テーマ5「DM実践勉強会」データの利活用概説(2)第2次世界大戦 米軍

2018-11-21

JDMCテーマ5「DM実践勉強会」リーダ 清水孝光

 

前回は、約100年前の第1次世界大戦をとりあげて、航空戦の「データ利活用」による「データサイエンス」の成果によって発見されたランチェスターの法則について述べました。

ランチェスター戦略も「データ利活用」「データ経営」等の実践ノウハウの結晶の一つです。
今回は、第1次世界大戦から30年程時代を下って、今から約70年前、第2次世界大戦の時代に話を移し、ランチェスター理論を軸に、当時の米軍の「データ利活用」と「データサイエンス」によって産み出されたORについて、みていきましょう。経営戦略に活用される前の話ですが、お付き合い宜しくお願いします。勿論、コンピュータが誕生する前の話です。

大東亜戦争 米軍のデータ利活用

第2次世界大戦の日米戦、日本側の呼称では大東亜戦争は、1941年12月8日の大日本帝国海軍、空母機動部隊の真珠湾奇襲攻撃から始まります。当初は日本有利でしたが、米軍は総力戦で、旧日本軍に圧勝します。

米軍の基本戦略は、物量戦でした。なぜならランチェスターの第2法則によって兵力3倍以上で戦えば、圧勝できるという「3倍則」が導出されるからです。

すなわち、常に兵力3倍以上をCSF (Critical Success Factor)として作戦を立案・実施すれば圧勝できる。そのためには、敵味方の兵力などのできる限り正確な定量データの把握が必須になるので、作戦成功の死命を制するのは、適確なデータマネージメントによってデータを利活用し、最適な兵力・物量を維持する兵站(ロジスティクス)を確保することです。

 

データライフサイクルでみると、米軍は、物量戦実現するために必要なデータの「計画・仕様確定」をし、敵味方の軍事情報のみならず、将兵の動員、軍需物資の生産データなどを特定します。さらに、諜報戦の実施や作成計画の立案などで実際にデータを「使用可能化」した上で、前線データの「登録と入手」「維持と利用」によって、定量的なデータ分析によって、物量で圧倒するための兵站の最適化を実施します。
 
米軍の物量戦・ランチェスターの第2法則「強者の戦略」の徹底ぶりは、兵器の設計思想にも表れています。例えば、当時の日米戦闘機の仕様データを比較することで、米軍の物量戦の一端を確認してみましょう。
 

 
日本海軍の零戦は、極限まで軽量化の工夫をして、空中旋回能力に優れ、格闘戦に適した名戦闘機でした。それに対して、米軍のF6Fヘルキャットは、設計思想が全く異なります。

F6Fヘルキャットは、日本海軍の零戦と比較すると、表の「5.空虚重量」が2.4倍も重いばかりでなく、「7.翼面荷重」も1.4倍も重く、「9.最高速度」は80Kmも零戦よりも速い戦闘機です。つまりF6Fは防弾装甲を装備し、大出力のエンジンを搭載した格闘戦を重視していない戦闘機でした。さらに、「10.製造工数比」は零戦の1/3で量産性が非常に高い。F6Fの設計思想は、防弾装甲でパイロットの損失を抑え、高速を活かした一撃離脱の単純戦法を採用することでパイロットの育成を容易にし、量産性を高めて戦闘機を大量配備する物量戦によって日本軍を圧倒することだったことが、両戦闘機の仕様データの比較から読み取れます。
 
注)兵力3倍則の確認
第2法則では「戦闘力=武器性能×兵力の二乗」になります。武器性能が同じで、
味方:敵=3:1とすると、
残存兵力=SQRT(3×3-1×1)=SQRT(8)=2.83
兵力の損耗率=(3-2.83)/3=0.17/3=約6%
 

『硫黄島の戦い』で検証するランチェスター理論の有用性

 
米軍が軍事理論として発展させたランチェスター理論の有用性は、実際の戦闘結果とシミュレーション結果を照合して検証されています。

研究対象になったのは『硫黄島の戦い』です。選ばれた理由は、圧倒的兵力を誇る米軍が正攻法で攻略したが、苦戦し大損害を受けた戦闘に関しても高精度のシミュレーションができるか否で理論の有用性がわかるからだと、筆者は思います。その結果判明したのは、第一にランチェスターの第2法則が硫黄島の戦いでも成り立つこと。第二に日本軍の恐るべき強さでした。
 
硫黄島の戦い(1945年2月19日~3月26日)は、日本軍守備隊は栗林忠道中将率いる約2万人。攻撃側の米軍は兵力約11万。栗林中将は、民間人を島から疎開させ、地下陣地を構築して米軍を迎え撃ちます。米軍司令官は、当初5日で島を占領すると豪語していたのですが、攻略するのに28日もかかります。戦死傷者は日本軍約2万人(全滅)に対して米軍約2万5千人。

J.H.エンゲルは、ランチェスターの2次法則に米軍の補給を考慮した補正をして、この戦いを解析します。その結果、実際の死傷者の時間変化を表すグラフと理論から導かれる死傷者数のグラフがわずかな誤差で一致することが確認されました。

さらに、日本軍:米軍の交換比は=5.132。つまり日本軍兵士の戦闘力は米軍の5倍以上も強かったことが判明しました。日本人の「現場力」の強さが立証されているように、個人的には感じます。
 

 

OR(Operations Research)70年前の米軍による「データサイエンス」

 
ランチェスターの第2法則に則った物量戦を実施するには、軍需物資の生産計画などのスケジュールや輸送経路の最適化などが重要になります。そこで米国は、戦争中に数学者を動員して作戦研究を深めていきます。線形計画法、PERT/CPM、待ち行列、ゲームの理論などが考案され、OR(作戦研究 Operations Research)という学術分野が開拓されます。このORこそが、約70年前の「データサイエンス」の優れた成果だと、私は思います。
 
OR研究の一環でランチェスター理論の研究も進み、ランチェスター方程式に新たに戦闘の機会という確率的要素と戦争における工業生産率の要素を導入した「ランチェスター戦略方程式」とも呼ばれるクープマンモデルです。この数学モデルが、敗戦後の日本で経営理論へと昇華されるのです。

次回からは、敗戦後の日本の経済復興・高度成長に話を移し、経営戦略としてのランチェスター戦略を中心にして、当時の「データ利活用」「データ経営」について確認していきましょう。
 
以上

 

※JDMCテーマ5 DM実践勉強会リーダ 清水孝光
清水技術士・診断士事務所代表
技術士(情報工学部門)、中小企業診断士、ITコーディネータ
健康経営アドバイザー
日本エニアグラム学会認定ファシリテーター
ヨガ・インストラクター(YogaWorks RYT200)
ピラティス・インストラクター(BASI MAT)
 
 



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