第54回定例セミナー報告:データ駆動型カイゼンによる既存システムの大幅なスリム化とDXへの道筋

(事務局・遠藤秀則)

2020年11月6日(金)開催の第54回定例セミナーは、SAPジャパン株式会社の「SAP Leonardo Experience Center Tokyo」をお借りし、テーマ「データ駆動型カイゼンによる既存システムの大幅なスリム化とDXへの道筋」と題して、株式会社トヨタシステムズ 小野里樹氏、富士通株式会社 鈴木庸介氏によるリレー形式のご講演、後半は小野氏、鈴木氏、JDMC研究員でダッソー・システムズ株式会社 水谷哲氏による鼎談をライブ配信の形式で実施した。

 

リレー講演1

小野 里樹氏
株式会社トヨタシステムズ
製品情報管理本部 設計管理IT部 工程・用品GGM

 

老朽システムの更新コストの問題

なぜシステムのスリム化にかかろうと思ったのか。活動背景の説明から講演が始まった。
トヨタには大小合わせて数百ものシステムが稼働している。仮にひとつのシステムの更新サイクルが10年とすると、更新コストが年間、数百億円かかってしまう。これは明らかに問題、コストをかけるべき優先度が違っていると感じた。作りすぎのムダである。アプリケーションは長年の機能追加や改修により、その規模は拡大傾向、業務変化に伴い使われなくなった機能も削除されず、更新時も仕様不明確のため、とりあえず現行踏襲され機能は削減されない。なぜ小野さんが、作りすぎのムダへの対応を最初に取り組もうと思ったのか。それは、トヨタ生産方式 TPS において7つのムダが定義されているが、そのなかでも最大のムダが、作りすぎのムダだからである。これは生産現場だけでなく情報領域でも同様と捉え、ここを改善していく必要があると考えた。

 

データアプローチによるシステムスリム化

次に作りすぎのムダにどのようにアプローチしていったのか、解説が続いた。着目したのはデータを起点としたシステムのスリム化だった。その理由のひとつ目が機能をスリム化するには、その機能が使っているデータのスリム化が必須であること、二つめが機能起点では業務障害を恐れるあまり、抜本的なスリム化を行えない。ユーザを納得させる根拠を得るためにはデータを起点でアプローチすべきと考えたからである。

具体的には、二つのデータアプローチで進めた。データモデリング(構造を見る)とデータプロファイリング(中身を見る)である。プロファイリングは7つの分析観点で作業を進めたが、その中の一つの観点「定義アンユース」の実例を示してくれた。「定義アンユース」は、定義はされているが、該当データが0件、または微小件数のものであるを示すが、分析例では、7つの区分のうち上位2つの区分だけで96%を超えている。残り5つの区分、ここが今となっては過剰機能、作りすぎのムダと捉え、このデータをもとにユーザと交渉し、機能で4割、データサイズで5割の削減を実現したというものである。システム全体では598個のスリム化の課題を抽出・検討し、45%の規模を削減した。

 

DXへの道筋

ここまではレガシーからの脱却、削減したリソースはDXに充てたいと考えている。DX への道筋は、近未来のフォアキャスティングと未来のバックキャスティングの双方向で未来を描く。しかしながら、未来の解像度が低いために、近未来のための活動に一歩踏み出せないという問題に直面した。そこで、ここにもデータモデリング、データプロファイリングを活用し、高解像度の近未来予測にチャレンジした。具体的には、データモデルを活用した未来を描くワークショップを開催し、20年先までの未来年表を参考に自分なりのTOYOTAの未来を予測、5年後の業務・システムのビジョンを描いて、ビジョン実現のために必要なデータを明確化するものである。DXの1段目の施策が現データと紐づいているため、具体的な第一歩が踏み出せるという大きな特徴を持つ。ゴールまでの道筋は容易なものではないと思うが、データに紐づいた段階的なデジタル化計画によって、必ずたどり着きたいと考えている。この活動の中心にあるのは間違いなくデータマネジメントであるというメッセージで小野さんの講演は終了した。

 

リレー講演2

鈴木 庸介氏
富士通株式会社
サービステクノロジー本部
システム技術統括部
JDMC MDM研究会メンバー


データからのアプローチはレガシー脱却の一つの解

上記取り組みのパートナーである鈴木さんからデータアーキテクトの立場でお話をいただいた。

アプリケーション資産(機能)の観点のみでスリム化を考えてしまうと、失敗を起こしがちである。過去の履歴データが見えなくなる、レアケースに対応できなくなる、同期が取れなくなったなどである。結局トラブルや業務への影響を恐れて、大胆なスリム化に踏み切れなくなる。お勧めはデータ観点でのスリム化アプローチ。価値あるデータを特定・洗練し、それを扱う業務・機能を適正化するものである。

