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MDMとデータガバナンスの動向

MDMとデータ・ガバナンス動向(2) ~ 米国での中長期動向における注目ポイント

 
伊阪コンサルティング事務所代表 伊阪哲雄
 
2000年以降、データ・マネジメントを中核としたコンサルティング活動を行ってきた。その経験を踏まえて、筆者の視点から米国を中心とするMDMとデータ・ガバナンスの動向を連載形式でお届けする。
第一回目はこちら
 
MDM(マスターデータ管理)及びデータ・ガバナンスの推進は、ある程度の期間、即ち最低五年程度の期間を要する。したがって、中長期的動向への考慮が必要不可欠である。そこで、第二回目・第三回目の連載では、MDMインスティテュート (The MDM Institute) の代表であり、筆者の20年来の友人でもあるアーロン・ゾーン (Aaron Zornes) のプレゼンテーション(「MDM&データ・ガバナンス・サミット・ニューヨーク 2015(MDM & Data Governance Summit New York 2015)」におけるもの)を中心に、中長期的動向にかかる視点にとってヒントになるであろうと思われる動向に関する予測を、以下の11点に絞り、筆者の見解を加えて説明したい。

1.「MDM as a Service」の具現化とその普及促進
2. データ・ガバナンスの課題
3. MDM運用におけるBPM(ビジネスプロセス・マネジメント:業務処理管理)の適用
4. 業務上の不可欠なMDMに関する戦略的な計画と仮説
5. 複数ドメインMDMに関する戦略的な計画と仮説
6. RDM(参照データ管理)への期待
7. クラウドMDMへの期待
8. ソーシャルかつモバイルMDM
9. 一時的MDM
10.ビッグデータとインメモリ
11.最も共通的なMDM導入手法について
 
最初に断っておくが、本稿には読者にとって耳慣れない専門用語及び本邦に紹介されていない製品名並びに企業名が登場するが、本稿内では詳細な解説はあえて行っていない。これは、本稿はあくまで「中長期的視点」を簡潔かつ明確に示すことを意図しているためである。何卒了解してほしい。ただし、これらに関する質問や疑問又はご意見がある読者には、適切にお答えするので、筆者まで問い合わせをお願いしたい(isaka@isaka.com )。
 
第二回目となる今回は、上記のうち1~6について説明する。
 

1 .「MDM as a Service」の具現化とその普及促進

「MDM as a Service(サービスとしてのMDM)」とはクラウドでMDM機能を提供する事業(サービス)のことである。EPRシステムは、この「MDM as a Service」を外部利用するものと、ERP事業者が自社でMDM機能をオプションとして提供するものと、両方が並存するが、前者の「MDM as a Service」の売上規模が拡大していくと予測される。
 
多くのERP提供事業者は、「MDM as a Service」への外部接続機能を具備するERPシステムを次世代となるバージョンで提供するだろう。
 
それと同時に、SaaS事業者は、「MDM as a Service」として統合化MDMないし従前のMDMの提供に奮闘していくだろう。さらに洗練されたSaaS事業者は、MDMに対する戦略的な提携と投資を使い、「MDM as a Service」を充実させていくだろう。
 
2016年には、マイクロソフトMDS(Master Data Services)やオラクルDRM(Data Relationship Management)のような大手ベンダー製品を介して、エンタープライズにおける部門MDMが普及するだろう。また、「Data Quality as a Service(サービスとしてのデータ品質機能)」がエンタープライズ向けに出荷されるだろう。
 
2017年までに、MDM機能を外部接続するERPシステム市場は、これらの「MDM as a Service」市場に凌駕されてしまうだろう。
 

2. データ・ガバナンスの課題

マスターデータ・ガバナンスの課題は、顧客又は製品に関するマスターデータ・ガバナンスのみといった限られた範囲のものから、顧客・製品・納入先・場所・価格・その他などに関する複数ドメインを扱える統合的なエンタープライズ・データ・ガバナンスに進化しなければならない点にある。未だ大半の企業が限られた範囲でのデータ・ガバナンスと奮闘中であるが、先進ソフトウェア・ベンダーは統合的なエンタープライズ・データ・ガバナンス製品を製品化しつつあり、2017年までにはかなりの進展が期待される。
 
