日本データマネージメント・コンソーシアム

その他

【JDMCコミュニティ主催】「エンタメ業界のデータマネジメント最前線」 レポート

吉村 武

2024年9月3日、JDMCコミュニティが主催するオープンイベント「エンタメ業界のデータマネジメント最前線」をハイブリッドにて開催した。エンターテインメント業界に焦点を当て、最新の課題や事例が共有されました。

データマネジメントの重要性は徐々に認識され始めていますが、いざ取り組む段階になると業界ごとの事情が異なるため、そのまま適用することは難しいです。業種や業界ごとにナレッジやノウハウを共有する場を設けることで、データマネジメントの活性化に貢献することを目指します。

  本イベントの講演者は4名で株式会社AbemaTVから小澤 和也氏、株式会社GENDAから戸松 真太朗氏、株式会社バンダイナムコネクサスから鈴木 翔大氏、株式会社ディー・エヌ・エーから渡辺ブルーノ氏が各社の事例を発表しました。また、特別講演として、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 今井寿康氏がデータマネジメントの文脈でGoogle Geminiを紹介。本イベントには300名を超える申込があり大変盛況でした。

本記事ではモデレーターを務めた吉村より、各社のセッションについてレポートします。

JDMC会員のGoogleオフィス(渋谷)にて

セマンティックレイヤー導入に向けたABEMAのツール選定
株式会社AbemaTV:アナリティクスエンジニア 小澤 和也氏

元々分析のアナリストとして活動していた小澤氏は、現在はアナリティクスエンジニアとしてセマンティックレイヤーの取り組みを行っています。本セッションでは、主に分析ナレッジの属人化の問題に対応する方法としてセマンティックレイヤーを整備することについて取り上げられました。

セマンティックレイヤーは集計定義を仲介する存在であり、セマンティックレイヤーを整備することで点在されている定義の統制に大きな役割を果たします。

小澤氏は、セマンティックレイヤーを整備するツールの選定方法として、必要な要件をまとめた上でLookerとdbt Cloudを比較して選定する方法ついて説明しました。

FAQでは「分析者がサービスにコミットしている場合、セマンティックレイヤーの導入に積極的にならないのでは?」という質問がありました。これに対して、小澤氏は「アドホックに分析を行った後、統制が必要だと判断されたものについてはアナリティクスエンジニアチームがセマンティックレイヤーの整備に取り組む」と答えました。これにより、分析者自身が積極的に関与しなくても効率的にナレッジが共有され、属人化の問題が解消されることが強調されました。

グループ横断で事業貢献するためのデータマネジメント
株式会社GENDA:データサイエンティスト 戸松 真太朗氏

データマネジメントを進める中で直面する問題と課題は決して少なくありません。本セッションではGENDAのデータマネジメントの取り組みとしてIPデータベース構築の挑戦とそこから得た教訓について戸松氏より紹介されました。

IPデータベースとはIPにまつわる情報を一元的に管理するデータベースのことであり、エンタメ業界で共通の軸でデータ分析を行うためには必要不可欠なものです。GENDAも同様のニーズを持っており、IPデータベースを構築するプロジェクトを行いました。

しかし、構築を進めたところ過度の網羅性と精度へのこだわりが災いし、データベースは完成せず、利用されないままとなりました。いわゆる「大きすぎる挑戦」が仇となったのです。

しかし、失敗から学び次の成功へとつなげる姿勢がGENDAにはありました。

第二期のIPデータベース構築時には教訓を活かし活用シーンを具体的に想定し、小さなスコープから始めることで段階的に規模を拡大する戦略を採用することにしました。

第二期の進め方は、ニーズから始め、無理のないスコープで実施することで着実な進展が期待されています。

GENDAの事例から学べる教訓は明らかです。大規模な計画を一度に完遂しようとする前に、必要なニーズを正確に理解し、小規模から始めて徐々にスケールアップしていくことが成功への鍵となります。データマネジメントの複雑さと課題を克服するために、このアプローチは他の多くの企業にも参考になることでしょう。

