第53回定例セミナー報告:BtoBマーケターから見たデータマネジメントの重要性

(事務局・遠藤秀則)

 9月30日(水)開催の第53回定例セミナーは、JDMC会員のSAPジャパン株式会社の「SAP Leonardo Experience Center Tokyo」をお借りし、シンフォニーマーケティング株式会社 庭山氏のご講演の後、マクニカ 堀野氏を交えた対談をライブ配信の形式で実施した。

講演「BtoBマーケターから見たデータマネジメントの重要性」
シンフォニーマーケティング株式会社
代表取締役 庭山一郎氏

前半は、BtoB専門のマーケティングアウトソーシングサービスを展開するシンフォニーマーケティング株式会社 代表の庭山一郎さんからデマンドセンターとは何か、なぜ必要なのかお話しいただいた。

なぜ日本では、MAは成果を出せなかったのか?アメリカでMAが普及し始めたのは2000年、日本では2014年より、各社からツールが販売されている。その契約総数はなんと5000を超える。これだけの企業がMAを導入しているのである。しかしながら、95%は失敗しているのではないかと庭山さんは分析する。メール配信ツールとして使ったりしていないだろうか。なぜ失敗しているか、アンゾフ博士の3Sモデルを例に説明が続いた。成功には、戦略(Strategy)、組織(Structure)、それを要件にシステム(Systems)の構築が必要というものである。アンゾフ博士はこれを50年前に提唱しているのだが、MAツールを導入した会社の多くはMAで何をしたいのかという戦略を持っていない。また本来MAはプロが使うべきツールなのにもかかわらず、それを使って売り上げに貢献するだけのスキルを持ったマーケターもしくはマーケティングチームを持っていない。これらが、導入に失敗しているという理由である。

どうしたらMA導入が成功するか、日本企業の最重要課題「新製品・サービス(戦略商材)が売れない」を例に説明が続いた。新製品を作っても売れないというジレンマにある日本企業は多い。既存の製品は売れているのに、新しく作った製品は売れなくて困っているSIerがいる場合、この課題をどう解決するのか、マーケティングのプロが何をするのか、その手法を解説してくれた。まずは初年度の売上を8億円をつくるために40件受注するなどの目標を設定し、次にマーケティングライン(時間軸で「リードジェネレーション(展示会など)」>「データマネジメント」>「ナーチャリング」>「スコア」>「インサイドセールス」>「セールス」と流れるもの)を用いマーケティングの設計をする。時間軸に沿って左から「今年の展示会で何枚ぐらい名刺を集める」と数字を入れていくというのが考えやすいが、マーケティングの設計では逆引きで設計する。セールスの結果40件の受注をとるというように設計する。そのためにはSALが160件、そのためにはMQLが480人/年のように遡るのである。そうすると、メールの配信先が最低18,000通必要と分かる。全社で持っている顧客情報は75,000あるが、ターゲットを抽出し、名寄せなどすると使えるデータはちょうど18,000件となり、最低限の配信先と同値であることが分かった。この状態を「つながった状態」と庭山さんは表現する。これが、マーケティングと営業が握れている状態である。MAを使うデマンドセンターとSFAを使うセールスパイプラインのシステムも連携されている状態である。ここで大事なのはこのアライメントの状態が、すべての数字がパーセンテージではなく、実数で把握できていること。この数字がわかっていればいかようにも手が打てるのである。実際にこの案件では8億円の売り上げ目標に対し年間十数億の売上となったそうである。以上のように案件を通してデマンドセンターの業務を解説いただいた。

こうした取り組みができるのは、データが健全(昔は洗練と言っていた)だからだと庭山さんは強調する。ではその健全なデータはどうやって作り出されるのか、これも企業を例に解説してくれた。顧客情報はどの会社も部署ごとにサイロになっていることが多い。メール配信システム、SFA、CRM、販売管理システム、・・・、いろいろなシステムの中にそれぞれの形で顧客情報が存在している。このようなシステムの中にある情報や机の中にある名刺など全てをデジタル化し、個人で名寄せをする。次に企業の名寄せをする。そのうえで個人と企業を紐づける。そこに各種属性情報を付加、製品ごとのターゲット処理をして利用するのだが、BtoBの場合、個人の興味は製品により、またタイミングにより変化することを頭に入れておかねばならない。個人の重複はいけないが、興味の重複は排除してはならない。データマネジメントが難しい一因でもある。

