JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、株式会社ブレインパッド・大森 智広さんです。
本年度からJDMCに参画いたしました、ブレインパッドの大森と申します。
コラムの本題に入る前に、少し弊社の紹介をさせてください。私たちブレインパッドは2004年の創業以来、データ分析とAI技術で様々な企業を支援してきました。日本におけるデータ分析・AI活用のパイオニアとして、単なる技術導入に留まらず、お客様がデータ分析・AI活用を自社内で実践できるよう、内製化の支援も行っています。
私たちの使命は、データが皆様のビジネス成果に直結するよう、戦略策定からシステム導入、そして「人がデータをどう使いこなすか」という組織文化の醸成までを一貫して支援することです。そして、データサイエンティストとビジネスコンサルタントの連携による、お客様に合わせた最適なデータ活用ロードマップに始まり、プロダクト開発やシステム導入の支援、データ活用人材の育成まで、これらの提供リソースを社内で確保する体制が私たちの強みです。
●変わりゆく市場で「勝ち続ける」ために
今、様々な業界において、デジタル技術の進化と、それに伴う消費行動の多様化、そしてお客様の価値観の変化によって、かつてないスピードで変革の波が押し寄せています。
私が主にご支援している小売業界は、特に激しい変化にさらされています。少子高齢化で消費の中心となる若年層が減って売上の減少が見込まれるほか、ECを含めた競合が増加したことで、実店舗の来店客数や売上への影響も考える必要が出てきました。
また、最近では、原価高騰によるダメージも深刻です。商品の価格高騰によってお客様の節約志向が強まる上、光熱費の増加や労働者の減少に対応した時給アップでの人件費増加といった、販管費の増大に企業は頭を悩ませています。
こうした時代において、これまで頼りにしてきた「長年の勘と経験」だけでは、変化の波に乗り遅れてしまうリスクがあるのは、小売業界に関わったことのある方であれば常に肌で感じているはずです。
しかし、現場で培われた「勘と経験」はもう価値がないというわけではなく、むしろ、これこそが企業の強みであり、競争力の源泉になります。重要なのは、この貴重な「経験知」に、変化を正確に捉えて未来を予測する「データ」の力を掛け合わせることが、お客様の変化、つまり「今」と「次」のニーズに常に寄り添い続ける経営戦略への転換になると考えます。
●「勘と経験」をデータで拡張し、組織の力に変える
小売業界では、ベテラン社員の「この商品はお客様に響く」といった知見が属人化し、組織全体で共有・継承が難しいという課題がよく聞かれます。こういう問題にこそ、データの力を使うべきです。ここからはポイントとなる以下の3つの要素をそれぞれ紹介していきましょう。
・データマネジメント視点でのデータ統合
・業務プロセスでのデータ活用
・全社員がデータを「自分ごと」として捉える組織づくり
小売業界にはID-POSデータやEC購買履歴、ウェブサイト閲覧履歴、アプリ会員情報、お客様からのアンケート、SNS上の言及など、多様なデータがあります。ただ、残念ながらこれらのデータ、いわば「宝の山」が活用されていないケースが非常に多いと感じています。
解決策の一つとしてよく挙がるのが、散在するお客様データを統合した「お客様データプラットフォーム(CDP)」の構築です。ここで重要になるのが、単なるデータ集約に終わらせない「データマネジメント」の視点になります。
データ統合で実現すべき、企業の「常にお客様に寄り添い続ける」という目的だけでなく、売上向上や生産性向上による経費削減などを見据えたデータの構築をすることが重要です。これにより、お客様一人ひとりの詳細なプロファイルを可視化でき、お客様の嗜好や購買パターンを理解し、パーソナライズされたアプローチが可能になるのです。
データに基づいた最適な商品レコメンドやクーポン配信、あるいはECと実店舗のデータを連携させたOMO施策やリテールメディアを通じて、シームレスな体験を創出できますし、ベテランの知見をインプットしたAIを導入すれば、業務プロセスの最適化や廃棄ロスの削減、人員配置の効率化にも繋がるでしょう。
●変化するお客様のニーズをデータで読み解き、先手を打つ戦略への転換
では、具体的にCDPで統合したデータをどのように活用するのか、弊社が実際にご支援した事例を基に小売業界の各業務プロセスでご説明いたします。
- 商品企画・品揃え:生成AIによるお客様データや声の分析を通じて、ニーズに合った商品を開発・調達し、競合との差別化を図ります。
- 仕入れ・在庫管理:需要予測や発注最適化により、売れ筋商品を効率的に仕入れ、機会損失や廃棄ロスを削減します。
- 棚割り・陳列・検索最適化:データに基づいた最適な棚割りや商品配置、ECサイトでの検索改善で売上向上に貢献します。
- 価格最適化:値上げ時の行動予測や値引きの最適化により、お客様ニーズに合った適正価格を判断します。
- 販売促進:お客様データを活用したパーソナライズされたプロモーションやOMO施策を展開し、来店数増加と売上向上に繋げます。