 

既存システム刷新の前にデータの見える化を

いつデータを見える化すべきか、富士通社内データから紹介していただいた。システム開発におけるデータ起因のトラブルは「分析」や「計画」の不備・不足、「仕様漏れ」やデータの「不整合」、「想定外」データの存在などによるものが上位を占め、現行調査や企画のタイミングでデータを見える化すべきと結論付けられる。今回のトヨタさんの見える化も構想検討(現行調査)フェーズで実施した。

 

DXへの道はデータマネジメントで切り拓く

データの見える化はデータマネジメントの始まり、ここでスタートラインにたてる。DXへの道筋はデータマネジメントが支える。DXでやりたいことがあってもそれは下支えがあってのことと捉えている。

 

 

鼎談

小野 里樹氏
株式会社トヨタシステムズ
製品情報管理本部 設計管理IT部 工程・用品GGM

鈴木 庸介氏
富士通株式会社
サービステクノロジー本部
システム技術統括部
JDMC MDM研究会メンバー

水谷  哲氏
JDMC研究員
ダッソー・システムズ株式会社 Center of Excellence
ソリューションコンサルタント
JDMC MDM研究会リーダー

 

リレー講演を受け、水谷さんが聞き手となって鼎談がスタートした。

データを起点としたスリム化が今回の着目点だったが、なぜデータを見るのか。なぜデータを起点にしてプログラムが減るのか。(水谷氏)

データに余分なものがあれば、余計な機能も作りこまれていると考えられる。しかし、作った時は必要だったはずで、現時点での要否は定義されたものさしを使って判断した。

業務の仕様をきちんとデータで表すことが必要で、これをデータモデリングと呼んでいる。一般に使われるDB 設計プロセスのデータモデリング、テーブル設計などとは異なる。スリム化に用いるデータモデルは、設計が目的ではなく、現行業務分析に非常に強力な手段である。これにより要否も明確にすることができる。(小野氏/鈴木氏)

世の中ではデータ改善、データ改革といった活動は、事前に計画が立てづらく、外部環境の変化などの影響により、Goがかからない、途中で凍結といった話もよく聞く。このプロジェクトも、データモデリング、データプロファイリング、…、いつ終わるのかも示しづらく、このプロジェクトの承認も難しかったのではないか。(水谷氏)

そのとおり。プロジェクト承認まで2年かかっている。機能起点で活動スタートしていたが、ある時点で頓挫しかかった。ただし、保守費の削減と小さなシステムによる改善のリードタイムの短縮という解決したい課題認識は上位マネジメントと合っていたので、プロジェクトを止められるところまではいかなかった。データ起点+富士通さんの関わりで費用対効果等、上位の関心に答えることができ、プロジェクト承認を得られた。(小野氏)

社内のシステム部門に開発に長けている人は多いと思うが、データに長けている人は多くない。難しいというわけでもないが、経験がないと対応は難しい。この部分はパートナーの力を借りるのも一案だと思う。(鈴木氏)

 

最後に3人から視聴者に向けたメッセージをいただきセミナーは終了した。

・今回事例として紹介したが、一筋縄ではいかないことも事実。データに着目するとスリム化であったり、その先のDX で利活用するときに役立つ。小さなスタートからやってみよう。困ったら JDMC などコミュニティの知見を使ってもいいのでは。(鈴木氏)

・今回紹介したシステムの更新に限った話ではなく、抱えている課題が違っても進め出せないでいる人たちの参考になってくれるとうれしい。声を発し続けることで、仲間作りができ達成できると考える。(小野氏)

・未来のデジタルの前に近くのデータに着目してみよう。(水谷氏)

 

 

