(セミナー部会・峯岸勇)
2018年4月10日、Pivotalジャパン株式会社の会場を借りて、経産省主導で行われた電子レシート実証実験の取り組み内容と今後の課題について東芝テック株式会社 技師長附 上席主幹 .NET流通システム協議会 技術部会長 三部雅法氏、株式会社インテージテクノスフィア 商品情報部 商品情報DB統括マネージャー外山有氏が講演を行なった。その後に過去二回経済産業省主導の電子レシート実証実験に店舗側として参加しているトライアルカンパニー 情報システム本部 グループCIO 西川晋二氏よりスーパーマーケットの現状の取り組みから未来構想までを語っていただいた。
1. まず最初に、メーカー側の立場から東芝テック 三部氏が実証実験の結果を発表した。
もともと、.NET流通システム協議会という会合があり、POSシステム周辺の各種データを標準化していく活動を行なっていたところに2014年、電子レシート分科会というものが発足した。そこでの主な目的はまずレシートデータの標準化をしてからそれを公開し、広げていこうというものであった。各店舗の様々なレシート詳細項目を合わせると2万項目くらいになり、それを200項目にまとめ日本標準としていく。
電子レシートの効果として「缶コーヒーのキャンペーンなど、シールが不要となりそのまま購買証明になる」「データマイニングで活用し個人ごとの嗜好に合わせたクーポンを発行できる」などがあり、そこを目指していく取り組みを行っている。
また、電子レシートからのデータを一括管理、分析することにより、企業の国際競争力向上に役立てられないか検討がされているとのこと。その際、やはり重要となるのは企業情報・個人情報の保護である。そのため様々な協力企業の技術を使い匿名化、データ粒度の変更などを行った。
※年齢は「30代」、店舗種別は「コンビニ」、店舗名は「地域」など。この蓄積されたデータに関しては今後の実証実験でトレンド分析や需要予測まで持ち込むことを目標としている。
実証実験は2017年11月から2018年3月までで行われ、実際の店舗を使用したユーザー参加型の取り組みは町田市27店舗の協力のもと2月13日から2月28日の2週間の期間で行われた。詳細な結果の分析レポートは6月に経済産業省から発表される予定となっている。
2. 続いてインテージテクノスフィア 外山氏から本取り組みにおけるデータマネジメント上の課題について発表を行った。
データマネジメント上の課題として、
①データ標準化
②マスター標準化
③データ価値化
があり、1のデータ標準化については本取り組みの電子レシートフォーマット標準化により解決したが、②のマスター標準化に関してはより一層課題が明確化した。そもそも「どこ」は標準化されているものがなく、「何」についてはJANコードなどが存在しているが自由度があり完全ではないので標準化できないなどといった課題が鮮明になったとした。
※肉・野菜、コンビニの肉まんやおでん、コーヒーなどは店舗ごとに標準化されておらず、分類を規定してもどこに割り振るか決まっていないため統一が難しい。
③データ価値化については今後取り組んでいくという。
外山氏は「マスター重要な課題であり、弊社の持つマスターやリソースを有効活用していきたい。」「実証実験は様々な偏りがあり、それに即した結果になった。偏りの要因 をよく理解し、調査設計の概念によってデータの偏りを補正するのが重要。数が多くなれば精度が上がるわけではない。」と締めくくった。
3. 休憩を挟み、最後にJDMCユーザー企業であり、本取り組みの企業側の立場としてトライアルカンパニー西川氏よりスーパーマーケットの未来とデータマネジメントについて講演が行われた。
まず時代を生き残る企業としてのトライアルカンバニー、ITの力で流通を変えるという取り組みについて、企業紹介を交えて発表した。その後電子レシートの必要性とAmazon Goの実際の店舗に行った時のレポートを紹介した。様々なデジタルトランスレーションの中で電子レシートは流通の未来としては自然な流れであるということ、但し、Amazon Goのような大量のカメラ、画像処理リソースを必要とする店舗に関しては多店舗展開は難しいことなどを前提としてトライアルカンパニーとしてのこうあるべき流通の未来について展開した。
トライアルではウォルマートのリテールリンクを参考にしている。そしてメーカーとカテゴリ毎にチームを作りその損益を公開する仕組みを提供している。これによりカテゴリごとに競合も混ざって全体を良くしていく取り組みが行えるという。その他にも、複数店舗のデータをまとめてみたり、国勢調査や店舗情報などのオープンデータと売り上げ情報をまとめて可視化できるような仕組みも独自に作っている。
今回の電子レシート実証実験のように、政府主導になってデータプールを構築し、全体を活用していく取り組みは非常に重要で、1企業のPOSデータだけではどうしても統合されず網羅性や価値が低いところを根本から変えてくれるものであるとした。
今後のトライアルカンパニーの取り組みとしては、リテールメディアと称した新しいコミュニケーション・プロモーション手段として、個別のレシートクーポンやタブレット付きカートの拡大を予定しているという。その他にも店舗の自動運営やチェックアウトの改革、カートでの決済などを行い続けて、流通業界に起きる変革に対応するためにチャレンジし続けていく。そして「リテールAIで、日本の流通小売業・マーケティングのあり方を変えたい そして世界市場へ」と締めくくった。