(JDMC会員 赤津素康)
7月24日(月)開催の定例セミナーは、3月にデータマネジメント賞を受賞された
「みずほ銀行」さまと「レイ・フロンティア」さまの講演。両社ともにマーケティング領域にて、データを収集・蓄積・活用しAIなども駆使して人(顧客)をより良く理解しようという取組みであった。
1.データ活用の変革と顧客インサイトへ迫るマーケティング
中田 英里(みずほ銀行 ビジネス開発推進部 データベースマーケティングチーム)
同行のマーケティングの歴史を辿りながら、その戦略に沿ってデータを統合・活用し顧客理解の高度化を図る活動のお話であった。
銀行の顧客接点は、旧来からの店舗、ATM、ホームページ、電子メール、コールセンターにインターネットバンキング、最近ではSNSやスマホアプリも加え多様化している。こういったチャネルの情報を活用する同行のマーケティング組織は、顧客のCSや生涯収益の極大化を目指して2004~2006年に発足し、 2009年にはデータベースマーケティングチーム、2016年にはビジネス開発推進の名を冠する横断組織へと変容している。
活動は、EBM(イベントベースマーケティング)からスタートして、Analyticsなどを駆使した顧客理解の高度化へと進化し、さらにきめ細かいBBM(行動ベースマーケティング)の導入へと進んでいる。ライフイベントを把握しようというEBMでは、誰(Who)の何のイベント(What)にターゲティングしどのような商材(How)を用意し、どのタイミング(When)でどのチャネル(Where)からアプローチするかを、全て一貫して自ら取組むことを重視し、この前提となるEUCデータと呼ぶ統合DBを整備した。
勘定元帳や取引記録はもとより各種チャネルの情報(ex.Webログ)を一元化し、名寄せし、個人や世帯の切り口から見える化を可能としている。データベースマーケティングの高度化には2面あって、1つはデータの範囲を広げ分析を高度化し顧客を良く知ること、もう1つは顧客接点を増やし関係性を強めることである。
前者のベースにあるのは、価値観から日常行動まで顧客を360°理解しようする6つの視点で、「みずほDNA」と呼ばれる。この視点から外部データも加えて2次加工データとして整備し、これを入力として様々な角度から顧客をプロファイリング(クラスタ分析)する。顧客の行動変化や意識変化も、アソシエーション分析なども駆使して、クラスタ内あるいはクラスタ間の移動として捉えている。
後者としてEBMに加えるのがBBMであり、顧客の変化をデータドリブンで動的に分析し、イベント発生前に予測しようという狙いをもつ。機械学習やLTV(顧客生涯価値)も併せて導入し、アライアンスによって顧客の生活に関わる外部企業と組み、データ入手のみでなくリコメンドの多様化・一本化も狙う。これらを総合したプライベートDMP(Data Management Platform)の継続的な高度化を進めている。
データマネージメントも含めマーケティング視点からの体系的な取り組みが印象的だった。今回は触れられなかったが家計簿アプリなどFintech系の広がりもあり、アライアンスによるデータ連携や金融業の情報産業化は一層拡大すると思われる。
2.行動情報サービスについて
田村 建士 (レイ・フロンティアCEO)
同社は、GIS(Geographic Information System)やAR(Augmented Reality)、AIやUXなどの技術をベースとした2008年創業のベンチャで、「現実と仮想を繋ぐ世界一のサービスを創る」が社是。位置情報に基づきライフログを提供する無料スマホアプリ「SilentLog」、このデータをクラウド上で解析するサービス「SilentLog Analytics」を開発・提供、これらに関係するSIやコンサルもある。
これらを行動情報サービスと総称して、その技術と応用事例について同社のCEOが語った。 SilentLogはスマホを持ち歩くだけで、その人の時間、滞在場所、歩数、移動手段などを自動で記録し表示してくれるアプリで、30代男性を中心に日に2-3万人が利用している。技術的にはGPSに加速度センサを組み合わせバッテリー消費を抑えているのが特徴。
