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レポート

第52回JDMC定例セミナー報告;ITアーキテクチャのセオリー

(セミナー部会・脇本 康宣)

2020年9月10日開催の第52回定例セミナーは、新型コロナウイルスが未だ収束の見通しが立たない中、YouTubeプレミアによる会員限定の動画配信となった。
「ITアーキテクチャのセオリー」というテーマで中山嘉之氏による講演があり、その後、元クックパッドの中野仁氏との対談があった。企業において「長く使えるシステムをどう構築するか?」は非常に重要な課題であるということもあり、約120名と大変多くの会員の方々にご視聴いただいた。

講演:「ITアーキテクチャのセオリー、講義と対談」
株式会社アイ・ティ・イノベーション シニアコンサルタント 中山嘉之

巨大化、複雑化した企業システムをどのように再構築すればよいか? 課題を抱えている企業が多いのではないか? 基幹系システムの増改築を繰り返すと全体の整合性の維持が困難になってしまうことがある。また、システムを開発するときはプロジェクトの成功に重点を置くことが多いが、ユーザ企業では投資開発したシステムを長期間運用・保守していく必要があるため、バグのないシステムだけではなく、企業にとって魅力的で長持ちするシステムを作っていかなければならない。

では、どのように企業システムを再構築すればよいのだろうか? 中山氏は、ITアーキテクチャ(構造)のセオリーが最も重要であると中山氏は長年主張しており、ITにも「都市計画が必要である」という。都市は都市計画法によって、利便性や景観などの秩序が保たれている。企業システムも同様にITアーキテクチャの未来図を描くと共に現状からの移行シナリオが必要になる。そのITアーキテクチャを考える上でのセオリーを、盛りだくさんの内容で紹介していただいた。すべてを記載することはできないが、そのセオリーのエッセンスを以下に紹介したい。

  • 適材適所を可能にするシステム構造
    営業、調達、生産などライン業務ごとに適材適所なシステム配置ができれば理想的である。そのためには「データセントリックな適材適所のアーキテクチャ」という考え方で、業務色に染まっていない全社共通データを軸に、自社に最適な業務システムを組み合わせて配置することがポイントになる。

  •  アーキテクチャ
    昔からEA(Enterprise Architecture)はあったが、うまくいかないことが多かった。それは日本人の特性として、精緻に現状(Asis)を書こうとしてうまく進まなかったことが背景にあるのではないか。うまく進めるためのポイントはすべてを精緻に可視化するのではなく、現状(Asis)とあるべき姿(Tobe)の全体像を描き、必要に応じて、部分的に深堀することがポイントになる。

  • 戦略ソリューション(データHubの必要性)
    大規模企業システムではブラックボックス化、スラム化が課題であり、放置すればシステムの運用保守の迅速性や情報品質に大きな問題が発生する。この課題は無秩序なアプリケーションのデータ連携の構築に起因しているという。そのため、データ連携をピアtoピア型からハブ&スポーク型へトポロジを変え、データ連携のインタフェースを標準化することがポイントになる。

  • 移行(マイグレーション)
    企業システムを移行する際は段階的にアーキテクチャを展開し、将来的にはプラットフォームフリーの形にもっていくことが重要である。また、AMO(アーキテクチャ・マネジメント・オフィス)という組織を設置し、企業が目指すべきITアークテクチャの実現に向けて、ビジネス、データ、アプリケーション、テクノロジの各レイヤーの整合性を保持・管理することも必要であるという。

講演後、中山氏と中野氏の対談があった。社内システムの企画・導入を長年経験してこられた中野氏から多くの鋭い質問が中山氏に投げかけられた。中野氏の今までの経験から、データ連携というとデータクレンジングや名寄せなどテクニカルな部分が多かったり、システムのサイロ化で苦労したりすることが多かった。中山氏のように企業全体を俯瞰してアプローチしていくという考え方が非常に特徴的という。この対談を通して、視野を広く持つことの大切さ、人材育成、ITアーキテクチャを管理する組織の必要性などについて、多角的に理解が深まったのではないだろうか。 

中山氏は2018年に『システム構築の大前提-ITアーキテクチャのセオリー』という著書を出版しており、その要約版として本セミナーで紹介していただいた。内容を詳しく知りたい方はぜひこの本を読んでいただきたい。

 

 

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