第45回定例セミナー報告:全日空空輸「ANAのお客様情報基盤とその価値」、日立産業制御ソリューションズ「なぜAI導入はつまずくのか?その答は業務の視点とデータ前処理にある ~IoT時代のデータを磨くデータバリューアップ~」

(事務局・遠藤秀則)

6月10日(月)開催の第45回定例セミナーは、株式会社マクニカ 品川オフィスの会場をお借りし、全日本空輸株式会社 野村様と株式会社日立産業制御ソリューションズ 北村様にご講演頂いた。新しくて広い会場には多くの方がお越しいただき、活発な質疑応答もあり、大盛況のうちに終了した。

 

講演1 「ANAのお客様情報基盤とその価値」

全日空空輸株式会社 デジタル変革室 イノベーション推進部 部長
野村泰一様

カスタマーエクスペリエンスの向上は多くの企業にとっての課題である。全日本空輸では仮想データベースを活用し、柔軟性と拡張性を確保しながらリアルタイムにデータを提供できるお客様情報基盤(*CE基盤)を構築した。データソースである既存のシステムを気にせずに、データ活用のアプリケーションを展開できる環境が特徴である。この取り組みは、2019年3月7日のJDMC年次カンファレンス「データマネジメント2019」で「データマネジメント賞」の大賞を受賞した。多くのJDMC会員の皆様にその取り組みについてご紹介したく、活動に尽力された全日本空輸デジタル変革室部長の野村様より講演をいただく機会を得た。
入社時は営業だったという野村さん。DOAというキーワードに惹かれ、営業システム、コンビニ支払い、スキップサービス、・・様々なテクノロジーを用いながら航空業界にイノベーションをもたらす仕組みづくりを率いてきた。しかし大きな課題にも直面していた。ANAにはサービス毎にそれぞれのシステムがあり、それぞれ顧客データを蓄積していた。顧客認知が困難なのである。ちょうどこのような状態で野村さんがお客様情報基盤(*CE基盤)開発プロジェクトのプロジェクトリーダーに就任した。前任者からプロジェクトは引き継いだものの、旧来型IT部門のジレンマは引き継がずに野村さんが大きく変えた。従来型の「ユーザ部門のニーズ通りにシステム作る」から「要件は踏まえるが、ニーズ通りには作らない」へ、「開発標準に準拠する」から「基本は押さえるがイノベーション向きのスタイルを採用」へといった具合だ。

CE基盤をデザインする上で野村さんがこだわったのは次の点。サイロ型に分散しているレガシーなシステム群そのものを変えていくのではなく、仮想DBを用いマイクロサービスによりデジタル接点を作る仕組みをデザインしたこと。(講演後のQAで、マイクロサービスを選択・採用したわけではなく、設計思想を後で振り返ったら、それをマイクロサービスと呼んでいることがわかったそうで、マイクロサービスと表現しているのは後付けとのこと)

導入体制にも特徴がある。システム導入を主導したのはユーザ部門ではなくIT部門。システム開発と並行してシステムをどう使うか分科会を開催しCE基盤をどう使うかセクションを超えた議論をかさねたことにある。

CE基盤を使って何ができるのか(何がいいのか)、一つめは部門が別でも共通のデータをベースとして見て意思決定ができるようになったこと。二つめは一連のカスタマージャーニーの中で、部門を超えて機械が受ける情報、人が受ける情報をデジタル的に結合してOne to Oneマーケティング、CE向上を実践していくことができるようになったことである。

CE基盤は2018年10月に無事稼働開始しているが、野村さんはプロジェクトリーダーを続けている。プロジェクトには、CE基盤を完成させるだけでなく分析基盤も必要なこと、CE基盤活用のためのワークショップが必要と考えており、推進しているからである。

「CE基盤は完成したが、どう活用するかはANAの想い次第であり真価が問われるところ」というメッセージで講演を締めくくられた。

本講演を受講してJDMC「データマネジメント賞」大賞受賞理由以外にもCE基盤構築プロジェクトから学ぶべき点が多いことを感じた。一つは旧来型のIT部門のジレンマに立ち向かったこと、二つ目は仕組みを作っただけではなく組織や人を動かしたことである。

組織やプロジェクトマネージャーがなぜ旧来型開発スタイルを採用したがるか。それはうまくいかなかったときの保身によるところも大きいと思う。しかし開発コストや期間などを考慮しあえて野村さんは採用しなかった。Peach在籍中の限られたリソースの中での野村さんの開発経験もその判断基準のベースになっているのだと思う。技術論だけではなくプロジェクトマネージャーの本質を再考する機会を与えていただいた講演であった。

*CE基盤:Customer Experience基盤 散在する顧客情報に加えて運航情報なども統合し、顧客体験価値を高める意味合いがある。

 

 

講演2「なぜAI導入はつまずくのか?その答は業務の視点とデータ前処理にある ~IoT時代のデータを磨くデータバリューアップ~」

株式会社日立産業制御ソリューションズ AI&ビッグデータソリューション部 部長
北村慎吾様

AIやビッグデータを活用するプロジェクトが上手く進まない、PoC(概念実証)で終わってしまうといったケースも散見される。なぜAI導入はつまづくのか? 年間100件以上のAI・ビッグデータ活用案件に携わってきた北村さんの経験の中から、AI導入プロジェクトを進める際に気をつけることや、精度向上のカギとなる、データ前処理の具体的なイメージをご紹介いただいた。

