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レポート

【報告】第4回ユーザー会 ~ビッグデータ活用の第一歩は、業務のIT化、社員のITリテラシーの向上から始まる

データをビジネスに生かすリーダー達の集い」は、データマネージメントに光を当てるJDMCならではのユーザーグループ活動だ。その活動は講演会とワークショップ、交流会で構成されている。10月8日、NTTドコモにて行われた第4回目で講演を行ったのはアビームコンサルティング プロセス&テクノロジー ビジネスユニット CRMセクター ディレクターの本間充氏。本間氏はアビームに転職するまで、23.5年間花王でマーケティング業務に従事していた。アビームではCRMセクターのディレクターとして活動する傍ら、デジタルマーケティング関係の新しい業務にも携わっている。今回の講演のテーマは「ビッグデータ活用の今と未来を探る」。本間氏の講演内容は以下の通り。

■マーケティング部門でデータ活用が進まないワケ

ビッグデータというワードは3年前ぐらいから話題となっている。グーグルの検索でもバズワードになっており、今では一般の人までもビッグデータという言葉を認知している。特に期待しているのが、マーケティングサイドの人間である。総務省が提示している「日本産業再興プラン」の中でもビッグデータという言葉が用いられている。それがビッグデータの利活用による新ビジネス創出の推進である。しかしこの項目には、マーケティングという言葉は一切出てこない。政府が掲げるビッグデータを使った再興プランの第一は、ヘルスケアカテゴリー。つまり後期高度医療分野。次に期待されているのが、警備・テロ予防などのセキュリティ対策である。マーケティングでビッグデータを活用しても、日本の産業の再興にはならないというわけだ。

では本当にそうなのか。例えば花王の広告宣伝費は700億円である。そのうち90%はテレビCMに使っていた。インターネットの広告宣伝費は10億にも満たなかった。このような投資がなぜ行われているかというと、実は花王という大会社でもデータで意志決定しているのではなく、主に勘でやっているからである。

ではなぜ、マーケティングではデータ分析や活用が進んでいないのか。第一の要因は宣伝やマーケティングなどのオフィスワーカーの業務のIT化がされておらず、ITリテラシーが低いからである。例えばヤフーのバナー広告の入稿は、15年間変わらずいまだにメールを使っている。そういう仕組みを用意されていない。小さなところだと、電子メールの自動振り分けを設定もしていない人、大量のデータをエクセルで処理をしている人もまだまだたくさんいる。

それだけではない。マーケティングサイドの人たちはコンピュータや計算方法の歴史が変わっていることを、あまり認知していないのだ。例えばアメリカ・シリコンバレーにあるコンピュータヒストリーミュージアムでは、コンピュータの歴史は止まったという展示に変わっている。このミュージアムではスーパーコンピュータは2010年で死んだということに。入社2年目に数億円もしたCray-2という大型コンピュータで、生理用品のシミュレーションを行っていた。実はこのマシンのCPUのMIPS値は、4万円のGalaxy(スマートフォン)よりもスペックが低い。またクラウドも登場しており、もはやコンピュータにすがりついている時代ではない。相当クラウドに変わり始めている。amazonやグーグルではどんどんデータセンターを建設し、大量データを蓄積したり、コンピュータ能力をフルに使える状況を提供している。そしてそのクラウドとHadoopなどのAmazon Redshiftのようなツールを使えば、これまでスーパーコンピュータがなければできなかった大量データの計算もできるようになっている。これを活用しない手はないのだが、このような話をマーケティング再度の人たちにしても理解してもらえない。この理解が進まないと、ビッグデータの利活用も進むわけがない。

■業務部門でのデータ活用が進むと、情報システム部門の人たちの活躍の場が増える

マーケティング部門でデータ活用を進めるカギを握るのが、情報システム部門の人たちである。気付いていない人も多いかも知れないが、情報システム部門の人たちにとってデータ分析は、新しい活躍の場になるはずだからだ。事業にかかわるコストの中で、唯一適正化されていないのが広告宣伝費である。先述したように花王の広告宣伝費は年間700億円。同費用は売り上げの10%未満と決められているが、何%にするといちばん利益が出て効率が良いかというのは、誰に聞いてもわからない。

