日本データマネージメント・コンソーシアム

レポート

(報告)データマネジメント2021:[D-3] DXの推進原動力となるデータマネジメントの考え方

 (レポート: 情報発信部会NEC齋藤真平)

[D-3] DXの推進原動力となるデータマネジメントの考え方
第一生命保険株式会社
ITビジネスプロセス企画部
データマネジメント室長
板谷 健司 氏

 

「データは現代の石油である」。ここ10年余りJDMCカンファレンスはじめ様々な場面で幾度となく耳にした比喩であるが、この言葉の持つ意味としては、「データが世の中を変え、動かしていく資源、エネルギーの源である」ことのほか、「データはそのままでは使えない。掘り出して、集めて、精製してはじめて使い物になる。」ということでもあるという。板谷氏はその過程を”情報化”と呼び、DXを実現するための重要なプロセスと位置付けている。

本講演では、データマネジメントが第一生命のDXの下支えとなっていることを、自身が率いるデータマネジメント室(DM室)の設立から2年間の活動を通して、分かり易く解説している。

板谷氏が室長を務めるDM室は2019年4月に、第一生命全社のデータ活用を推進することを目的として設置された。当初のメンバーは社内外の人材を合わせて10名。そのミッションとしては、データ基盤の開発、分析ツールやデータ活用に関するナレッジの整備といった具体的なものから、データリテラシーの向上、データサイエンティストといった人材育成、データガバナンスの整備に至るまで多岐にわたる。

当初、DM室は渋谷にある第一生命イノベ―ションラボの横に設置されたという。板谷氏はその理由の一つをこう語る。

DX実現のインフラ整備のため、設置から6ヶ月後の2019年10月からデータ分析・活用を行うための基盤づくりを始めようと考えていた。最初の1ヶ月でまずはスタンドアロンの分析マシンを構築したが、残り5ヶ月で基盤づくりに向けて様々なことを試行(PoC)する必要があり、その実現のためにはラボのリソースとの協業が不可欠であった。

基盤づくりに6ヶ月を費やした後、2020年4月からDM室の豊洲本社移転と同時に試験利用を開始、2020年10月からは先行利用所管(部門)への導入を実施、さらに2021年4月以降、順次、第一生命本社への導入を予定しているとして、これまでのところ6ヶ月毎の大きなマイルストーンを着実にこなしている。

2020年10月の先行所管への導入においては、足元をしっかり固めながら進めていったという。最初はデータの棚卸、会社・所管がどのようなデータを持っているかを明らかにすることから始めた。保険会社ということで様々なデータが豊富にあると想像されるが、契約に関するデータばかりで、顧客の嗜好や行動がわかるようなデータは意外にも少ないことがわかった。

さらに棚卸を進めていくと、データの所在や意味が不明であったり、データの使い方がわからないなど、そのままでは十分に使いこなせないデータも相当量あることがわかってきた。ただし、すぐに「使えない」と切り捨てるのではなく、データにインテリジェンスを与え、それらを駆使・精製することで意味のあるデータを作りだすことができる。その処理を第一生命では情報化とよび、DXにとって非常に重要だと板谷氏は強調する。一方、社内に無いデータについては社外から収集することにも積極的に取り組んでいる。

 

 

PoCから始まり、DM室での試行錯誤、先行利用の所管との二人三脚で作り上げた分析基盤はDMAP –Data Management and Analytics Platform- と命名され、データ収集から精製、マート化、分析・可視化までの機能を有している。DMAPはホームクラウド上に構築された先進的な取組みとして評価され、金融庁が設置した「フロントランナー・サポートハブ」において、保険業界として初めての支援案件として認定された。

DMAPの構築がゴールではなく、DMAPを使ったDXの推進(業務の効率化・高度化、新たな付加価値創造というイノベーションの創出)が本来の目的である。達成するためには所管部門とDM室が協業して進めていくことが重要であり、一緒に進めることで新しいビジネス視点が得られることもわかってきた。

例えば所管は従来できなかった分析ができるようになることで、より高度な分析を求めるようになり、データが足りていないことに気づく。またDM室のメンバーも、データの活用容易性を高めるスキルの標準化を推進する等の必要性を改めて感じるという。

そして何よりもデータを選ぶ力が重要であると、板谷氏は料理になぞらえて解説する。一流のシェフが一流の道具で料理をしたとしても適切でない具材からは間違った料理しかできない。つまりスキルや環境が整っていても、分析の対象となるデータが不適切であれば誤った答えしか出てこない。さらにデータ分析は一見正しいように見えるため、料理よりも質(たち)が悪い。

限られたデータであっても適切なデータを選び、それを加工・精製して意味のあるデータにしていくことができれば、形は悪くてもなんとか料理(ビジネスに必要な答え)は導き出せる、と改めて強調した。

最後に、これまでDXの下支えとなるデータインフラの整備を行ってきた第一生命ではあるが、この先更なるDXの推進に向けて様々な課題もあるという。AI技術をさらに導入・成熟させる必要もあるし、社内のみならず社外リソースの活用も考えていかないといけない。そして顧客視点で結果を評価し、DXが業務単体ではなく全社として本当に役立っているかを確認していくことが重要であるとし、全社DXへのさらなる展望を語った。

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