CRM研究会メンバー・株式会社クレオ 関 智美
2020年9月17日(木)に、CRM研究会オープン研究会を開催しました。
CRM研究会では、CRM(Customer Relationship Management)にフォーカスし、顧客起点のデータマネージメント研究を進めています。昨年はカスタマージャーニーのフレームワークを固めました。今年は各メンバーが自社のビジネスにあてはめて、ペルソナ、カスタマージャーニーマップを作成、発表するワークショップを行っています。
今回、外部講師にお越しいただいてのオープン研究会が実現しました。研究会では、顧客の気持ちを定量化し分析をする心理ロイヤルティマーケティングを学びました。
マーケティング4.0の時代は商品やサービスを売るだけではなく、顧客との関係を築き、ファンになってもらうことがマーケティングの本質となっていきます。顧客の気持ちを定量化することで、顧客との関係性が見える化できます。想像ではない、リアルなカスタマージャーニーを作成することもできます。リアルだからこそ実務への活用度も高まります。
心理ロイヤルティマーケティングは、BtoB、BtoCのどちらにも活用できるものです。企業の継続的な経営において今後はさらに重要になっていくものだと感じました。
講義内容等は、下記にまとめました。
◆オープン研究会概要
2020年9月17日(木)開催
第1部 : 18:00-19:00 オープン研究会(JDMC会員限定)
ゲスト講師による講義:
テーマ:「お客様の心をつかむ 心理ロイヤルティマーケティング
~「心の満足」と「頭の満足」を測り、科学的にロイヤルティを高める方法~」
講 師 : 渡部 弘毅様 ISラボ 代表
第2部: 19:00-20:00 オープン研究会(登録メンバー限定) 渡部氏との質疑と研究会
<進行・リーダー/サブリーダー>
逸見光次郎さん 株式会社CaTラボ
星 祐輝さん 株式会社 三越伊勢丹
武藤奈緒子さん 株式会社みずほ銀行
◆講義内容
1.マーケティング4.0の到来
マーケティング4.0時代、社会のデジタルシフトの加速によりマーケティングは「狩猟型マーケティング(企業と顧客はハンターと獲物の関係)」から「農耕型マーケティング(企業と顧客は社会の共存共栄関係)」に変革する。それは「購買者づくり」から「ファンづくり」への変化でもある。カスタマージャーニーの取り組みについてもファンづくりを目的としたロイヤルティマネジメントへの変革が求められる。マーケティング4.0時代のマーケティング活動では、ロイヤルティ(顧客の気持ち)を構造化・定量化し、見える化することが重要な取り組み課題である。そのアウトプットが、カスタマージャーニー(マップ)となる。顧客のロイヤルティを見える化し、ファンをつくっていくためにはカスタマージャーニーマップは有効なツールとなる。顧客との継続的な関係を築いていくファンづくりには、顧客がプロセスごとにどのようなポジティブな体験をしているのか、ネガティブな体験をしているのかを洗い出し、良い体験を提供することが重要になる。
2.ロイヤルティの構造化
ロイヤルティには「経済ロイヤルティ」「行動ロイヤルティ」「心理ロイヤルティ」がある。経済ロイヤルティ、行動ロイヤルティは顧客との取引データや来店履歴、ホームページのアクセス履歴などで比較的容易に定量化できる。心理ロイヤルティは顧客の愛着度。心理ロイヤルティの高い顧客の行動ロイヤルティを高めて、経済ロイヤルティにつなげていくロイヤルティマネジメントが重要になる。 心理ロイヤルティはアンケート調査で定量化する。
【ロイヤルティの構造化】
ロイヤルティは複数のロイヤルティドライバーの満足から形成される。
- ロイヤルティドライバーには、基本価値ドライバーと体験価値ドライバーがある。基本価値ドライバーは、小売業でいえば、品揃え、品質、デザイン、価格など。クラウドベンダーでいえば、サービスの先進性や機能性、操作性など。体験価値ドライバーは、商品を選択・購入し、使用するプロセスで生まれる価値。
