


JDMC会員のD.Force社が入居するGINZA SIX WeWorkオープンスペースにて
JDMCコミュニティ「エンジニアの会」が主催するオープンイベント
2024年8月27日、「ベクトル検索とは?~新しい検索体験とシステム開発へのインパクト」がハイブリッド形式で開催されました。講師を務めたのは、JDMC会員であり、株式会社D.Forceの社長である川上明久さん。進行は「エンジニアの会」のリーダーである峯岸さんが担当しました。イベントには、現地およびオンライン合わせて130名以上が参加し、大変盛況となりました。
本記事では、講義の内容をレポートします。
ベクトル検索の基本概念とその重要性
ベクトル検索とは、単語や文章を数値ベクトルに変換し、それらのベクトル同士の類似度を基に検索結果を返す技術です。この手法により、従来のキーワード検索では対応が難しかった類義語や文脈に基づく検索が可能となり、ユーザーはより直感的で的確な検索体験を得られるようになります。
例えば、「スマートフォン」と「携帯電話」のように意味が近い言葉同士を関連付けられるため、単純なキーワードの一致だけでは拾いきれなかった検索結果も含めることができます。
ベクトル検索の仕組みと動作原理
ベクトル検索では、まず言語モデル(たとえばChatGPTのような大規模自然言語処理モデル)を用いて、単語や文章を数値ベクトルに変換します。変換されたベクトルの距離や向きを計算することで、それらの意味的な類似度を評価し、検索結果として返します。このとき、言語モデルの性能により、似た意味の単語や表現が近いベクトル空間に配置されるため、文脈に沿った柔軟な検索が可能になります。
ベクトル検索の応用例
代表的な応用例として、商品検索が挙げられます。従来のキーワード検索では、ユーザーが入力したキーワードに完全一致する商品しか表示されませんでしたが、ベクトル検索を活用することで、類義語や文脈を考慮した、より関連性の高い商品を提示することが可能になります。これにより、ユーザーは自分の意図に合った商品をより簡単に見つけることができ、検索体験の向上につながります。
また、業界特有の用語にも対応できる点は大きな利点です。たとえば、建設業界では「一輪車」を「猫」と呼ぶことがありますが、ベクトル検索ではこうした専門用語も適切に理解し、正確な検索結果を返すことができます。ただし、これを実現するには、言語モデルが業界特有の用語や文脈を十分に学習している必要があり、適切なモデル選定が重要になります。
システム構成と技術的背景
ベクトル検索を実現するためには、まずデータをベクトル化する言語モデルと、ベクトルデータを格納・検索するベクトルデータベースが必要です。ベクトルデータベースには、効率的に検索を行うためのインデックス機能が備わっており、これを活用することで高速な検索が可能になります。
システムの動作としては、言語モデルがデータをベクトル化し、それをデータベースに格納します。ユーザーが検索クエリを入力すると、クエリもベクトル化され、データベース内のベクトルと比較されます。この比較により、類似度の高いデータが検索結果として返されます。
ベクトル検索には多くの計算が必要となるため、計算リソースの確保と処理の最適化が重要です。特にECサイトのようなリアルタイム性が求められるサービスでは、検索結果を数百ミリ秒以内に返すことが求められます。そのため、GPUを活用した高速化やインデックスの最適化が不可欠ですが、一方でコストの増加という課題も伴います。
ベクトル検索のメリットと課題
ベクトル検索の最大のメリットは、検索の精度が飛躍的に向上することですが、課題も存在します。ベクトル検索は処理量が多く、特に大規模データベースではシステムコストが増大しやすくなります。また、導入には高度な技術知識が必要であり、社内のスキルアップや事前準備が不可欠です。
ベクトル検索の実装例とチューニングのポイント
実装例として、PostgreSQLの拡張機能である「PGベクター」を利用すれば、既存のデータベース環境にベクトル検索を簡単に組み込むことができます。また、Oracleデータベースのような大規模システムでは、独自の言語モデルを内部でホストし、SQLで検索操作を行うことも可能です。
実装時には、検索精度の向上や処理速度の最適化が重要なポイントになります。特に、データのリッチ化、すなわち商品説明やメタデータを充実させることが、検索の精度向上に直結します。
さらに、必要に応じて言語モデルのチューニングを行い、特定ドメインに最適化されたモデルへと再学習させることで、さらに高精度な検索を実現できます。
ベクトル検索の未来と展望
ベクトル検索は今後、より多くの分野で活用が広がると期待されています。大規模データを扱う企業にとっては、重要な技術となるでしょう。その実現には、引き続きデータの質を高めていくことが欠かせません。
現在はECサイトでの活用が目立ちますが、FAQシステム、人材管理、学術論文の検索など、多様な分野での応用が進んでいます。さらに、テキストだけでなく、画像や音声といった非構造データにも適用可能です。たとえば、画像や音声をベクトル化して類似コンテンツを検索することで、新たな発見や利便性が生まれています。将来的には、AIや機械学習と連携することで、さらに高度でパーソナライズされた検索機能の実現が見込まれます。
ベクトル検索におけるデータマネジメントの重要性
ベクトル検索の成功には、質の高いデータマネジメントが鍵となります。検索の精度はデータの質に大きく依存しており、データが正確かつリッチであるほど、より的確な検索結果が得られます。そのため、企業はデータ管理に注力し、継続的にデータの品質を維持・向上させる必要があります。最後に、川上さんは、データを活用したより高度な検索技術が、今後多くの企業やユーザーに大きな価値を提供すると期待を寄せていました。