 大半のエンタープライズは、当初は顧客系・製品系・納入業者系などに焦点を当ててマスターデータ・ガバナンスに奮闘するが、データ・ライフサイクル全般を包含する統合的なデータ・ガバナンスを最終的には求めてくるだろう。
 
2016年から2017年には、主要SI事業者とMDMに特化したSI事業者は、データ・ガバナンス・フレームワークの製品化に焦点を当てるだろう。一方、大手MDMソフトウェア・ベンダーはプロセス・ハブ技術に関連するガバナンス・プロセスとの連結に苦労を強いられるだろう。
 
2017年までは、これらMDMソリューション・ベンダーの活動は基本的に受動的であるが、その後はやや攻撃的モードから将来を考慮したプロアクティブ・データ・ガバナンス・モードへと移行するだろう。
 

3. MDM運用におけるBPM(ビジネスプロセス・マネジメント:業務処理管理)の適用

エンタープライズ視点からは、完全なMDMソリューションとしてドメイン間を横断し適用されるルール及び参照データが必要とされるだろう。一部のBPMソフトウェア・ベンダー製品が先行するが、2017年にはそれなりに容易な運用ができるBPMシステムが登場するだろう。
 
 MDMソリューション・ベンダーは、BPM機能を買収又は追加開発によってMDM製品の強化を行うため、BPMソリューション・ベンダーと市場において対立が発生するだろう。CDI(顧客データ統合)とPIM(製品情報管理)それぞれで個別の業務プロセスが必要ではあるが、これら双方の対象範囲を一体化する試みがなされるだろう。
 
MDM中心ベンダーに対して、BPM中心ベンダーは市場でのBPMソリューションの有効性が不足していると見られている。それと同じように、BPMベンダーが不得意としているBPMの伝統的焦点である「プロセス・モデリングと必ずしも実行されないMDMルール」関する機能について、BPM中心ベンダーは引き続き苦戦を強いられるだろう。
 
しかし、エンタープライズBPMが統合データ・ガバナンスにおいて機能し、その一方でMDMワークフローがBPMにおいて機能していく必要があるため、2017年までに大手MDMベンダーとBPMベンダーはこれらの問題を克服していくだろう。
 

4. 業務上の不可欠なMDMに関する戦略的な計画と仮説

MDMは業務プロセス改善を推進する効果があるため、エンタープライズは、MDM適用によって、業務プロセスの強化を期待する。その適用目的は、エンタープライズの属する業界の業務における問題の解決である。
 
解析型MDM、マスターハブ(トランザクション)型MDM及び共同ハブ型MDMは、業務上の不可欠になり、そのため無停止システムであることを要求されるようになるだろう。各MDM型がどのユースケースに対して適・不適性があるのかについての独断的な議論は終わるだろう。特定のMDMソフトウェア・ベンダーにおけるセマンティック(意味論)機能の柔軟性不足により業務における拡張性不足が露呈しても、参照データに関するユースケース活用により、それらMDMソフトウェア・ベンダーはその販売を継続していくだろう。
 
エンタープライズはますます1対1(1-to-1)マーケティングに集中するようになり、マスター関係管理(Master Relationship Management)とSoE(System of Engagement)は多くの業種で先端的なMDM適用事例になるだろう。
 
MDMプラットフォームは、MDM機能の運用を停止することなく、データ・モデルや業務ルールなどの変更・更新ができる機能が提供するようになるだろう。
 
2017年までに、上記の機能によりマスターデータ・サービス機能の向上が実現されるだろう。そして、これら新機能を配布するのに一斉同期・配信機能が提供されるようになるため、従来のようなソフトウェア更新のような配慮はもはや不要になるだろう。
 

5. 複数ドメインMDMに関する戦略的な計画と仮説

多くのPIM(製品情報管理)系MDMは複数ドメインを扱うものであり、単なる製品情報の管理に留まらず顧客・納入業者の情報の管理も含むものである。CDI(顧客データ統合)も同様に多様な側面がある。グラフ型データベース1が機能するMDMは、全ドメインを横断してデータ・アイテム間の関連付けを行う機能を提供するため、これらの問題を解決すると考えられている。
 
MDM評価チームは次の点を強調するだろう。「全MDMソフトウェア・プラットフォームは、製品情報と顧客・納入業者情報の両方を全面的にサポートするミッション・クリティカル・システムであるべきであり、そのプラットフォームの主な役割はエンタープライズ・レベルでの展開に変わっていくだろう。」
 
