日本データマネージメント・コンソーシアム

会員コラム

【Vol.26】柏崎吉一氏「コンピューターで使われる『文字』の国際的なスタンダード作り」



 
JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、合同エクリュの柏崎吉一さんです。

コンピューターで使われる「文字」の国際的なスタンダード作り

 
編集制作会社 合同会社エクリュの代表、柏崎吉一と申します。テクニカルライターおよび編集業を生業としています。20代に出版業界で仕事をし始めてかれこれ20年近くになりました。ICTを含む技術や最先端の研究開発、開発プロジェクトの舞台裏、ものづくり現場における技能継承や人材育成の取り組み、組織運営や経営に関するキーパーソンのインタビュー取材を通じて、これまで多くの方々の謦咳に接してきました。
 
JDMCと出会ったのも、そうした取材・執筆・編集活動が縁でした。以来、オープンデータやマイナンバー制度などで注目される行政データの活用・マネジメントに関する研究会活動に携わるようになったほか、恒例となったカンファレンスのユーザー講演レポートの制作などの情報発信に関わることがあります。
 
私が出版業界に関わるようになった1990年代の半ばから後半は、編集制作の現場がそれまでの紙中心のフローからデジタル化へと急速に舵を切った時期と重なりました。
 
まず、印刷会社側のシステムが、PS(Pre-sensitized)版という金属板にコンピューターで作成した版下データを自動的に焼き付ける方式に変わりました。それまでは、熟練者による職人技の世界です。専門の技術者が製版用紙の上に文字や写真などの原稿素材を貼り付けて、版下を作り、それを手作業で撮影して製版フィルムを作り、PS版に焼き付ける工程で経験を要します。今日では雑誌制作などはフィルムレス化が一般化し、原稿の制作から編集、印刷入稿までデジタルデータで一貫して行われています。デジタルデータを用いることで、誌面の編集やデータの保存、共有、活用などが、それまでと比べて遥かに行いやすくなりました。
 
ただ、デジタル化の進展の一方で、納品した文字原稿の素材データが「編集部側のパソコン画面上で化けてしまう」「違う文字に置き換えられてしまい、意図したように画面に表示されない」「画面に表示されたように、プリンタや印刷機械で印字されない」といった、それまでなかった問題も新たに出てきました。
 
画面上に表示される文字は、コンピューター側に内蔵・設定された字形の集合体である文字集合(JIS X 0213、CP932などの文字セット)と、それぞれの文字に規則性をもって割り振られた文字コードと呼ばれる『通し番号』(符号)をコンピューターが紐づけられるようにするエンコーディング方式(UTF-8、Shift-JIS、EUC-JPなどの文字符号化方式)によって決められます。文字集合や文字エンコーディングの方式はコンピューターの誕生以来、複数生み出され、技術進展と合わせて改定が重ねられてきました。そのため、その割り振られた番号がどの字形の文字を表すのか、原稿制作者、編集部、印刷会社それぞれで用いるコンピューターが判読できるものでなければ、意図したように出力・印字されません。
 
この問題には、アルファベットと英数字以外の文字を母国語として扱う国では、どこでも直面することになります。情報化を進める上で、文字コードおよびエンコーディングの標準化は共通する課題でした。国際的には1992年にユニコードコンソーシアムによってUnicodeの第一版が発行され、1993年にはISO/IEC 10646が制定され、国内外のコンピューターメーカー各社の戦略、各国の主張と譲歩が交錯する中、標準化の道が探られてきました。日本では1978年にJIS X 0208(当時、JIS C 6226)が、2000年にJIS X 0213が制定され、段階的に、ユニコードとの整合性が図られています。
 
文字の形状には、人名・地名の場合には祖先から受け継いできたルーツ、自身のアイデンティティとつながり、文学的・学術的な意義もあります。単純に統一すればいい、というものではありませんが、情報処理の混乱を避けるために、適材適所で用いるルール作りや意見の交通整理は不可欠です。Webアプリケーションにおいてもある種の文字集合と文字エンコーディングがシステムの脆弱性を招くこともあり、使い方に注意が必要です。
 
コンピューターは世界中で使われているツールですから、文字コードや文字エンコーディング方式についても、公共財としての側面があります。特定の国や企業だけで仕様を決められるものではありません。それぞれの国の声を尊重しつつ、メーカーやユーザーを交えた、協調と駆け引きの中で引き続き、今後も標準化や改定が重ねられることでしょう。一般にはあまり知られていませんが、そのことをスマホやパソコンに触れるとき、どこかで思い出していただけると幸いです。
 
 
柏崎 吉一 (かしわざき・よしかず)
編集制作会社 合同会社エクリュ 代表社員


企業・団体の活動紹介ならびに経営、研究・開発、製造、営業部門など各現場における人材にスポットを当てた紹介記事、製品 やサービスに関する解説記事などの取材・執筆、編集制作を手がけている。2012年10月よりJDMC研究会「行政データマネジメント研究会」に所属し、個人のライフイベントや企業のニーズにマッチした、わかりやすく使いやすい行政サービスに不可欠なデータガバナンス/マネジメントのあるべき姿、オープンデータを活用した社会的な課題解決の可能性を探っている。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
 
※行政データマネジメント研究会はfacebookグループでも情報発信しています。https://www.facebook.com/groups/196619113830750/
 
※ご参考
ITLeadersサイト記事「社会課題の解決につながるオープンデータを活用した官民協働の取り組み」(柏崎吉一)
http://it.impressbm.co.jp/articles/-/12300
 
ITLeadersサイト記事「あらゆる現場に存在する問題の可視化・解決に統計解析を役立てる」(柏崎吉一)
http://it.impressbm.co.jp/articles/-/12129
 
 

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