日本データマネージメント・コンソーシアム

レポート

第49回JDMC定例セミナー報告:DX推進の鍵を握るDATAでやるべきこと

(JDMC事務局・遠藤秀則)

12月9日(月)開催の第49回定例セミナーは、SAPジャパン株式会社の「SAP Leonardo Experience Center Tokyo」をお借りし、Denodo Technologies 株式会社 赤羽様と日本電信電話株式会社 駒沢様のご講演、後半は駒沢様、ダッソー・システムズ 水谷様、クオリカ 佐野様によるトークセッションがおこなわれた。会場の「SAP Leonardo Experience Center Tokyo」は今年8月に大手町に開設された顧客のデジタル変革やイノベーションを推進するための施設である。アトラクティブな会場には多くの方がお越しいただき、活発な質疑応答もあり、大盛況のうちに終了した。

 

●オープニング:「データ統合の夜明け」

Denodo Technologies 株式会社  
パートナー戦略部長
赤羽 善浩様

Denodo Technologiesは、1999年スペインの大学教授が創業した企業で、高性能で柔軟なデータ連携、データ抽象化、リアルタイムのデータ・サービスをエンタープライズ企業に提供しているデータ仮想化市場をリードする企業であると会社紹介があった。テータ統合市場の中でもデータ仮想化市場の伸びは大きく、前年度比13%で成長していると市場の概況を、また、従来のデータ連携方法だとデータ分析者は分析に割ける稼働は20%だけで残りの80%はデータプレパレーションに時間を割いているというデータ利活用環境の課題を示してくれた。IT部門とビジネスユーザ部門にはジレンマが存在すると赤羽さんの説明が続いた。データ収集と保管に重点を置いたIT部門と、データ分析と視覚化に焦点を当てたビジネス部門が存在するが、この2部門を繋ぐデータ配信に重点を置く部門が不在なため、その結果脆弱な個別連携が乱立し、大量の複製データを作成しているというのである。IT部門とビジネスユーザ部門の間に抽象化レイヤを入れて両者に良い意味での独立権を与えることが解決の一つで、そのソリューションがDenodoと赤羽さんは語る。Denodoにより「データの物理的な複製なし」で「ポリシーに基づいたエンタープライズレベルのガバナンスを担保」し「リアルタイムにデータ統合」が可能になると赤羽さんは締めくくった。

●講演1:「Dx推進のカギを握るDATAでやるべきこと」

日本電信電話株式会社
技術企画部門 IT推進室 担当部長
駒沢 健様

講演者の駒沢さんは、JDMC 2018年データマネジメント大賞「グループ経営情報見える化基盤の構築」受賞者である。その後さらにDxを推進していく中で得られた知見を今回講演いただいた。

駒沢さんの講演はDigital Transformation(Dx)の定義から始まった。Dxの提唱者Eric StoltermanによるとDxとは「進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること」だという。「Digitalization=業務が改善される」ことと「Digital Transformation=ビジネス/業務が変わる」ことは異なるが、Dxは後者のことと捉えている。Dxのユースケースも3つの分類が考えられる。一つめがウーバーやエアービーアンドビーのようなデジタルビジネスそのもの、二つめはアマゾンなどが行っているパーソナライズ、三つめがSuicaのような脱アナログへの使われ方だ。
Dxによる改革を行うにあたっては、今一度企業システム全体をとらえる必要があり、実現するためのフレームワークとしてのエンタープライズアーキテクチャの紹介があった。
これまでの事業会社個別最適なシステムを全体最適化、共通化を図ったITシステムに変えていくわけだが、エンタープライズアーキテクチャを用いて共通化を進めた。用いたのはTOGAF(The Open Group Architecture Framework)であった。
データの観点における成功させるポイントは、「マスターとトランザクションを明確に分け同定すること」、「コードのオーナーを決めること」、「目的を明確にすること」そして「目的に沿ったビューに変えて見せること」である。
ルール、文化、組織の変革のためのチェンジマネジメントも重要である。しかしCIOの46%が「文化が最大の障壁」と答えているようにこの部分の変革は難しい。風土は自然に沿って動くが、文化は理念や哲学があって意志をもって動いているからだ。文化を変えていくには、「小さなことから成果を積み重ねる」→「成果を共有する」→「組織的活動へ移行」するアプローチが必要(時間もお金もかかる)だと駒沢さんは解説してくれた。

次に、Dxの成否を判断するためのKPIについて紹介があった。これまでCS(顧客満足度)で計測していたが、DxのKPIはNPS(顧客ロイヤリティ)がよいと考えている。CSの「現在」を測るのに対しNPSでは「未来」を測る。CSでは薄かった収益との連動性もNPSでは高いことがその理由のひとつである。

●トークセッション:「企業の内部統制とデータガバナンス戦略~今あらためてEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)に注目する~」

駒沢 健様 日本電信電話株式会社
水谷 哲様 MDMとデータガバナンス研究会リーダー/ダッソー・システムズ
佐野 努様 経営におけるデータ活用ガイドの研究会リーダー/クオリカ

