第55回定例セミナー報告:オムロンにおけるDX推進を実現する顧客理解プラットフォーム事例

(事務局・遠藤秀則)

11月20日(金)開催の第55回定例セミナーは、SAPジャパン株式会社の「SAP Leonardo Experience Center Tokyo」をお借りし、テーマ「オムロンにおけるDX推進を実現する顧客理解プラットフォーム事例」と題して、オムロン株式会社 海老原吉晶氏によるご講演、後半は海老原氏、ダッソー・システムズ株式会社 水谷哲氏による対談をオンライン配信の形式で実施した。

 

講演

海老原 吉晶
オムロン株式会社
インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 営業本部
マーケティングセンタ 販売促進部 WEBマーケティング推進課
主査 

 

デジタルトランスフォーメーション

DX(デジタルトランスフォーメーション)、今はバズっている。正しく理解していない方も多いと海老原さんの講演が始まった。日本で広くDXが知れ渡ったのは経済産業省の  2018 DX レポート。2025年の崖がショッキングであったが、ここに書かれたメッセージは、「既存システムのブラックボックス状態のせいでデータ活用ができない場合、企業は競争力を失い、古いシステムは硬直化し技術的負債となる」と凝縮できる。このうちのデータを活用できないという問題について、これを解消するにはどうしたらよいか考えてみたい。DXという言葉を生み出したのはスウェーデンのエリック・ストルターマン教授といわれるが、彼のDXの定義は「ITの浸透が、人々の生活を、あらゆる面でより良い方向に変化させる」であり広義なものである。一番しっくりくるDXの定義は、マイケル・ウェイドの著書DX実行戦略に書かれている「デジタル技術とデジタル・ビジネスを用いて組織を変化させ、業績を改善するもの」ではないかと海老原さんは解説する。テクノロジーだけではなく、多くのものが関与している点が大事だ。ITだけを考えていると、DXを実現するには、クラウドにおけばいい、RPAを導入すればいいなどと誤解してしまうのである。マイケル・ウェイドはビジネス・デジタル・トランスフォーメーションをどこから始めたらよいか、それは屋台骨である事業の顧客価値の変革からと述べている。「人」「データ」「インフラ」をオーケストレーションして進める。ここで注目すべきは、「データ」と「インフラ」が別のインスタンスとして表されている点である。一般に「データ」は「インフラ」の中に存在することが多いが、インフラの中に格納されている電気信号に価値があるわけではなくて、データに込められた内容、写像された現実に意味があり、そのために「データ」「インフラ」は切り離して考え、相乗効果を発揮させる必要があると海老原さんは語った。

 

顧客と顧客価値の捉え方

スティーブ・ジョブズやヘンリー・フォードは、顧客の要望をどう把握したのだろうか。彼らは、世の中の流れを変えるものを生み出した。顧客に聞いても答えられなかったはずである。ではどうやって見出したのか、海老原さんが自社の例をもとにヒントを示した。

事例① オムロン制御機器ウェブサイト ~Webサイトの顧客価値~

 このサイトは、第三者機関による国内 BtoB サイトユーザー評価で14年連続総合1位になっている。他社からどうやったら1位をとれるのか教えてほしいとよく言われるので、その要因を分析することにした。一つ一つのコンテンツに特徴があるわけではない。次のように顧客を捉えてサイトを構築・運営しているからではないかと考察した。Ⓐサイト来訪者はものづくりに携わるBtoBのお客様。Ⓑ購入の意思決定は組織的に行われるため、個人の趣味や嗜好を刺激するだけでは不十分。Ⓒユーザのカスタマージャーニーだけでなく、顧客の業務プロセス工数削減がとても重要。これらを重視したサイトになっており、自らのKPIも、お客様の業務プロセス工数削減を指標にしている。年間に国内の製造業1.7万人月分の削減に貢献している。社会への貢献だけでなくWebサイト運営側もプライドや自信につながっているという。この事例から言えることは、顧客の上位価値を考えることは、自社の製品・サービスを変革する指針になり、DXの企画にもつながることと海老原さんは考える。

事例② CRM プロジェクト ~顧客理解プラットフォーム~

 顧客の資産化、営業生産性の向上を目的とした CRMプロジェクト。すべての顧客接触チャネルの連携を図りたいのだが、当時それぞれの業務システムがそれぞれのデータを持っていた。胆となるのが統一顧客DB、マスタ統合だ。ここで海老原さんは、既存の各システムのマスタ(的なDB)はそのままに、統一顧客システムを設ける構成をとった。各システムから統一顧客システムに送られてきたデータは名寄せなど必要なメインテナンスがなされる。「識別コードの独立化」の手法でマスタ統合を行った。これにより、例えば顧客のWeb へのアクセスログを担当販売員へ配信、SALとして販売機会の補足に活用するといったことなどができるようになった。Webインバウンドデータのリード活用であり、顧客マスタの統合により実現できた一例である。サイロ化システムイコール悪と決めつけるのではなく、業務システムとしては優れていることも多いので、サイロ間の連携を疎結合にし、データ連携すれば所望のシステムが構築できることをこの事例を通して伝えたい。

 

