MDMとデータガバナンスの動向(1)~ 米国における主要動向
伊阪コンサルティング事務所代表 伊阪哲雄
2000年以降、データマネジメントを中核としたコンサルティング活動を行ってきた。その経験を踏まえて、筆者の視点から米国を中心とするMDMとデータガバナンスの動向を連載形式でお届けする。
2015年10月初旬に開催されたMDM & Data Governance Summit New York 2015に参加した。連載第1回となる今回は、同コンファレンスの発表内容から、米国におけるMDMとデータガバナンスに関する主要動向を報告し、筆者の見解を述べてみたい。
本コンファレンスは今年で10回目を数える。筆者は第2回開催以来、延べ9回にわたり参加している。用意された40セッションに、北米ならびに西ヨーロッパからの参加者を中心に約600名が参加。日本からは4名が参加した。
今年も多様かつ参考になる講演が多かった。筆者の関心から全体を俯瞰したため、若干客観性に欠く報告になることはご容赦いただきたい。
1. 全世界のMDM関連市場の現状
ガ―トナーの推定によると、MDM関連市場は年率18%で成長しており、当面、最も継続的成長が期待される分野の1つである。CDI系(顧客系MDM)ソフトウェアが2015年末で1,200億円(1米国ドル=120円で換算、以下同様)、PIM系(製品系MDM)ソフトウェアが同年末で1,320億円に達するという。
アーロン・ゾーン氏率いるThe MDM Institute(http://0046c64.netsolhost.com/mdm/aboutMDMinstitute.html)という組織がある。数十社の大手企業ならびにMDMとRDM(参照データマネジメント)ソフトウェアベンダーときわめて密接な関係があり、以下に、それらの企業のデータを総合したものを紹介する。
1.1 MDM製品の代表的な10種評価基準
①製品の統合性
②ハブ機能と物理構造
③同一性解析
④業務サービス/SOA開発生産性
⑤レジストリ/仮想処理
⑥スループット
⑦階層管理
⑧拡張性
⑨データガバナンス機能
⑩データモデル
1.2 製品選択の評価基準
データガバナンス内のマスターデータに特定するMDG(マスターデータガバナンス)に焦点を当てると、以下の10点が製品選択の評価基準となる。
①業務用語集管理
②全面的(E2E)データライフサイクルサポート
③MDMハブ統合
④データ探査とプロファイレーション
⑤意思決定権管理
⑥方針モデル管理とルール/方針管理
⑦データモデル管理
⑧統合化された計測基準
⑨大企業業務処理の統合
⑩方法論
1.3 参照データマネジメント(RDM)に焦点を当てると、以下の10点が製品選択の評価基準となる。
①インポート/エクスポート
②接続性と統合
③地図参照データ機能
④バージョン管理サポート
⑤多様な参照データ・タイプの運営
⑥参照データ群の管理
⑦データ群の階層的管理
⑧アーキテクチャとパーフォーマンス
⑨全面的(E2E)データ・ライフサイクル・サポート
⑩セキュリティとアクセス制御
1.4 MDMプロジェクト実施国内企業
MDM Institute調査による、最近MDMプロジェクトを実施している企業名が全世界規模で列挙されている。そのうち国内企業をピックアップしたのが以下である。
アシックス、ダイハツ工業、ファンケル、富士通、日本総研、村中医療器、NTT
一方、北米では100社弱がMDMプロジェクトを実施している。日本はアジア太平洋地域81社の中でわずか7社と、MDMの推進についてはきわめて後進国であると言わざるをえない。
2. MDMに関するマクロ的視点での市場傾向
2.1 M&Aに積極的な大手MDMソフトウェアベンダー
IBM、インフォマティカ、オラクル、SAPなどの大手MDMソフトウェアベンダーはM&Aを実施しながら、MDMを基盤にデータ統合、データ品質、さらに業務系ソフトウェア機能を強化している。
2.2 ビッグデータより現実的なデータレイクの概念
ビッグデータという概念はいまだ健在であるが、今回のコンファレンスで強い印象を受けたこととして、「データレイク」という呼称が多く散見された。エンタープライズ経営の視点からは、曖昧でデータリンネージ(履歴ないし経歴)が不明で、データ品質に問題が多発するビッグデータという概念よりも、多様な規模に適応するデータレイクのほうが馴染むという見方が台頭しつつあるし、対象データを特定する必然からも現実的である。また、そこでSNSやメールのメッセージのような非構造データの活用がきわめて重要視されている点も特徴だ。
2.3 MDMにおける他の側面
既存CDI/PIM/SDI(納入業者データ統合)と2段階/3段階のものとして、RDM、位置情報関連サービスおよびその他が広く認識されつつある。
2.4 行動洞察とデータマネジメント
SoEの有効活用に関するデータマネジメントが急速に推進されてきている。
3.次世代MDM動向
3.1 この分野に精通したITアーキテクトは、加速を続けるモバイル社会への対応として、次世代MDMの計画に着手している。言い換えれば、SoRよりSoEに軸を移しつつある。
3.2 次世代MDMは、モバイルやビッグデータ関連のビジネス機会をとらえて課題を解決できる能力が求められている。
3.3 グローバル企業5,000社の多くが、顧客系と製品系のMDMの活用が主要な戦略となりつつある。
3.4 ビッグデータ、クラウド、モバイルの爆発的なブームにより、最先端のMDMアーキテクチャとて、すぐに「使いものにならなくなる」。または「ITの金食い虫」になる恐れがある。
4. その他の予測
4.1 「MDM as a Service」の具現化と普及促進
4.2 データガバナンスの課題。いまだ大半の企業が奮戦中であるが、先進ソフトウェアベンダーが有効な製品を提供しつつある。2017年までにはかなりの進展が期待される。
4.3 MDM運用におけるBPMの適用。一部先行しているが、2017年にはそれなりに容易に運用可能なBPMシステムが登場するであろう。
4.4 RDMへの期待。現状でもそれなりに活用が始まっているが、近い将来、データガバナンスが考慮された製品が安価で登場するであろう。
4.5 クラウドMDMへの期待。一部で採用されているが、2017年にはセールスフォース・ドットコム、SAPなどを先頭にデータ品質とデータガバナンス機能を含むサービスが普及すると予測される。
4.6 オンメモリービッグデータ処理。一部で採用されているが、2017年には相当な社数の企業で活用が進むと予測される。また当然、オンメモリETL、オンメモリーDBも普及が進む。
4.7 MDMとデータガバナンスサービスの市場規模。2012年の3,000億から、2015年は4,800億円にまで成長すると見られている。
文字数の制約から詳細には言及できないが、コンファレンスでは、主要ソフトウェアベンダー、MDM/データガバナンスに関するSI事業者の動向も細かに報告された。ソフトウェア選定とSI事業者選定に関して、読者の中で詳細の関心がある方は遠慮なく筆者に問い合わせていただきたい(isaka@isaka.com)。
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─ 伊阪哲雄氏プロフィール ──────────────────────
データマネジメントを専門とするITコンサルタント。1970年、大手コンピュータメーカーに入社して以来、一貫してデータモデリング/設計やデータクレンジング、データ統合、マスターデータマネジメント、データガバナンス、人材育成に関わる支援を行ってきた。特に通信業界、医薬業界や、金融業界のデータマネジメントに詳しい。米国など海外の事情にも通じ、例えば米MDM Instituteが主催するカンファレンスには毎年欠かさず参加している。e-mail: isaka@isaka.com