現在米国では、主流はABM(アカウントベースドマーケティング)、しかしレベルの高いデマンドセンターと健全なデータを持っていないならABMはやらないほうがよいと庭山さんは話す。ABMは通常のデータマネジメントより、高度なものが要求される。ABMは、全社の顧客情報を統合し、マーケティングと営業の連携によって、定義されたターゲットアカウントからの売り上げ最大化を目指す戦略的マーケティングである。新しい商材を売り込むとき、ターゲットアカウントのカバレッジを可視化し、既に口座を開いている企業であっても、事業所、部署を越えたデータできちんとアプローチするというようにである。さらに目指すところはLDO(Lead Data Optimization)、SEO(Search Engine Optimization)よりLDOのほうがはるかに売り上げにつながる。BtoBでは、全く付き合いのない会社にWebの検索結果からコンタクトするといったことは多くない。なんとなく会社や製品を知っている企業に対するマーケティングの設計は、サーチエンジンのロボットプログラム対策では太刀打ちでず、自社の過去の営業行為によって集められたリードデータに最適なコンテンツマネジメントする必要が出てくるのである。これがLDOである。業種や部門(それも規模や役職も区別した)マトリックスの中でターゲットパーソンやコンテンツを正確にカウントする。これができればメールマガジンがノイズになることもないし、うち手によって成果に結びつけることができる。そのためにはデマンドジェネレーションを行うための組織、デマンドセンターが不可欠である。そのデマンドセンターのプロセスは4つ。見込み客データを集める、データマネジメント、見込み客の啓蒙育成、見込み客の絞り込みである。世界を見たとき、既にデマンドセンターを持っており、そしてマーケティング、セールス、製造といったそれぞれの部署でリアルタイムに共有、連携、活用しているという。デマンドセンターは不可欠で、そのデマンドセンターの胆となるのはデータであると庭山さんは締めくくった。

対談「マーケターから見たデータマネジメントの重要性」
シンフォニーマーケティング 庭山一郎氏
マクニカ 堀野史郎氏

後半はご講演いただいた庭山さんと十数年来懇意にしているというマクニカ 堀野さんが聞き手となり、視聴者からのチャットでの質問にも答える形で対談いただいた。

データマネジメントが仮にうまくいかなかったら、どんなことがおきるのかという堀野さんの質問から対談は始まった。庭山さんの答えとして一つ目の例は、マーケティングのコストを下げようとエクセルで顧客管理しDMを誤配送した例。エクセルで大量のデータを扱うと、範囲指定をミスしがち。これに気づかずシャッフルされた結果、データがずれて誤配信という悲劇にあとで気付く。いつ間違ったかわからないのでデータを戻せないというものである。二つ目としては、名寄せがうまくいかず、顧客客を逃してしまう例。本当は同一人物から複数回の接触があったのに、名寄せができていないため同一人物と認識できずに見込み客を逃してしまい、気が付いた時には競合から製品を買っていた。このような話はよく聞くと庭山さんは話す。

「日本の企業はデマンドセンターを持っているか」受講者からのチャットでの質問に庭山さんは、持っていると言っていても本当は持っていない企業も多いと答えた。日本の企業において(MAを操作できる人を確保している)=(デマンドセンターを持っている)と間違った解釈をしている例をたくさん見てきた。パソコンが使える人が、人を感動させる文書をかけるかというのは全く次元の違う話、そう考えると理解しやすい。MAを操作できるのと、MAを利用してエクセレントな案件を継続的に営業に供給できるのは次元の違う話なのである。MAを買った、そしてMAが使えるようトレーニングを受けさせたが、マーケティングがうまくワークしないと話す経営者をたくさん見てきた。マーケティングのナレッジがなくてもツールの導入でワークするものと間違った理解をしているのである。日本の企業はマーケティング部門を作って力を入れていこうという機運はあるが、企業内のマーケティング部門の評価は高くない。ページビューが上がった、電話のアポ率が上がったなど誰にも響かないレポートばかり作っているからではないかと庭山さんは解説する。

次の質問は「デマンドセンターのような組織はトップダウンでないと構築が難しい。日本でも時流になるのか」今日のような講演を年間160回程度行っているが、その多くは企業の社内向けの講演である。そこには経営層が出席してくれている。営業にはっぱをかけるだけではだめで、これからは既存顧客を守る、戦略商品を売るには、仕組みが必要だと経営層も気づいているのだと思う。実際には社内でアンテナが高い人が気づいて、経営者に働きかけても撃沈され、直接社内で講演をしてくれと言われるケースが多いそうである。

 「データマネジメントが強い組織になる秘訣は」という堀野さんの質問には、全部社内に持つと無駄が発生する、しかし全部外注するとノウハウがたまらないというジレンマがあり、その最適解を見つけないといけない。マーケティングをやりたい人で、データマネジメントをやりたいって人は少数だと思う。データまわりの「作業」の部分は外注し、内部の人間は戦略やプランニング、営業とのコミュニケーションなど社内の人間にしかできないことを実施するべきである。そんな組織を設計したら強くなると答えてくれた。

「日本の企業はマーケティングが弱い。これまでは強い製品と強い営業で戦ってきたからマーケティングがなくても売り上げも成長も期待できたのである。今、各産業とも曲がり角に立ってきていて、マーケティングが必要になってきた。マーケティングが強い外資系企業と日本の市場でも戦っていかないといけない環境に変わってきた。日本企業にはマーケティングに本気で取り組んでほしいし、そういう機運を盛り上げたいと思っている。」と庭山さんのメッセージで対談が終了した。

<視聴者の声>
・パネルディスカッションが大変面白く、もっと聞いていたい内容だった。
・逆算で数値を設計していく、判断基準の仕方等、参考になりました。
・ライブチャットで質問に回答いただき誠にありがとうございました。