DX 推進のためのデータマネジメント

 企業活動において、データは「人」「物」「金」に続く第4の経営資源であることに違和感を持つ方はいないであろう。「人」「物」「金」にはマネジメントする専任の組織が用意され その手法も確立、日々運用されている。しかしながら、「データ」に関してはどうであろうか。まだまだ、きちんとマネジメントできていない企業が多いというのが実態なのではないか。では、どう整備していったらよいか。これには発展段階があると海老原さんは説明する。データ利活用のレベルとしては、業務とマネジメントの遂行(レベル1)、分析と認識(レベル2)、変革・価値創造(レベル3)があり、求められるデータマネジメントも業務アプリケーション別(レべル1)、業務横断(レベル2)、外部データ連携と体系的なデータマネジメント(レベル3)といったように異なる。経営ニーズとしてはデータによる新たな価値の創造や競争優位の獲得(DX)が求められるのだが、データマネジメントの発展は一足飛びにはできない、飛び級ができないことに注意が必要である。レベル順の積み上げしか解がない。経営者は DX をやれといきなり言ってくるが、積み上げ、成長が大事だということを理解してもらい取り組んでいくことをお勧めすると海老原さんは講演をまとめた。

 

対談

 

海老原 吉晶
オムロン株式会社
インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 営業本部
マーケティングセンタ 販売促進部 WEBマーケティング推進課
主査 

水谷  哲
JDMC研究員
ダッソー・システムズ株式会社 Center of Excellence
ソリューションコンサルタント
JDMC MDM研究会リーダー

 

講演を受け、水谷さんが加わり対談がスタートした。要旨は以下のとおり。


顧客価値を捉える方法

スティーブ・ジョブズやヘンリー・フォードのようなところまでいかなくても、普段の企業活動の中で営業の皆さんは顧客価値を捉えることを実践していると思う。彼らのような革命的な提案ではないものの、顧客から聞き出せない状態であったとしても、顧客のニーズを考え、全社の知見を動員して企画・提案している。

また、顧客マスタをどの部門の人も読めるようになるということも顧客価値を捉える一つの強みになるのではないか。全員プログラミングできるようになれとは言わないが、顧客マスタは読み取れるのではないか。業務部門は恐れずデータを覗いてみる、IT部門からもあゆみより優しく教える。そうやって全社のデータリテラシをあげていくことができると考える。DXという掛け声は良いが、自分は何をしたらよいかわからない人が多いと。そのためにもコロナ禍においても社内のコミュニケーションが大切なのではないか。

 

データ利活用の段階を上げるには

先ほどの講演の中で、データ利活用の発展段階は飛び級できないと説明した。しかしレベル1にたどりついていない会社も多いのではないか。飛び級できないと分かっていても、スモールスタートならできるだろう、 PoC ならできるだろうと言ってくる経営者が多く、どう対処したらよいか困っている方も多いであろう。これを打開するには、システムではなく人にあるのかもしれない。ある企業では、先に説明した顧客理解プラットフォームは、立ち上げ当初データメンテナンスセンターが胆になったが、ここのリーダーが営業事務出身で怖い人だった。一番多いユーザ層であるのが営業層であり、そこを束ねてきた方がデータメンテナンスセンターで目を光らせている状況となったために、データの入力でめったなことがしづらくなり、胆となるセンタがうまく機能したという例である。JDMCの研究会でもこのような事例をもとに人に注目し、データ活用の要の人材として形式知化していきたい。

 

データを通じた価値創造を左右する組織風土

社内データ活用活性化を阻害する要因のひとつに心理的圧力がある。導き出された分析結果は当事者にとって不愉快な現実を突き付けられることがある。データでこう出ているがなぜだと責められるとデータを活用した価値創造への協力をしたくなくなるのが自然の流れであろう。正直者を褒める、間違いを責めない、解決を一緒に考えるという組織風土にしないといけないのではないか。

 

 

 

<参加者感想>

・DXというキーワードはよく聞くものの、具体的な事例等に触れる機会がなかったため、講演内容は大変満足です。
・他社事例の共有は大変勉強になります。 できればリアルな場で質疑応答ができればよいのですが、ネット配信でも十分ですね。
・参考になりました。
・顧客データの統合は自社でも対応を進めているところなので参考になりました。
・DXのなんたるかが、「顧客創造」の観点から理解できた気がする。
・ブームに流されない、DXの本質をご説明いただき、大変勉強になりました。ありがとうございました。
・やはりプロの方を対象としていることもあって、わからない用語があるなど、具体のクリアなイメージがつかないところがありました。引き続き参加させていただきながら、勉強続け、自身の学びに繋げたいと思います。
・具体的でわかりやすかったです。話し方もとても率直で、実態が伝わりました。
・データマネージメントの重要性に深く同意できた。
・ブラックボックスはブラックボックスのままでよいとしていたが、会社業務自体がグローバル化してUTF-8でないと氏名が表示できない、氏名がカナ表記では長すぎて文字数制限に引っかかるなど、そもそもマスタとしては使えなくなってきている。結局のところ古いシステムはもう使えない、となりそうである。
・DXの取り組み方がわかりやすかったです。
・データの収集、分析、顧客ニーズの掘下げなどが、まだ組織的に分散している状況では、日本でのDXの発展に拍車がかからないという課題点が良く理解できた。これらの組織が融合、またはデータを集約的にマネジメントできる組織の必要性が理解できた
・顧客概念の整理の仕方は大変参考になりました。後半の対談中で、Small Start 、PoCを口実に安易に着手することの危険性についても成程と思いました。
・新たなコードをハブとして紐づけたやり方は参考になりました。顧客マスタの重要性も改めて理解しました。
・DXを考える上での重要な視座を頂きました。またデータ管理の話をしながら一方で雑談が重要と強調されているところも、改めて得心します。ありがとうございました。
・”ささる”フレーズがたくさん出てきてまして、ぜひ周囲にも伝えていきたい内容と考えました。
・DXの取り組みは大変わかりやすく感銘を受けております。 そこで一点ご質問が御座いますが、DXの完成形はサイロ化システムや既存システム、IoTなどと融合して作られたデジタルで価値に変えられたものだけを指す事になるのでしょうか。