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テーマ5「DM実践勉強会」データの利活用概説(3)敗戦後日本の経済復興

JDMCテーマ5「DM実践勉強会」リーダ 清水孝光

前回は、ランチェスター理論を軸に、約70年前の大東亜戦争を振り返りました。当時、米軍が採用した物量戦「強者の戦略」における「データ利活用」と、戦争で培われた「データサイエンス」の成果であるOR(Operations Research)について触れました。いわゆる「データサイエンス」が、コンピュータ誕生以前に、活発に行われていたことに改めて感心します。


今回から、敗戦後の日本の経済復興~成長期(1970年代頃まで)を振り返り、日本で経営戦略理論として発展したランチェスター戦略を主眼にして、「データ利活用」の実践ノウハウの宝庫である、経営分析・マーケティング・財務データ分析の利活用などについて確認しましょう。

注)文中の敬称は略します。
 

敗戦後日本への統計的管理手法の導入と発展

敗戦後、焦土と化した国土を踏みしめて日本人は再び立ち上がります。

米軍の物量戦にボロ負けした敗戦体験から、当時の日本人の骨の髄まで染み通った実感は、次の言葉に代表されると、私は思います。
 
「(旧日本軍の高級)軍人の思考はあまりにしばしば軽率であり、独善的であり、空疎な精神主義であり、従って非科学的であって、ために、救いがたい禍をもたらした」(『ノモンハン』五味川純平著より 括弧内筆者追記)
 
リアリズムを無視した独善的な意思決定が、悽愴無残な敗戦をもたらした経験を活かし、国土復興のために日本人の先達は、科学的・合理的な「データ利活用」を徹底します。さらに、そのノウハウ習得などに当時の国際情勢も日本に幸いします。米ソ両超大国の東西冷戦の状況下、米国は対東側の橋頭堡として日本の重要性に気づき、ORなどデータ利活用するための様々な科学的手法を日本に伝授します。
 
特に有名なのは、米国の統計学者W・エドワーズ・デミング博士です。博士は、米軍の要請で1951年の国勢調査のために来日します。それが機縁となり、分散分析や仮説検定など統計学的手法を企業経営に応用した、設計・製品品質・製品検査・販売などを強化する技法を、デミング博士は日本に伝えました。この時、日本人は、外来文化・ノウハウを吸収し醸成して独自化するという、古来の伝統・文化で培われた驚くべき強みを発揮します。
 
例えば、品質管理の分野では、PDCAサイクルの導入をはじめとして、QC七つ道具」(①パレート図②特性要因図③グラフ④チェックシート⑤ヒストグラム⑥散布図⑦層別)、それをさらに発展させた「新QC七つ道具」(①親和図法②連関図法③系統図法④マトリックス図法⑤アローダイアグラム⑥PDPC法⑦マトリックスデータ解析法)を創意工夫し、QCサークルでの5S活動(整理・整頓・清掃点検・清潔・躾け)、3現3直(現場直行・現物直接・現実直視)等々「現場カイゼンサイクル」などの現場主体の全社活動で創りあげた安価で高品質な日本製品は世界を席巻し、トヨタ社のJIT(Just In Time)などの生産管理手法も世界の産業界に大きな影響を与えることになります。なお、現場主導の様々な手法に関しても、後日公開していく予定です。
 
注)『PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)』は、日本型の管理サイクル。欧米型は元々『PDCFサイクル(Plan-Do-Check-Fight or Fire)』(詳細略)
 

ランチェスター理論も、科学的手法の一つとして日本に紹介されます。そして、日本企業の販売力強化に応用され海外企業の心胆を寒からしめることになります。この理論を軍事から経営戦略に換骨奪胎したのは、日本人のマーケティング・コンサルタント田岡信夫(1927~1984年)でした。
 
軍事戦略として発達したランチェスター理論を経営戦略に昇華するのは一筋縄ではできません。軍事は敵味方がハッキリしているので単純ですが、企業経営には、自社・顧客・競合・業者・株主など様々な要素が複雑に絡み合い、Win-Winの関係もあるなど関係性も遙かに複雑だからです。

そこで、ランチェスター理論を経営戦略に応用するため、田岡信夫はマーケットシェアに注目し、クープマンモデルを活用します。

 
田岡信夫は、あるマーケットのトップ企業が「強者の戦略」を開始できるシェア=26.1%を導出し、競争力強化のKGIを明確にします。さらに、首位独走=41.7%、実質独占=73.9%とし地保を固めるための目標シェアを提示する一方で、ベンチャー企業などが新市場に参入する場合にとる「弱者の戦略」の目標シェアも明らかにします。

田岡の提唱する競争原理は、

①No1主義 トップを目指し、「強者の戦略」「弱者の戦略」を使い分ける
②弱い者いじめの法則 自社より低シェアの競合を徹底的に叩く
③一点集中 短期決戦で資源を浪費せずに勝利を重ね「強者」の地位を早急に確立する

というものです。そして、KGIをマーケットシェアに設定する「シェア第一主義」の日本企業は、「強者の戦略」で海外市場を席巻することになります。
 

さて、「シェア第一主義」と簡単に記しましたが、参入するマーケットを選定するだけを考えても、競合状況などを様々な経営戦略・マーケティング理論などを駆使した様々な「データの利活用」が必須です。本稿では、敗戦後日本の「データ利活用」を論じる嚆矢として、まず当時の日本国の状況(=マクロ環境)を分析し、海外市場が有望な収益源であったことを確認してみましょう。

分析のやり方ですが、下図をみて下さい。文章で検討するよりも、右図のフレームワーク(ひな形)を使った方が遙かに分析しやすいと、私は思います。
 

 
そこで今回は、右図のPEST分析というマクロ環境分析手法使ってみます。

PESTとはPolitics(政治)Economy(経済)Social(社会)Technology(技術)の4つの視点でデータを区分けして、どんなデータを利活用すべきかを検討する手法です。

例えば、「Economy(経済的要因)」ならば、景気(インフレ・デフレ)、GDP、経済成長率、

輸出依存度、価格変動為替・金利などを網羅的にとりあげて、どのデータを分析対象にするかを定義して、「データ利活用」をしていきます。

特に経済的要因で重要なのは、当時の為替相場が「固定相場1ドル=360円」で、今とは比較できない程の円安だったことです。これだけでも、日本企業が収益をあげるには海外市場が非常に魅力的だったことが理解できます。

戦後の成長軌道に乗った日本企業は、技術革新や日本的経営(終身雇用・年功序列・企業内組合)の定着などで国内の激烈な競争をくぐり抜け、旺盛な内需に支えられながら海外雄飛していきます。
 
PEST分析に簡単に触れましたが、どんな切り口・視点でデータ分析すればよいかのノウハウの結実が様々な経営戦略のフレームワーク等なのです。
 
次回は、ランチェスター理論に加えて、財務データの利活用として「損益分岐点分析」などを視野に入れながら、「シェア第一主義」の日本企業の「価格政策」等について確認していきたいと思います。
 
以上
 
※JDMCテーマ5 DM実践勉強会リーダ 清水孝光
清水技術士・診断士事務所代表
技術士(情報工学部門)、中小企業診断士、ITコーディネータ
健康経営アドバイザー
日本エニアグラム学会認定ファシリテーター
ヨガ・インストラクター(YogaWorks RYT200)
ピラティス・インストラクター(BASI MAT)
 
 

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