<視聴者アンケート(抜粋)>

  • どこでも問題になっている再構築でも断捨離が見える化されることができている様で為になった。
  • 機能検討では進まなかった不要なシステムの削減が、データドリブンで進めることができたという実体験を伺えて、非常に感動しました。
  • 水谷さんのMCぶりが素晴らしかった。
  • 大変難しいテーマを限られた時間の中でポイントを絞ってご説明いただけた。
  • トヨタの改善xデータモデリングというトピックは非常に面白かった。
  • 昔からデータモデリングに携わっているものには当たり前の面もあるが、このような見せ方をすると多くの人に興味を持ってもらえ、データマネジメントの有効な技法として訴求できる点に感心しました。
  • 具体的で丁寧かつわかりやすかった。
  • 最終エンドユーザーではない立場でシステムのムダを除く取り組みは非常に参考になった。我々もデータドリブンの考え方を検討したい。
  • データモデリングにより既存システムのスリム化を図るアプローチは大変参考になりました
  • 単なる老朽更新ではなく、データ管理を軸にした再構築の事例として大変参考になった。
  • モード1のDX には、ビジネスで発生する全てのデータを捕獲しデータドリブンの意思決定が可能な状態にする、ビジネスプロセスやタスクに対してマイニングを実施し無駄なプロセスや機械的なタスクをビジネスから排除する、既存システム資産(データと機能)をスリム化する、の3点が有効だと私的に考えており、そのベースにはデータマネジメントが存在しています。今回はこの3番めの要素からのアプローチの話しで以前にも他のセミナーで一度聞いた内容でしたが、今回は後段にパネルディスカッション形式の対話があり更に理解が深まりました。
  • 分かりやすい説明でした。小野さんの諦めずに取り組んだという泥臭い話も良かったです。
  • データのスリム化、まさに必要であると再認識できました。
  • 実務者のお話だったので、苦労が伝わってきた点もよかったです。 ありがとうございました。
  • データマネジメントという視点やフレームワークへの新たな気づきと学びが得られました。
  • せっかく良い内容で多くの人に見て欲しいので、いつでも誰でもみれるようにして頂きたいです。
  • 講演内容を補足しての対談もあり、十分理解しました。
  • スリム化がそんなにできることに驚きで、無駄なものを運用してコストを掛け続け、システムというブラックボックスに小手先の対応を続けた歴史の現れということで、正に今の自身の境遇に似ていて参考になりました。
  • データモデルで業務プロセスとの関連が見える化できる事に驚きました。また、その結果で廃止根拠が明確化出来た点に納得感を持ちました。
  • 短い時間で要点をまとめられたセミナーで良かったと思います。今回の紹介事例の裏には多大な苦労があったのではと推測されますが、そこまで情熱をもって進められたことはすごいと思いました。
  • とても素晴らしいと思いました。
  • 鼎談で踏み込んだ話を聞かせて頂き、とてもよかったです。
  • 機能のスリム化の前提は、機能が取り扱うデータのスリム化であった、という観点はとても参考になりました。
  • データのスリム化を検討する際に、単に、システムで取り扱われているデータだけでなく、業務上必要なデータがどこでどのように誰によって利用されているか、まで含めたデータモデリングへのアプローチも共感しました。 一方で、これを実際に推進していくには、かなりのエネルギー(工数、予算、知識、モデリング技術、スポンサーのサポート等)が必要で、一貫した継続的取り組みにするには、覚悟のいることのように感じました。今回の成功体験事例とその背景のご苦労談は、大変参考になりました。どうもありがとうございました。
  • システムのスリム化のために、「いる・いらない」のもの差しを探す必要があり、まずは実データを見ることが初めの一歩として重要だと知りました。ご提示いただいたプロファイリングの7つの分析観点をもとにトライしてみたいと感じました。 お話しいただいた分析の観点や手法、経験談は非常に有効なものでした。
  • 『業務」を表現するためにデータモデリングにおいて重視されたこと、プロファイリングの実態等について更に詳しいお話しを伺ってみたいと思いました。
  • 素晴らしい講演でした。有り難うございました。 質問を受け付けて頂きたい。
  • データモデリング、データプロファイリングの有用性・必要性についてこれほど分かりやすく説得力ある形で提示したコンテンツは、他に見たことがなかった。非常に参考になった。
  • 踏み込んだ内容や想いも伺うことが出来、非常に参考になり勇気づけられました。ありがとうございました。
  • よく纏まった講演でした。鼎談もよい構成と質疑、応答でした。
  • もっと詳細にお話を伺いたかったです。テーマにすごく関心がありましたが、私の無知さもあり、取り組まれたことのイメージしづらかったです。資料など開示いただけるとありがたいです。
  • データ起点のスリム化を目指した動機、苦労などとても分かりやすかったです。
  • 似たようなことに取り組んでいるので励みになりました。ありがとうございました。
  • 画期的なアプローチを実直に取組み、あきらめずにやり抜くストーリーに感動しました。データから始める事がパワーになることを改めて確信しました。勇気をいただきました、ありがとうございます。
  • データマネジメントの知識だけではなく、実行力に繋がるような内容が聴けてよかった。
  • システムのスリム化にデータからのアプローチをされ、それがDXへの投資と下支えする基盤につながるという理想に向かって果敢に挑戦され、成果を出されている。素晴らしいです。
  • DX推進とデータマネジメント導入が重要なファクタであることが理解出来ました。
  • データマネジメントの重要性を改めて認識できました。貴重なお話しをありがとうございました。