Analyticsでは、SilentLogからの情報だけでなく、SDKを用いてオープンデータや顧客データを収集し組み合わせた分析も可能で、マーケティングを中心に様々な応用も可能でありトライしている。
時間位置データを起点に点(人)・面(地図)・線(動線)を掛け合わせて、時間帯、滞在場所、速度などを割り出せ、人や車の行動を把握できる。移動手段や他のデータと結びつけるための年齢や性別等はAIを用いて推定する。例えば移動手段は最初はスマホユーザのタグ付けによるが、これを教師データとして学習することで判定精度を高める。
応用として、人の行動の誘発、沿線居住者の行動把握、同車種オーナーの行動比較、顧客の動きからの商圏把握、行動パターンからのペルソナ設定など、人の行動からくるマーケティング分析が紹介された。
ドライブログと考えれば、危険運転判定、実用燃費の向上、道路に関わる都市計画など交通系への応用も可能であり、これにもトライしている。
ベンチャらしく技術に事例も交えた具体的なプレゼンで、CEOとして今の社会・IT動向をどう捉えているかという紹介もあって、興味深い講演であった。特にソフトウェアだけでなく自らデータも収集しAIを育てること、個人に利便性を提供する見返りとしてデータ収集が可能になるという視点が印象的だった。
講演後に質問も出ていたが、マーケティングは人の理解でありプライバシとのトレードオフが問題となる。当然のことながら両社とも「お客様から許諾頂いた範囲で活用」と答えられているが、マーケットセグメントのフォーカスは益々絞られ究極は個人の理解となって、社内外の様々な個人データが益々複合されてくるだろう。匿名化されたデータを複合するのは難しいとはいえ、改定個人情報保護法の施行でこの流れは益々加速する。
一方、人へのIoTセンサであるスマホの現実はもっと先行していて厳しいとも言える。我々は波及範囲も良く認識できないまま、利便性と引き換えに色々なソフトやサービスに許諾を出していないか? そして、この許諾で得られたデータの活用は、内外のサービス提供企業の良心に任されているといっても過言ではない。
企業ばかりでなく個人としての「データマネージメント」が必要で、これを支える仕組みやサービスが重要、と強く感じた講演でもあった。
<参加者感想>
・みずほ銀行様の事例は具体的で非常に参考になった。
・みずほ銀行様の内容はとくにリアリティがあり興味深かったです。
・成功事例のお話しを多く聞ければ尚良かったです。
・みずほ様ご講演のみ参加となりましたが、コンシューマに関する情報収集と活用について接点を増やす、強化する事の取組は非常に参考になりました。次回があれば是非プライベートDMP構築に関する苦労話をお聞きしたい。
・みずほ銀行様のご講演が大変素晴らしかったです。データ取集、分析への取組大変勉強になりました。
・最新のデータ活用の内容や方法を知れて有意義でした。
・実際に利用現場での詳しいお話を伺えて大変参考になりました。
・銀行のマーケティングの歴史を学ぶことができた。
・少しテクニカルな話が聞けると大満足になった。
・2講演とも中身の濃いプレゼンテーションで大変勉強になりました。
・自社システムに直接的に参考になる点は少なかったが、一般的なデータ分析・活用のトレンドめいたものを情報として得られたのは良かった。
・同業・非同業を問わず、他社の事例をお聞かせ頂くのは非常に勉強になると同時に、今回は気付きも多い内容だった。
・ユーザーからのデータ入手に(ゲーム的な要素を取り入れる等)色々と工夫されているレイ・フロンティアさんの事例は特に学びが多かった。
・データ活用の取り組みは正解が無く、各社での取り組み・苦労されている点(例:名寄せの苦労、個人情報の遵法)などを聞かせていただいき大変参考になりました。
・2社様とも、お客様にどのような価値をお届けするのか?が活動の起点となっており、当たり前のことを当たり前に進めることが大切であることを改めて実感いたしました。
・よくここまで公開してくれまた。
・二つも示唆に富む内容でした。
・2つの企業ともに、大変興味深い取り組みをされており、参考になりました。
・貴重な機会を賜り、感謝申し上げます。