トークセッションではJDMCの研究会であるデータガバナンス研究会の水谷さんと経営におけるデータ活用ガイド研究会の佐野さんがモデレーターになり、講演いただいた駒沢さんに再度登場していただいた。NTTグループにおけるITガバナンス活動の原動力を尋ねる質問からセッションが開始された。前職がCIOでデータ経営に造詣が深かったCEOがトップダウンでビジョンを示したことが強い原動力となったと駒沢さんは話す。合わせてボトムアップな環境としてTOGAF認定資格者がグループ全体で500人いることも挙げた。例として、今年の7月NTTの海外企業再編成があった時、ビヘイビア、バックグラウンドの異なる各国のメンバがTOGAFを共通言語としてフレームワークを使うことで、短期間で本質的なディスカッションに入ることができたエピソードを紹介してくれた。

次にデータの品質について重要なポイントをお聞きした。まずデータのオーナーを決め、そしてどのように品質を担保するのかという点に多くの時間を割いて議論したこと。データの流れからいうと、川上側 (データの作成者)が強く出がちで、川下側(データの利用者) に押し付けられる場面が多いと思うが、川上川下によらず、どのシステムが担保するのかを決めることが大切であると語った。会場からの質問も含めて大いに議論が交わされセッションが終了した。

駒沢さんの講演は、EAという理論だけでなく、自ら が推進してきたプロジェクトからの知見である。経験に裏付けられた内容はどれも説得力があり興味深く傾聴できたチェンジマネジメントに関して、テクノロジーが関与するのが2割、残り8割が人間系だという話が印象に残った。

登壇いただきましたDenodo Technologies 株式会社 赤羽様、日本電信電話株式会社 駒沢様、ダッソー・システムズ株式会社 水谷様、クオリカ式会社 佐野様、会場を提供いただきましたSAPジャパン株式会社様ありがとうございました。

 

<参加者アンケート>

・NTTグループでの事例は大変参考になりました。DXをどう考えるのか、そこに向けてのアプローチは興味深かった。また、データを収集した側でのデータクレンジングがとても大変とは理解し実感を持っていたが、同じ話伺い納得し、その結果として上流を改善するということは新しい切り口でした。

・具体的なお話しが多く勉強になりました。EAのピラミッド最下層に文化・風土を追加されたのは面白い発想と思いました。

・現在、基幹業務システムを担当している。世の中がDxを推進していく中で、新たなビジネスチャンスがないかを模索していた。 講演で、NTTグループがSoRとSoEの区分けし、それぞれに濃淡付けて推進されて、データアーキテクチャはグループ共通とされていることが、とても勉強となりました。

・コーディネータの二人にもプレゼンも聞きたかった。

・DXの捉え方、取り組みが、大変興味深かった。勉強になった。

・超大企業での推進は大変だったと思いますが、ベースとなるTOGAFのような思想がしっかり共有されていたのは流石だと思いました。

・Dxのためのデータ準備については、同じような悩みを持っていることを改めて理解しました。データ準備のための運用について参考になりました。

・Denodoの仮想化製品は、従来の定番だったRedhat Data Virtulizationと比べ使い勝手を考えた良心的な製品に思えました。駒澤さんの講演はEAの教科書とも言うべき進め方で、日本企業でもそれができる事がわかったのが収穫でした。

・具体的で分かりやすかった。 やった事・やらなくてはいけない事を、理由から目的まで説明していただき大変参考になりました。 DXとデータ活用を分けてではなく、繋がりのある、繋がる必要がある事を分かりやすく説明していただいたのは、大変貴重でした。ありがとうございます。

・実践的事例情報として、NTTグループにおけるDX推進プロジェクトの中心人物である駒沢氏が、自身の経験に基づく生情報を脚色することなく、ありのままの形で、多様な参加者に理解できるよう、非常に丁寧に、順を追って説明してくれた。中でも最後のチェンマネの話や2Wayアプローチは、非常に実践的で、PJ推進に苦労されているITリーダにとって、大変示唆に富んだ内容であった。

・特に新しい知見を得ることはできなかった。

・IoT・AI研究会でEAをベースとしたアーキテクチャ検討を行っているので、その実例として大変参考になった。DX推進の一環として、組織カルチャーの変更をマネジメントすることが重要である事は大変納得。超巨大組織でどのような取り組みを今後進められて行かれるか興味深い。

・日本企業特有の問題点が多く語られて参考になった。また、 外国の情報活用と比べると日本のトップ企業でも10年近く遅れている点や、それで生き残っている点に日本としての問題があると思う。 理想は何年も前から理解できているが、実行できるかが一番の問題だと思われる。

・データマネジメント実践をされている方からも、半分以上は人間系、Change Managementに苦心されているという話が聞けたのは大変勉強になりました。

・DXというと、ツールやテクノロジーに前のめりになりがしだが、データ品質や組織への浸透など地道な活動も当然必要だというのが良く分かった。

・EAによる標準化を進めるうえでのチェンジマネジメントの重要性と経営者のコミット、現場の慣れを考慮した対応などを知ることができ良かった。

・NTTグループのデータガバナンスを学ぶことができた。EAにも取り組んでおられるので他社にも見習ってほしいと思った。

 

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