第6回:データ・ガバナンスの現実的な適用の勧め

2013-01-22
――JDMC運営委員/伊阪コンサルティング事務所 代表 伊阪哲雄氏

熱心な歌舞伎ファンの方から見れば、ほんの初心者に過ぎないが、10年ほど前から歌舞伎に興味を覚え、延べ20回ほど通っている。先ごろ他界した中村勘三郎が好きだった。「50歳は歌舞伎の世界では若うございます。端から勉強しなおし、芸道に精進させていただきます」。こう言っていた勘三郎が、50代後半で他界したことはどんなに無念であったか想像に余りある。勘三郎のもう一つ有名な言葉に「型をしっかり覚えた後に、『型破り』になれる」がある。歌舞伎屋号は107種あり、それぞれに『型』があるようである。

ところで、データ・ガバナンスの『型』について考えてみよう。マスターデータ・マネジメント(MDM)やデータ品質の強化については、ベンダー各社からソフトウェア製品が販売されており、特に「型」、言い換えれば方法論が不十分でも、それなりに実践できるだろう。では、データを正しく蓄積し、管理し活用するための包括的な取り組みであるデータ・ガバナンスはどうか?

前回、欧米でのデータ・ガバナンス系ソフトウェア製品に言及し、その中でまだ不十分であると述べた。それはデータ・ガバナンスがソフトウェア製品の機能の問題ではなく、企業や組織の文化、あるいは業種や業務、業態によって異なる情報管理の運用に関わる問題であるからだ。つまりソフトウェア製品がどんなに高度化しようと、そしてどんなに高度なソフトウェア製品を導入しようと、それでうまくゆくわけではないのがデータ・ガバナンスであり、型としての方法論が必要になる理由である。

このため2005年ごろから、北米を中心にデータ・ガバナンスの方法論についての試行錯誤が繰り返されてきた。その集大成と言えるのが、米IBMのエンジニアだったSunil Soares氏が2010年にまとめた書籍「The IBM Data Governance Unified Process」である(現在、筆者が翻訳中)。Soares氏はこの書籍の中でデータ・ガバナンスを次の14ステップと規定している。

1:業務問題の定義
2:役員スポンサの確保
3:成熟評価の実施
4:ロードマップ作成
5:組織構造の原案立案
6:データ辞書策定
7:データの理解
8:メタデータ・リポジトリの作成
9:評価基準の定義
10:マスターデータの統制
(10.1:データスチュワードの任命、10.2:データ品質の管理、10.3:MDM実施)、
11:解析の統制、
12:セキュリティとプライバシの管理、
13:情報ライフサイクルの管理
14:結果の測定――。

これを1サイクルとして1:業務問題の定義に再度戻る。

 当然だが同書は14の各ステップについて具体的な作業内容を説明している。またIBMのソフトウェア製品の紹介もあるが、その記述は少ない。前述したようにソフトウェア製品の問題ではなく、むしろ製品への依存性は低い。それ以上にデータ・ガバナンスは企業や組織などの多様な価値観を含む文化的な領域に踏み込み、歴史・文化的な所産を機能として整理する必要のある、難しい領域に抵触するからである。

ひるがえって日本のデータ・ガバナンスへの認識と現状の取り組みはどうだろう?相対的に文化資産(時系列的・文字文化・社会体制の継承性など)が高いがゆえに、このような型に則ったアプローチが希薄であるように思える。方法論に則ったステップバイステップの取り組みではなく、いきなり成果を追い求めているかに見えるのだ。そうではなく、冒頭で述べた勘三郎の言葉が示す通り、まずは、原則としての「型(方法論)」を習得し、そのうえで自社流の「型破り」を実践することが必要だろう。

─ 伊阪哲雄氏プロフィール ──────────────────────
データマネジメントを専門とするITコンサルタント。1970年、大手コンピュータメーカーに入社して以来、一貫してデータモデリング/設計やデータクレンジ ング、データ統合、マスターデータ管理、データ・ガバナンス組織、人材育成に関わる支援を行ってきた。特に通信業界、医薬業界や、金融業界のデータマネジ メントに詳しい。米国など海外の事情にも通じ、例えば米MDM Instituteが主催するカンファレンスには毎年欠かさず参加している。e-mail: isaka@isaka.com



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