このようなことが一目でわかるようにするには、ビジュアライゼーションツールが必要になる。ここで重要になるのが、パラメータを全部画面に表示しないこと。会計やマーケッターの多くは文系出身者なので、データがたくさん並ぶと頭が痛くなってしまうのだ。売り上げの伸びを知りたいと言うのであれば、昨年のマーケティングコストに対して売り上げがどれだけ伸びたかという差分を、利益率を見たいというのであればかかったコストだけが表示されるようにする。そういうダッシュボードを作るのである。ツールベンダーとこういう話ができるのは情報システム部門の人たちである。ツールベンダーと話をするためにも、マーケティング部門やボードメンバーに、一番気になっていることについてヒアリングをする。ここで注意したいのは、投げかける質問はできるだけシンプルにすること。例えば売り上げを伸ばすことなのか、それとも利益改善、顧客数を伸ばすことなのか、というように。こうすることで最終的なKPIが何かを明らかにするのである。実はこのような体制ができていないことが、データ活用を阻む根深い要因となっているのである。この問題はマーケティング部門に情報システム担当者が入ることで、解決が図れる。そして今が、このような組織にする絶好のタイミングなのだ。

なぜか。今後、お客様とのコミュニケーションツール、チャネルのあり方が多様化していき、そしてそのスピードが速くなるからだ。例えばスマートフォンが登場したのは、ここ数年に過ぎないが、今やさまざまなデバイスが普及している。花王をはじめ大企業が最も広告宣伝費を投じているテレビ普及率は、いまや88パーセントまで下がっている。コントはますます普及率は下がっていくことが予想される。お客様がどんなコミュニケーションツールを使っているのか。これはデータを集めるしかない。

データで判断するような組織づくりが、不可欠な理由はそれだけではない。今の広告宣伝の対象は日本人のはず。例えば2020年の東京オリンピック。約2週間開催されるが、その間に多くの外国人が日本を訪れる。日本人の旅行は長くても1週間ほどだが、海外の人たちの旅行は最低でも2週間。2週間もの滞在ともなると、日用品はドラッグストアで調達するはずだ。ではその間のマーケティングをどうするのか。最近、よく話題に上る中国人の爆買い。年間100万人の中国人が日本に来ているが、爆買いをしているのはそのうちの約2割。実はマーケティングで重要になるのが、残りの8割の人たちの行動である。しかしまだこのあたりのデータ分析も行われていない。

■トーマス・H・ダベンポートの「発展の5段階」を参考に考える

ではデータを活用する組織にするにはどうすればよいのか。その参考になるのがトーマス・H・ダベンポートの「分析力を駆使する企業 発展の五段階」「分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学」という書籍である。これらの書籍にはNetflix(定額制動画配信サービス)などのケーススタディも載っている。

発展の5段階を簡単に説明しよう。ステージ1は分析力に劣る企業。データか分析、活用の現状はほぼゼロ。当面の課題は過去に何が起きていたかを知ること。撮るべき対策としては正確なデータを集めることである。ステージ2は分析力の活用が限定的な企業である。データ分析、活用の現状は部分的または場当たり的なので、当面の課題としては業務改善のために役に立つような、分析力を高めること。撮るべき対策としてはデータ分析を活用すること、業務プロセスの数を増やすことだ。ステージ3は分析力の組織的な強化に取り組む企業である。総合的なデータ収集・分析に既に着手。当面の課題としては、今、会社で起こっていること、現在の動向を把握する術を手に入れること。撮るべき対策としては、データ分析で得意分野を強化することである。ステージ4は、分析力はあるが決定打に至らない企業である。全社的に分析力は備わり、活用されているが、戦略の柱や絶対的な武器にまではなっていないという状況である。課題としてはイノベーションの創出や差別化のために分析力を生かすための術の習得である。取るべき対策択としては分析力を全社で総合的に活用することだ。ステージ5は分析力を武器とする企業。全社でデータ分析が徹底され、成果に結びつき。持続可能な競争優位となっていること。このステージは一段抜きで成長することはないので、地道に一つずつステップを上っていくしかない。

特に注意すべきが、ステップ2の会社である。多くの会社もこの段階で、データに基づいてプレゼンをする人がいる一方で、「やります! 頑張ります! 僕の目を見てください」というような情緒的なプレゼンをする人がいる。社長の意志決定をしやすいのは、むしろ後者の情緒的なプレゼンの方だという。というのはそれが実現できなかった際の懲罰だけを約束しておけばよく、ジャッジが楽だからだ。一方データに基づいたプレゼンの場合、ロジカルなので経営層も頭を使うので疲れるのだ。そこで「もっと簡単なプレゼンにしてほしい」と言われたりすると、データを示しても社長には通じないと思い、結果、データのプレゼンをしなくなる。しかしこういうときこそ、極力、データに基づいたプレゼンをして会社のボードメンバーを教育していかないと3には上がらないからだ。

