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レポート

第13回JDMC定例セミナー報告

2012年11月27日、第13回JDMC定例セミナーが霞ヶ関プラザホールで開催された。1つ目の講演には、織田DMコンサルティング代表の織田敬三氏が登壇。NTTの横須賀研究所、NTTデータ、NTTデータ先端技術などで培った知見をもとに現在、データベース全般の課題解決を支援する同氏が、ビッグデータの処理基盤やDWHアプライアンス製品の特徴、適用領域、その活用法をユーザーの視点から説明した。

2つ目の講演には、日本たばこ産業(JT)IT部において組織運営や人材育成に携わる同部部長の鹿嶋康由氏、そしてEA活動推進メンバーの一人である野田康大氏が登壇。2009年にIT部門が復活した背景や、現在、同社がグローバル規模で取り組んでいるEAの目的と進捗を紹介した。

 

 

 

◆講演1

「ビッグデータ時代における企業情報システムのデータ処理基盤」

織田DMコンサルティング

代表 織田 敬三氏

 

「ビッグデータ」の定義として、3つの尺度がしばしば引き合いにされる。「Volume(データの量)」「Velocity(処理の速さ)」「Variety(多様性)」の3つだ。これらを引き合いに出して織田氏は次のように語った。「現在、この3つのVが示す尺度で語られるビッグデータ活用は、トランザクション系(OLTP)と呼ばれる運用(operation)システムと、データウェアハウス(DWH)を基盤とするOLAP系の意思決定(decision making)システムにほぼ限定されているようです。しかし、ビッグデータ活用の対象となるシステムはこれらだけでありません」(織田氏)。

OLTP系の運用システム、OLAP系のDWHシステムのほか、ビッグデータ活用の議論で抜け落ちがちな対象システムとして、織田氏は管理(management)システムを挙げ、次のように述べた。「昨今ですと、たとえば自販機の在庫状況を無線モジュールなどでリアルタイムに集約し、管理システムを介して物流システムに即在庫補充の指示を出すといった、システム間をまたいだシームレスかつ即時性の高い連携が必要とされています。管理システムは、トランザクションデータのバッチ処理に、これまでのように長い時間をかけられません」

さらにこれらのシステムだけでなく、SNSなど外部システムから流れ込む非構造化データを絡めて統合的かつリアルタイムに、運用、管理、意思決定において活用したいというニーズも高まっている。よって、システム間で相互にやりとりされるデータの量や多様性、データ処理や分析に求められる処理速度は、いずれもこれまで以上に要求レベルはシビアになっているという。

「運用、管理、意思決定という3つの企業情報システムに求められる機能・性能要件が、ビッグデータによって変わりつつあるのです。しかし、私が見る限り、市場に出回るビッグデータ処理向けの技術・製品は従来のDWHの延長線上、もしくは、そこから派生したDWHアプライアンス製品に留まっていると言わざるを得ません」(織田氏)。

続いて織田氏は、ビッグデータの特性のうち、大容量とリアルタイム性の2つに焦点を絞って、大量のデータを効率よく処理するデータ処理技術(並列処理、カラムストア、In-Database分析)と、代表的なDWHアプライアンス製品(Teradata Data Warehouse Appliance、IBM Netezza、Oracle Exadata)の特徴や適用領域、活用法などについて比較を行った。

「ただ、新しい動きとして、従来とはまったく違うアーキテクチャで、OLAP系とOLTP系の同時実行制御を行う製品も一部に登場してきました。企業からの注目度も高まっています。というのもユーザーの視点では、システムの種類を問わず、データをシームレスかつ、リアルタイムに運用、管理、意思決定において活用できることが重要だからです。私はこのシームレスなデータ連携の仕組みを“統合データ管理基盤”と呼んでいます」と織田氏。データガバナンスの仕組みもこの基盤に実装されるだろうと展望する。

「統合データ管理基盤の登場によって、個々のシステムに付属する『データベース』という言葉自体がなくなる時代が訪れるでしょう。また、ビッグデータの技術・製品を評価する指標にも、ユーザーにとって最も大事なデータの価値(Value)、という4つ目の“V”が加えられるべきだと思います」と持論を展開した。

 

◆講演2

「グローバル事業展開を支える全体最適の取組み ~データマネジメントを含めたJTのEAとは?」

日本たばこ産業株式会社

IT部 部長 鹿嶋 康由氏

IT部    野田 康大氏

 

たばこ業界を取り巻く事業環境が変化する中で、食品・医薬品など事業の多角化を進めてきたJT。1999年以降は、M&Aなどで海外事業を強化した結果、近年のグローバルでの売上高の約半分は海外たばこ事業であげ、研究開発・生産・販売拠点が世界各地に広がっている。

このような経営環境の変化を受けて、同社の情報システムには、海外拠点間の販売・生産・在庫などの情報をリアルタイムに連携させ、為替変動や原材料価格の変動リスク、そして災害リスクなどに対して、適正な経営判断を支援するグローバルプラットホームとしての役割が求められていた。

鹿嶋氏は、2009年にそれまでアウトソーシングしていたIT部門をJT本体に再設置した背景を「複雑化したシステムを全体最適化の視点でシンプルに再構築し、また、業務とICTインフラを理解・運営できる人材を社内に育成することで、次世代にバトンを渡せる仕組みを作りたかった」と説明した。

一方、海外系のシステムは、すでに海外事業の中核を担うJTI(JTインターナショナル、本社:スイス・ジュネーブ)のもとで再構築整備が先行していた。「JTIは内製型のIT体制です。JT、JTIのITが双方に学ぶことは多々ありました。同時に、双方の情報システムをどのように進化させるべきか、そして、グローバルプラットホームとのシステム統合はじめとした業務変革やガバナンスをどう進めるか、という大きな課題も突きつけられました」(鹿嶋氏)。

そうした中でIT部では、中長期的な変化に対応するためEAのフレームワークを活用したシナリオの検討を開始した。野田氏は次のように説明した。「税制、流通の仕組み、言語やカルチャーも違う中で、ローカルにあるデータ、アプリケーションをまずは可視化し、As-Isモデルを作る考えです。手探りながら、2011年7月以降、段階的に進めてきました」

今後は、ビジネス面におけるTo-Beモデル、Can-Beモデルを策定し、どの業務をグローバルに統合し、ローカルに残すのかという仕分けを行う。IT面では、ビジネス側と対応させる形で、コード体系のグローバルでの統一、ローカルデータの連携、アプリケーションの統廃合などの作業事項をマッピングしていくといった、データマネジメントの取り組みの強化を検討しているという。「ビジネス面ではプロセスの可視化による部門横断的な業務改善、IT面では変化への対応力の強化や総コストの削減といった効果を期待しています」(野田氏)。

EAに取り組む過程で、新たな“気づき”や課題認識が得られたことも収穫だった。「IT部門だけでなくビジネス部門を巻き込んだ全社的な取り組みが必要だと痛感しています。経営トップからミドル層まで、EAの取り組みを通じてビジネス戦略、IT戦略を深く理解し、ベクトルを合わせないといけない。ビジネス部門に、プロセスが分かるビジネスアーキテクトやデータアーキテクトを育てる必要があると思います。おそらく当社だけでなく日本の産業界全体でこの風潮を作っていくべきでしょう。課題は多いですが、これを乗り越えないと成長できない、という覚悟でプロジェクトを進めます」と鹿嶋氏、野田氏は決意を示した。

 

(文責・柏崎吉一/エクリュ)

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