「AIで解決しろ。AIを導入せよ。」とトップダウンでAIを使い始めることもあると思う。そんな時、AI導入のイメージは関係者で一致しているだろうか。利用できるAIは数多く存在するようになった。目的や取得データによって、どのAIを選択するのかが重要になる。例えばアイスクリーム製造工場でAIを導入することを考えてみる。不良品を発見することが目的なのか、不良品を削減するのが目的なのか、どちらかにより採用するAIはそれぞれ認識型、分析判断型と変わり、収集するデータも異なる。目的にあったAIを選択することに加えてビッグデータを扱ううえで考慮すべきポイントはデータの量と質である。データ量は劇的に増加しており、ビッグデータの利活用で最大限の効果を創出するには、必要最小限のデータ量でAIの精度を高める取り組みが求められる。データの質に関しては、これまで扱ってきたITデータに比べセンサーや稼働データなどの生データ(フィールドデータ)は汚れているということを理解する必要がある。従来の前処理(クレンジング)、名寄せや形式合わせや異常データ削除などに追加して、時刻情報付与、特徴量生成、状態分離といったIoT時代の前処理が必要になってくる。北村さんはこのIoT時代の前処理のことを「データバリューアップ」と名付け、AIの精度を高める勘所だと強調した。データバリューアップは「データ把握」と「データ加工」がポイントである。データ把握は、大量の数字の羅列からは気付きにくい異常値や欠損値、不要部分を見える化し、業務上の意味と合わせてデータを確認すること。データ加工は特徴量の項目追加や集計処理、使用項目の絞り込みなど生データを分析に適したデータに加工・生成することである。データバリューアップを行うことで、AIが食べやすい、特徴のあるデータを用意することができ、データ分析の実証、ならびに導入後の投資対効果を最大化することができる。

「扱うデータは数字ばかりではない」と北村さんから興味深い事例紹介があった。プラントの熟練保守員の「視線データ」を分析し、標準化や技能伝承に活用しようというものである。言葉にできない暗黙知(見ている場所、見ている時間、見る順番など)を目で見てわかる形式知に変換、共有情報にしようとする取り組みのようだ。

最後に北村さんは次のメッセージで講演を締めくくった。「AI・ビッグデータが活用される未来は一つの専門的な技術や知識のみでは社会が求める真の成果に到達することは難しい。IoT時代のデータ活用は、協創による集合知でデータと業務を磨くことがAIの精度向上につながる。それぞれの専門領域を持つ皆様との集合知にてデータ利活用を推進していきたい。」

本講演を受講し、従来からあったデータ前処理が、IoT、AIが急速に普及した現在、どう変わったのか、変わらないのか明確に整理することができた。また更なるコンピュータパワーの増大、AIの進化があったとしても、扱うデータの量も増加し続けるので、IoT時代の前処理が勘所となる点は揺るがないように感じた。北村さんがこのようなデータ利活用の勘所の普及活動をされている点にも感銘を受けました。
追:書籍「AI、IoTを成功に導くデータ前処理の極意(日経BP (2018/9/13))」をセミナー参加者全員にプレゼントいただきました! 株式会社日立産業制御ソリューションズ様、株式会社日立製作所様ありがとうございました。

 

<参加者感想>
・データ基盤の実際と、データ教育についての草の根で取り組んでいる内容を聞けて非常に参考になりました。
・プロジェクト推進する上での裏の話も交えながらお話しされたので参考になりました。
・どの講演もとても役に立ち、大変興味深く聴講させて頂きました。書籍まで頂き恐縮です。
・業種業態は異なるものの、他社の取り組み事例を知ることができ、非常に参考になりました。
・製品ベンダーにて従事してため、弊社製品であるか否かな関わらず現場の事例を聴講できる機会が少なく、いつも本当に助かっております。
・本イベントに参加されている方はITスキルも高く、データマネジメントやDB関連のスキルも高いと思いますが、DBについて高いスキルを持っている人材は各社少なく、悩みを抱えている方も多いと思いますので、そのような悩みも解決できるような場所になるのではないかと思います。
・ANA様の講演は、実体験の話しが聞けて、参考になった。
・ANA様の講演は、現場部門を巻き込み推進していく際の、考え方、具体的な施策/方法論 と、IT以外の部分について大変丁寧にご説明いただき大変参考になりました。
・日立様の講演は、大変地味なデータ前処理の部分を、体系化された内容を具体的な事例を示しならがご説明いただき理解を深めることができました。
・ANA様の講演は、お客様情報に関するIT基盤構築としては勿論、組織横断でのお客様目線でのサービスづくりをIT部門のリーダーシップ行った点が素晴らしいと感じました。
・課題は共感でき、それに対する取り組みのアプローチは興味深く、もっとお話を聞きたかった。
・ANA様の事例は苦労された様子がわかったので、よかった。IOTのデータバリューアップも良かったです。データプレパレーションで苦労している企業が多いので。
・「ANAのお客様情報基盤とその価値」 インターネット上に掲載されている綺麗な導入事例ではなく、実際にプロジェクトを中心になって進めてきた方のリアリティのあるお話を聞けて大変勉強になった。 CE基盤をユーザーとともに成長し育てていくものであると位置づけ、IT部門主導でWSを開催する。等、分析基盤を作って終わりにしないための仕組みが特におもしろかったです。
・ANA様の事例が今実施しようとしているプロジェクトと内容が類似しており、システム面だけでなく組織としてどうあるか、IT部門としての動き等非常に参考になりました。
・標準化をキモおさえた適用をするといった内容が面白かったです。
・ANA様の講演は技術だけではなく、IT戦略としての取組みまで含まれており非常に興味深い内容でした。
・日立様の講演は勉強になりました。書籍も頂きましたので、拝読致します。
・野村様、北村様ともに特長のある興味深い講演内容でした。時間に限りがありますが詳細も聞いてみたいと思いました。
・野村氏の講演は非常に示唆に富むものでした
・ANA CE基盤の事例はSEとして勇気をもらいました。