2012年12月12日、第14回JDMC定例セミナーが中目黒GTプラザホールで開催された。1つ目の講演では、全国に約460店舗を展開する保険薬局の大手、日本調剤のシステム部長 河野文隆氏、ならびに同社の子会社で処方箋データを生かしたデータ分析と情報提供を行う日本医薬総合研究所 営業企画グループ課長/薬剤師の長尾剛司氏が登壇。膨大なデータ資産の活用に向けた同社の取り組みや、BI基盤刷新の留意点を振り返った。
2つ目の講演では、SAPジャパン リアルタイムコンピューティング事業本部 プリンシパルコンサルタントの村田聡一郎氏が登壇。同社が提供するインメモリーデータベース「SAP HANA」の紹介と共に、膨大なデータを高速処理するメカニズム、データを経営強化に活用する顧客事例を解説した。
◆講演1 「ユーザー部門主導の医療情報活用ビジョン ~未利用データの付加価値創造へ」
日本調剤株式会社
システム部長
河野 文隆氏
株式会社日本医薬総合研究所
営業企画グループ
課長/薬剤師
長尾 剛司氏
直営店を中心に、全国すべての都道府県で保険薬局を運営する日本調剤。同社は先発医薬品(新薬)だけでなくジェネリック医薬品を多く取り扱う。
「データに基づくジェネリックの適時かつ適切な調剤は、当社のお客様である患者さまにとって、多くのメリットがあります。また、我が国の医療費軽減にもつながります」と河野氏は述べた。
同社がこれまでに蓄積してきたデータの総量は、処方箋、服薬指導および薬歴患者プロフィール、医薬品購入などで累計3億件以上に達し、今も400万件/月のペースで増え続けているという。
日本医薬総合研究所の長尾氏は、こうした膨大なデータに分析をかけて得られる価値を次のように説明した。「データから処方せん薬が、いつ、どこで、どのような方に処方されたのかといった、いわば“医薬品の5W1H”が見えてきます。これは、言い換えると医師の診断の結果、患者さまの治療に最も適した薬剤選択の結果です。患者さまに喜んで頂き、同時に診断・治療を行う医療機関や薬を開発・販売する製薬企業にエビデンス(科学的根拠)に基づく報告・提言が可能になります」
続いて、日本調剤で現在取り組まれている各事業でのデータ活用事例の一部が紹介された。
同社では、データの分析結果に基づいた、各保険薬局で取り扱う商品の特性と顧客(来店者)とのマッチングのほか、デジタルサイネージを使って待合室での情報提供を行っている。同一成分であれば、先発薬ではなくジェネリックを薬剤師が勧めることもできる。また、同社によれば、同一の薬剤でも薬局の地域特性や応需する医療機関によって、患者さまへ投与する用量・期間などに差が認められることがデータから判明しているという。医師に対して薬剤に関する情報提供を行う製薬会社のMRに、地域の医療機関ごとに最適なプロモーションが必要であることを提案している。
さらに、ある薬の服薬継続率の低い患者さまのデータを抽出し、薬局で薬剤師が積極的に服薬指導を行うようにしたところ、その後の処方履歴データから、継続率の改善効果が認められた。処方箋通りに服薬していない患者に対する服薬指導は薬剤師の務めだが、データでの裏付けが、服薬指導を行う薬剤師の自信にもつながっている。
「蓄積したデータを分析・活用するための情報システム基盤の選定やシステム構築では、企業内のシステム部門とユーザー部門が密に協業しました」と河野氏は振り返る。単なるBIツールの入れ替えではなく、中長期的な視点のもとでシステム基盤を再構築した。システムに要求されたのは、処理速度や情報の鮮度といったスピード、多変量解析やテキストマイニングなどの高度分析機能、そして、外部データ連携などの多様性への対応だ。製薬・流通企業、医療機関、研究機関など外部との将来的なデータ連携を見込んだインターフェースなどの標準化や、拡張性の確保も視野に入れた。データベースに限っていえば、従来と比較してレスポンスを100倍に向上、コストを1/10まで削減している。
「患者さまからお預かりした大切な情報を有効活用し、付加価値を付けて患者さま・お客様にお返しするのが、かかりつけ薬局としての使命。医療の質的向上や社会貢献のために、今後もユーザー部門として知恵を絞ります」と長尾氏は述べ、講演を締めくくった。
◆講演2 「膨大なデータを即座に管理・分析 ~HANAによる事例」
SAPジャパン株式会社
リアルタイムコンピューティング事業本部
プリンシパルコンサルタント
村田 聡一郎氏
SAPは、主力のERP製品に加え、2007年以降はモバイル、アナリティクス、アプリケーション、DBテクノロジー、クラウドといった新たなソリューション提供領域を拡充してきた。中でも注目されるのが、2010年に提供開始したインメモリーデータ基盤「SAP HANA」である。演算エンジンとデータベースをメモリー上に統合し、リアルタイムにOLAP/OLTPを行えることを謳ったソフトウェア製品である。
「SAP HANAは、もともとERP製品の処理高速化を目的に開発されました。現在では当社が提供するすべてのアプリケーションを高速に動かす基盤製品という位置づけです」と村田氏は説明。「Apache Hadoopとのデータ連携をはじめ、他社ソフトウェア製品に蓄積されたデータを吸い上げてSAP HANAで高速分析できる、といった汎用性を備える」(同氏)という。
「複数の技術が高速処理を支えていますが、最大のイノベーションは、“ディスクレス”のシステムを構築できる点にあります。メモリーとデータベースの間のディスクI/Oにおけるスループットは、CPUキャッシュとメモリー間のI/Oスループットに比べ、10万~100万倍以上も遅いのです。SAP HANAは、ディスク上ではなくメモリー上のデータにアクセスするため、ディスクI/Oがまったく発生しません。これが従来のDBやDWH製品との大きな違いです。システム環境にも依存しますが、『87時間かかっていたバッチ処理時間が3秒に短縮する』というイメージです」(村田氏)。
SAP HANAは、主要ハードウェアベンダーの製品にあらかじめ同梱された形で提供されている。発売から2年で、導入先は全世界で約600社に達する。
続けて村田氏は、ユーザーの導入目的別に大規模データ分析、レポーティング、営業支援、非構造化データ分析、スマートメータ分析などの事例を解説。村田氏は、「現時点では既存DWHの高速化案件が多いですが、今後は基幹業務向けのDB用途を開拓します。OLAP、OLTPを問わず、ユーザー企業にとって大切なのは、業務サイクルを早く回せるかどうか。つまり高速なデータ処理です。HANAはそれを提供するソリューションです」とアピールした。
これら2講演の後、JDMCセミナーの名物とも言える30分以上にわたる活発なQ&Aがあった。詳細は割愛するが、その価値を体感する意味でも定例セミナーに参加して頂きたい。
(文責・柏崎吉一/エクリュ)
▼ 終了後のJDMC会員・松尾光氏によるピアノ演奏会と懇親会の様子