いました。
・オントロジーは、重要な概念だと理解しました。具体的な内容がないか調べてみたいと思いました。 グローバルSCM改革講演は、統合に伴うシステムの統合の話が参考になりました。
・オントロジーの講演について、データ流通、オントロジーいずれも興味深いテーマとしてお聞きしました。 両者の関係性について、もう少し深くお聞きしたいです。
・前半のオントロジーは正直なところ、私には難しすぎて殆どついていけませんでした。もう少し予習してから参加すべきだったなぁ…と反省してます。 一方、後半の基幹システム統合・標準化は、自分自身も同じような取り組みを行ってきましたので、非常に参考になりました。特に、工期設定については「3年だと長すぎてモチベーションが維持できない。でも、さすがに1年は厳しい。だから、一次集約は2年と設定しました」といったお話は今後に生かせそうです。
・それぞれご経験やご知見がにじみ出るお話しで有意義でした。
・オントロジーのようなレアな話が聞けてとても有意義でした。ハンズオン動画の試みも非常に良かったと思います。
・オントロジーについて、大変興味深く拝聴させていただきました。 ありがとうございました。 今後も動向を注視していきます。
・もともとオントロジー解析に興味があり、オントロジーがどのように用いられているのかを聞くことが出来、有意義だった。 2つ目の講演は、複数ある事業所のシステムを統合するという点で、自分が今かかわっている業務と非常に関連しており、その中で、参考となるキーワードをいくつか教えていただくことが出来、非常に参考になった。
・データ流通とオントロジーは、質疑応答含めて先進的な概念を学べて有意義であった
・オントロジーの講演については、考え方はよく分かったが、もう少し具体的な活用事例も欲しかった。続編があれば是非聴講したい。
・オントロジーの話が、こうした一般的なセミナーで聞けるのが素晴らしいです。JDMCならではと思います。システム統合は語られなかった話が想像できるだけに、語られた以上の価値があると感じました。
・オントロジーの話は難しかったですが、興味深い技術で参考になりました。ありがとうございます。
・「データ流通とオントロジー」は概念的で内容が少し難しかった。NECプラットフォームズ様の講演は(同じ製造業として)参考になり、もう少し具体的な内容も聞いてみたいと感じました。
・オントロジーの表現方法で、モノと概念を関係付ける手法は、今日までのデータモデルの基礎概念を持っていれば理解できることが分かりました。大変ありがとうございました。今後活用していきたいと思います。 第二部のNECグループの変革には感銘を受けました。このスピード感でシステム統合を達成できた要因について機会があればご教示ください。
・オントロジーの話は昔のトポロジーにつながっていると感じた。ただ、具体的な流通のイメージがつかみきれなかった。
・オントロジーについて多様な角度から分かりやすく解説頂けた。次は、データ流通との関係性(オントロジーがないとどうなって、オントロジーがあるとどうなって)に触れて頂けると嬉しい。