既存大手MDMベンダーは、CDI(顧客データ統合)ソリューションとPIM(製品情報管理)ソリューションとを別々に展開し続けるだろう。一方、従来型のMDMは失墜した、として、新規参入MDMソリューション・ベンダーが市場での地位確保に挑んでくるだろう。MDMを考慮したデータ・モデルについて、大手MDMベンダー、特にIBM、オラクル及びSAPによって、販売面での強化が続られるであろう。
 
2017年までに、マスターハブ型CDIベンダーは「簡易型PIM(製品情報管理)」機能を追加し、全てのPIMベンダーはB2Cの顧客、納入先などのエンティティ・ドメイン管理機能を追加していくだろう。
 
2017から2018年までに、グラフ型データベース技術はドメイン間の関係を結合するための「ハブのハブMDM階層」をサポートし、マスターデータ関係管理モデリング機能と解析機能を提供していくだろう。
 
1:グラフ型データベース
グラフ型データベースは、データ格納時にデータポイント間の関係を調べ、システムの運用を続ける中で、異なるデータ・アイテム同士を関連付けるためのメタデータを維持する。グラフ型データベースでは、関係の「グラフ」が作成される。グラフ型データベースの利点として、データクエリの処理効率がリレーショナル・データベースや従来型の非リレーショナル・データベースに比べて格段に優れている。さらに、グラフ型データベースのパーフォーマンスは、データベースのサイズに本質的に依存しない。この理由は、グラフ型データベースでは、検索したい「パターン」を指定すると、検索対象外と判断されたデータが全て無視され、関連がありそうなデータに集中するためである。各ノード間の関係を事前に規定することにより、発生したイベントに対して、迅速に辿り着ける。しかし決定的な課題は、グラフ構造の精度が対象に対して十分完成されたものでなければならないことである。
 

6. RDM(参照データ管理)への期待

現在でもそれなりに効果的に活用されているが、今後はデータ・ガバナンスを考慮した安価な製品が登場するだろう。
 
エンタープライズ領域における重要な手始めとして、参照データは継続して利用されるだろう。そのため、顧客ドメイン、製品ドメイン及びその他ドメインに関するMDMの選択の際に、RDM機能が重要視されるだろう。参照データはMDMプラットフォーム本来のエンティティ・タイプの重要な一部分となり、参照データにより大手エンタープライズはデータ・ガバナンスを継続していく。言い換えれば、大手エンタープライズは多様な同義語を極力排除する方向でメタデータ管理を推進する。
 
中央集権型のガバナンス、スチュワード業務及びコントロールに対してMDMアプローチを適用するために、MDMベンダーはRDMに関するマーケティングを始めるだろう。ゴールデン・ソース社(GoldenSource)からのセキュリティ・マスター機能(マスターの改ざん検知や堅牢性を高める機能)を、インフォマティカ(Informatica) MDMとIBM MDMがOEMとして扱うようになるため、SI事業者はこれを利用してセキュリティ・マスター市場に参入していくだろう。
 
2017年までに、普及性の高く安価なRDMが、大手ベンダー(アタッカマ社(Ataccama)、マイクロソフトやオラクル)の尽力により広く普及していくだろう。許諾されたドメインを特定するRDM機能を有するMDMハブの提供により、大手ベンダーはRDMをサポートするだろう。
 
(第三回目に続く)
 
文字数等の制約から詳細には説明できていないが、データ統合、MDM、データ・ガバナンスなどに関する推進、ソフトウェア選定やSI事業者選定などについて、具体的な関心がある方は遠慮なく、問い合わせをお願いしたい(isaka@isaka.com )
 
 
─ 伊阪哲雄プロフィール ──────────────────────
データ・マネジメントを専門とするITコンサルタント。1970年、外資系大手コンピュータ・メーカーに入社して以来、一貫してデータ・モデリング/設計やデータ・クレンジング、データ統合、マスターデータ管理、データ・ガバナンス、人材育成に関わる支援を行ってきた。特に通信業界、医薬業界や、金融業界のデータ・マネジメントに詳しい。米国のデータ管理系コンサルタントと幅広い交友関係があり、米国など海外の事情にも通じ、例えば米MDM Instituteが主催するカンファレンスに毎年欠かさず、10年間参加している。

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