バンダイデータレイクの構築と生成AIを活用した分析自動化
株式会社バンダイナムコネクサス:データエンジニア 鈴木 翔大氏

鈴木氏からはバンダイナムコグループがグループ全体で取り組む「データユニバース」というデータ利活用の構想を進めている。今回はおもちゃの領域におけるデータ利活用の具体例について紹介されました。

「データユニバース」の土台となるのはデータ基盤であり、構築する際にはアーキテクチャ設計が重要です。データソースとなるサービスと疎結合なアーキテクチャを採用しています。これによりデータ連携にトラブルがあった時にも復旧が容易になることだそうです。

このデータ基盤の成果事例として、お客様から寄せられるアンケートの分析が紹介されました。アンケートの分析はフリーテキスト形式の回答が多く、全て手作業で確認するのは現実的ではありません。LLM(大規模言語モデル)を利用することで、アンケートのポジティブ・ネガティブ分類を自動化しました。これにより、膨大なデータから迅速かつ正確に顧客のフィードバックを抽出し、製品改善やサービス向上に役立てています。

成功の鍵となっているのは、技術だけではなく事業部とデータ分析部が一緒にプロジェクトチームを結成している点であると語られました。この協力体制により、両部門の専門知識が融合し、プロジェクトの効果性と効率性が大幅に向上しています。こうしたシナジーが、データマネジメントの成功に寄与しているのは間違いありません。

ライブコミュニティ事業へのOpenMetadata導入に向けた取り組み
株式会社ディー・エヌ・エー:

ソリューション本部データ統括部データ基盤部プラットフォームグループ
データエンジニア 渡辺 ブルーノ氏

近年、データマネジメントの重要性がますます高まる中、渡辺氏は組織の再編とデータ管理の改善に注力してきました。チームトポロジー型の組織再編を実施し、プラットフォームと事業部門を明確に分けることで、効率的なデータマネジメントを実現を試みていると紹介されました。

こういった取り組みの背景には、誰でも気軽にVtuberになれるプラットフォーム「IRIAM」の急速な人気上昇があります。IRIAMの成功によりデータマネジメントに対する注目が一気に高まり、より精緻な管理が要求されるようになりました。

データマネジメントを進めるためにはデータマネジメント成熟度アセスメントが重要となって来ますが、データマネジメント成熟度アセスメントは領域が広くどうしても属人的になるという課題を抱えていました。

そこで渡辺氏は、誰でも簡単にデータマネジメントの成熟度を評価できるアセスメント計算シートを作成しました。このシートを活用することで、各事業部門が同一の指標で評価を行い、一貫性のあるデータ管理が実現することができたそうです。

計算シートの導入により、標準化された評価基準が確立されました。これにより、各事業が一貫した基準でデータマネジメントの成熟度を評価できるようになり、全体としての統一性を保つことができたそうです。

また、シートを用いることによって評価プロセスが簡略化され、短時間でのアセスメントが可能となりました。さらに、継続的に評価を行うことで、データマネジメントの改善点が明確になり、具体的な改善策を講じやすくなっています。

今回のイベントでは、データマネジメントの重要性と実際の取り組みについて、多くの貴重な知見が共有されました。参加者の皆様からも多くの感想をいただきました。

多くの参加者が、他社の対応や具体的な事例を聞けたことに対し「非常に興味深かった」「勉強になった」との声を上げていました。

また、「エンタメ業界ならではのナレッジや今日から使えるテクニックが参考になった」、「具体性のある講演で興味を持つことができた」との意見も寄せられており会の趣旨は叶えられたと考えられます。

今回のイベントを通じて、多くの方がデータマネジメントの新たな課題と解決策を学び、今後の業務に活かしていただけることを願っております。

RELATED

PAGE TOP