■データサイエンティストは分析だけではなく、アイデアやヒントまで提案せよ

データ分析力の向上の参考図書としてオススメなのが、「データサイエンティストに学ぶ分析力」である。日本ではデータサイエンティストは分析屋と捉えられているようだが、アメリカでは違う。アメリカのデータサイエンティストは、そのデータから事業戦略としてどんな選択肢があるの、ヒントまで提案してくれるのだ。日本にデータサイエンティストもデータを分析するだけではなく、そこから見えてくるヒントやアイデアの提案まで行う存在になるべきである。

そういう人材を育てると同時に、データ活用のための仕組みも整備していかねばならない。図は理想的なデータ収集・分析のための仕組みである。そしてこのような仕組みを構築するためのツールも続々、登場している。年間使用量1000万円程度のものから、導入費用だけで1億円を超えるものなどさまざま。このようなマーケティングツールは、情報システム部門ではなく、お金のある事業部門に売り込みに行く。このような動きがあれば、情報システム部門の人は前もってマーケティング部門の人たちに「一緒にやろう」と声をかけておくこと。マーケティング部門の人たちは保守という概念がなかったりするので、導入しても運用が維持できず、頓挫してしまう可能性があるからだ。

最後に今回の講演のまとめ。第一はビッグデータ活用以前に社内業務のIT化を進めること。従業員のITリテラシーが高いと自然にデータ分析ができるようになるからだ。

第二は今後、デジタルネイティブの増加、購買層の多様化などにより、情報システム部門の人たちは業務部門の人たちと共にデータ分析する機会が増えるはずだが、ただ、業務部門からのオーダーがかからない可能性が高い。

第三はそれを回避するためにも、情報システム部門の方は、業務部門の方の悩みを聞いてあげること。悩みを聞き、データ観察してみようと言う。ここから一緒に始めてみることからデータ活用は始まる。

■講演後はチームに分かれ、ワークショップを実施。熱い意見交換が行われた

本間氏の講演が終了後、7つのチームに分かれてワークショップが始まった。まずは10分間の自己紹介。テーマがあり、まずは漢字一文字を決め、それを用いての1人30秒から1分間の自己紹介タイムが設けられた。 

その後、講演の内容をうけ、データが生きる土壌づくりについて、約20分間、各チームで意見を交わすことに。最後にそれぞれのチームでどんなことを話し合ったか、その概要を発表した終了となった。

多くのチームがどうデータをどう経営層に見せて、勘から脱却するかということについて議論を交わしていた。「データをどう使うかは人や組織の問題。まずは情報を共有する仕組みをつくり、組織の壁を超えてやり取りしていくところが始まる」「経営層にデータによるプレゼンという小難しい話を理解してもらうためにも、まず社員一人ひとりのデータ活用に関する知識の底上げをすることが大事」という感想が聞かれた。また勘と経験で進めようとする経営者に対しては「正しいと思うことは何度も諦めずに言い続けること。するといつの間にかその意見が経営者の頭の中にすり込まれ、ある日それが正しいと経営者が判断するとその方向に一気に進む」「正しいと思う仮説は執念を持って力説すること」という意見も。

<編集後記>
■勘や経験では経営はうまくいかない。データを活用できる組織・人づくりを急げ
今回、話し合ったことで何か一つの結論を導き出すことはなかったが、今後、マーケティングにおいてデータを活用していかざるをえない時期に来ていることは本間氏の講演からも明らか。もちろん、本間氏が最後に冗談で語った「うちはデジタルネイティブに対応しない。アナログとともに死んでいこう」という経営者の判断があるなら、データ活用の必要性はないかもしれないが、そんな企業はおそらくないはず。デジタルネイティブ時代に向けてどんな対策をとっていくか。 今年度のユーザー会はあと2回予定されている。”JDMCの内輪の会”だからこそ聞ける内容が盛り沢山だ。積極的に参加されて引き続き議論を深められたい。開催予定はこちら

また、11月12日に開催されるJDMC主催「CDOカンファレンス2015」は、データ戦略を策定する、デジタルビジネスの核を担う役職 CDO(Chief Data Officer)について議論する。米国では多くの企業が採用しており、日本でも大手銀行が取り組んでいることでも話題となっている。そのCDOにフォーカスした日本初のカンファレンスである。講演内容も豪華。基調講演にはコニカミノルタ社長の山名氏をはじめ、デジタルビジネスにいち早く取り組んでいる組織のトップが登壇する。データ活用のあり方に悩んでいる方、デジタルビジネスの成長を目指す方はぜひ、こちらのイベントにも参加してみてはいかがだろう。

                           (ライター・中村仁美)

<終了後の交流会>

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