- 満足には、頭の満足(論理的満足)、心の満足(感情的満足)がある。頭の満足、心の満足に影響を及ぼすのは顧客体験。顧客体験には、ポジティブ体験、ネガティブ体験がある。ポジティブ体験は心の満足に良い影響を及ぼしている感動体験。ネガティブ体験は心の満足に悪い影響を及ぼしている落胆体験。
アンケートをとって、どんな体験がポジティブ体験につながっているのか、ネガティブ体験につながっているのかを洗い出し、具体的に因果関係を定量化する。
3.ロイヤルティの定量化
心理ロイヤルティを定量化(見える化)するための5つの指標がある。
- 「ロイヤルティスコア」
企業や商品・サービスに対する心理ロイヤルティ。「正味お客様推奨率」(Net Promoter ScoreⓇ)、「正味お客様継続率」(Net Repeater Score)がある。推奨意向、継続利用意向を測る質問をする。 - 「ドライバー満足度」
頭の満足(論理的満足)を、5段階の満足度調査で測る。“大変満足”、“満足”をつけた人達を抜き出し、その人達のロイヤルティスコアを測る。それが高いか低いかが心の満足(感情的満足)になる。 - 「ドライバー琴線感度」
満足度が高い人の集団のロイヤルティが高い場合、そのドライバーはお客様の心に響き、琴線に触れている可能性が高いと解釈し、そのスコアを琴線感度とする。 - 「体験頻度」
ロイヤルティドライバーごとにリストアップされたポジティブ体験とネガティブ体験の選択肢のチェック率。チェック率=体験頻度が高いほどロイヤルティドライバーの満足に影響を与える。 - 「体験琴線感度」
ポジティブ体験(感動体験)、ネガティブ体験(落胆体験)を測る指標。
感動体験の場合、ポジティブ体験でチェックした人だけを抜き出し、ロイヤルティスコアを測る。体験した人のロイヤルティが高ければ、その体験は琴線に触れる感動体験といえる。ネガティブ体験をした人のロイヤルティスコアが低い場合、落胆体験といえる。
定量化した5つの指標を一連に組み立て、見える化したものが心理ロイヤルティ視点でのカスタマージャーニーマップになる。
4.ロイヤルティの分析
一般的な分析レポートの事例についての特徴や活用方法。
- 「ロイヤルティ ドライバーマッピング分析」
頭の満足のドライバー満足度を横軸に、心の満足のドライバー琴線度を縦軸にとり、各ドライバーをプロットした散布図の分析。どこに力を入れればいいかがわかる。 - 「個別ロイヤルティ ドライバー分析」
カスタマーサポートの状況を定量的に把握してロイヤルティの向上施策に活かす。 - 「セグメント別ロイヤルティ比較分析」
顧客セグメントを定義し、それ以外の顧客セグメントとロイヤルティを比較する。 - 「感動体験ランキング分析」
ロイヤルティドライバーごとにネガティブ体験とポジティブ体験の体験頻度をアンケートのチェック率で算出する。上位にランキングされるほど頻度が高い体験で、頭の満足への影響が大きい。さらに各体験の頻度を算出する。対象となるロイヤルティドライバーの顧客体験を優先した施策を具体化する。 - 「セグメント別 琴線感度比較」
ロイヤルティスコアやドライバーの頭の満足と心の満足を顧客セグメント間で比較し、ターゲティング戦略を立案し、ターゲットセグメントの差別化を検討する。
【まとめ】
- マーケティング4.0時代では、目的を「購買者づくり」から「ファンづくり」に変更し、顧客体験を起点とするロイヤルティマネジメントタイプへの変革が求められている。
- そのためには、心理ロイヤルティを構造化&定量化し見える化することが需要であり、3階層にすることで可能になる。
- 見える化されたロイヤルティを様々な視点で分析・考察することで、ロイヤルティ向上施策が立案可能になる。