このほかにも、従業員向けデータダッシュボードで現場の判断を支援したり、AIの画像認識による店内MAP作成でオペレーション負荷を軽減するといった施策にも対応しています。業務プロセスとデータを結びつけることで、勘と経験を「組織の力」にし、常に変化するお客様のニーズに対して先手を打つ戦略へと転換できるようになるのです。
●データ活用を活かすための組織づくり
データ活用プロジェクトでよくある失敗例として「一部の担当者や特定の部署任せにしてしまい、全社に普及しない」というものがあります。私がご支援している小売業界でも少なくありません。データ活用を成功させるためには、全社員がデータを「自分ごと」として捉え、活用する文化を醸成することが不可欠です。
そのためにも、まずは経営層や事業責任者が、データ活用を「全社を挙げた経営戦略の柱」と位置付け、率先してデータに基づいた意思決定を示すことが最も重要です。
部門間の「壁」をなくすこともポイントになります。つまり、情報システム部門と事業部門が、データ活用の目的や得られる成果を共有し、密に連携する体制を構築しなければなりません。各部門が個別にデータを保有する「サイロ化」を解消し、全社でデータを共通言語として活用できる環境を整備する。これは「データガバナンス」の確立にもつながります。
また、全社員がデータを「自分ごと」として捉え、日常業務で活用できるようになるには、非専門家向けのデータ教育や、分析結果を誰もが直感的に理解できるダッシュボードの導入など、「データに触れるハードルを下げる」工夫も求められるでしょう。
●経営層がリードする「データ・ファースト」でのビジネス価値創造
各業界における変化の波は、今後もさらに大きくなるでしょう。そのため、データ活用をトップダウンで推進し、データに基づいた組織運営を常態化させることが成功の鍵となります。成功事例だけでなく、失敗事例からも学び、柔軟に戦略を転換していく「アジャイルな経営」へのシフトが必要不可欠です。
システムの開発についても、従来のように先に仕様を決め、時間をかけて段階的に開発を進めるウォーターフォールモデルから、変化に柔軟に対応して短いサイクルで開発していく「アジャイル開発」が必要になります。
このアジャイル開発も、最近は早さや深さ、そして柔軟性が今まで以上に求められています。弊社がご支援させていただいた例になりますが、戦略立案から実装、リリースまでを複数チームで分担するのではなく、少人数精鋭の同一チームで一気通貫に行える体制を構築しました。
コンサルタント、データサイエンティスト、エンジニアがワンチームとなることで、情報連携のロスをなくし、一貫したアプローチを可能にしています。これにより、アジャイル開発による早期のビジネス価値創出、そしてビジネス目標に直結した一体設計が可能になるのです。
このように、変化に柔軟に対応していく体制を、経営陣が「データ・ファースト」の理念でリードしていくことが必要になると考えます。
●まとめ:「勘と経験」と「データ」の融合が、企業の未来を拓く
今日の皆様が直面する課題は複雑であり、これまでの成功体験だけでは解決が難しいものも少なくないと思います。しかし、皆様が長年培ってきた「勘と経験」という貴重な資産に、「データ」という客観的な視点を加え、組織全体で活用することで、変化し続けるお客様ニーズを的確に捉え、持続的な成長を実現する「攻める経営」へと転換できます。
この変化に対応することが、皆様のビジネスを加速させ、新たな価値を創造するための戦略的な投資となります。
私たちブレインパッドも、変化の怖さと喜びを自分たちで経験しなければ、クライアントの皆様に寄り添えません。そのためにはブレインパッドも変化に強くなることが重要だと思っています。周りから求められる前に自分から変化し続けること、さらに変化が常態化していること、率先して自ら変化し続ける、それがブレインパッドの目指す姿になります。企業で眠っているデータを未来への資産に変える、新たな成長の道を切り拓くために、寄り添えるパートナーであること、それがブレインパッドの望みになります。
勘と経験とデータの融合を実現し、現場で具体的な成果を出せるデータ活用を推進していくか。皆さまの課題に対し、本コラムがその実践的なヒントとなることを心より願っております。

大森 智広(おおもり・ともひろ)
株式会社ブレインパッド データエンジニアリングユニット ビジネス開発 アジャイル開発 シニアコンサルタント
大手小売業に約12年在籍。主に自社メディアの会員獲得からロイヤルカスタマーを育成・拡大し、店舗への来店促進、アプリ販促、OMO販促で売上向上を目指すBtoCデジタルマーケティング業務に従事。その経験を活かし、現在は総合スーパー、食品スーパー中心に、現場で実際に役に立つ伴走型のデジタルマーケティング実行支援コンサルを約6年支援中。業務経験者ならではの業界理解・現場経験・成功事例に、データ活用支援で培われたノウハウを掛け合わせるアプローチを得意とする。
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