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レポート

第25回JDMC定例セミナー報告

2014年6月25日、第25回JDMC定例セミナーがインプレス市ヶ谷セミナールームで開催された。1つ目の講演では、富士通株式会社 ミドルウェア事業本部 データマネジメント・ミドルウェア事業部 事業部長の安永尚稔氏が登壇。富士通が提供するデータベース製品の動向を紹介した。

2つ目の講演では、PGMホールディングス株式会社 データ戦略部グループ シニアマネージャーの正司真美氏が登壇。ゴルフ場運営会社ごとにバラバラになっていた顧客データを全社で統合し、経営強化に活かす業務革新の舞台裏を語った。

◆講演1
現場部門主導の新たな情報利活用を支えるデータベース

安永尚稔氏
富士通株式会社
ミドルウェア事業本部
データマネジメント・ミドルウェア事業部 事業部長

富士通におけるデータベースの取り組みを安永氏は、「統合・安全・活用」をキーワードにして説明した。

まず第1部では、DWHを用いることで現場に埋もれる有益なデータの迅速な見える化を支援する富士通の取り組みを紹介した。「たとえば、ある製品の国内外の販売比率、実店舗とEC店舗における売上比率をすぐに調べられるでしょうか。集計の基礎データは社内にあるのに、素早く統合できなければビジネスには役立ちません」(安永氏)。

とはいえ、基幹系データを分析システムに連携させるのは簡単ではない。データへのアクセス権限管理のための仕組みづくりやデータを抽出するためのマート設計などに手間を要するためだ。

そこで安永氏は、データマートを作ってから連携させる、というこれまで発想をいったん脇に置き、まずは、基幹系データをcsv形式などのシンプルなファイルとして抽出・共有する方法を提案。ファイルのカラムを活用してデータの集計・閲覧を行う方法を披露した。このアプローチを具現化したアプライアンス製品が、FUJITSU Integrated System HA Analytics Readyだ。「参照用のビューを提供する機能を持っています。集計の際にデータマートを作る必要がありません」。

この製品では参照するカラムごとに暗号化できるため、権限のない利用者の閲覧はできない。データの暗号化もサーバー上で行ってからビューを行うクライアント側に送信するためネットワーク上での盗み見も防げるなどセキュリティに配慮。データ検索にはカラムストア技術を採用し、データを圧縮したままで高速検索する仕組みを備えている。加えて、オープンスタンダードなデータベース「PostgreSQL」のインターフェースを持っているため、豊富なソフトウェアやパッケージを業務に生かせるなど、安全にデータを統合・活用できる点を安永氏は強調した。

第2部では、ビジネスの拡大と最適化に予測分析を取り入れた支援を行う富士通の取り組みに触れた。「データの動き方は、平均、周期、傾向、変化という4つの動きの組み合わせでほぼ説明することができます。ある店舗における商品の売上データの変動が、キャンペーンや特売などが要因かそれ以外なのか、上記4つの要素に分解していくことが在庫保有率や欠品率の低減といったプロセスの最適化につながります」と述べた。

顧客と日々接する現場は有益な知恵が埋もれているが、ノイズも混じっている。「個人の経験や勘を活かしながら、その精度を高めるには現場全体のナレッジをまず可視化すること、その上で導かれた仮説を試行錯誤するPDCAを継続してください。予測分析をICTで支援することで売上や来店者数などの目標値を1〜2割上げることは可能です」(安永氏)。

より高い改善効果を目指すには、顧客のニーズにマッチした商品・サービスのレコメンドを行うことがポイントだと安永氏は指摘した。「それには、テストマーケティングが有効です。健康志向の高い人に他の商品を提案して反応を探る。何を買ったかという情報にとどまらず、何を買わなかったかをデータとして収集することも予測精度を高める上できわめて重要な手がかりになります」と指摘した。

富士通では、スマートデバイスのAR(拡張現実)機能を用いたテストマーケティングも支援している。OLTP、DWHを網羅する製品ラインナップと合わせて、様々なアプローチで顧客のデータ活用を今後も支援したいと安永氏は意気込みを語った。

◆講演2
1対1のエンゲージメントに向け
顧客データを活かしたリターゲティングの取り組み

正司真美氏
PGMホールディングス株式会社
データ戦略部グループ シニアマネージャー

人口減少や長引く資産デフレを背景に転機を迎えた日本のゴルフ市場。収益の柱は、会員権ビジネスではなく、ゴルフ場運営におけるサービス品質やマーケティング力にシフトしている。そうした中で、全国128のゴルフ場を運営するPGMホールディングスでも、経営戦略の見直しを迫られていた。

同社データ戦略部グループの正司氏は「突き詰めれば、ゴルフコースをどれだけ多くの顧客の予約で埋めるか。そのために全社的な顧客データの収集、活用が必要でした」と述べた。正司氏は数学の専門家で数理統計学などに通じている。経営企画に携わる一人として、新たな収益モデルを経営層に提案し、承認とコミットメントを得るために、社内に蓄えられたデータで裏付けを取ろうとした。

ところが、データの管理状況を見て驚いたという。

同社は事業運営の中で多くの企業合併を重ねてきた。しかし、企業ごとのDBは統合されず、並行運用のままだった。つまり、顧客を管理する128のゴルフ場それぞれの顧客DBは全社的に共有されていなかった。また法人別の情報管理が主体で、個人顧客ごとの名寄せもなされていない顧客データは、様々な分析軸による、きめ細かな分析にすぐ活用できなかった。

危機感を抱いた正司氏は、顧客データをホールディングス側で集約するには、本社だけでなく、データを所有する各ゴルフ場の運営会社の協力が必須だと考えた。たまたま正司氏はM&Aなどの実務を通じて、各ゴルフ場の現場担当者や本社人事部門と面識があった。この人脈を活かし、「従来メインだった法人顧客というくくりではなく、個人顧客一人ひとりを捉えたデータ管理がこれから重要になります」と地道にプロジェクトの重要性を説いて回った。本社の経営層、業務部門に加えて、IT部門も巻き込んでいった。2012年改革に向けたプロジェクトがようやく動き出した。

このプロジェクトを通じて同社では、顧客からの予約手続きを全社で一元化した。従来のように各ゴルフ場がバラバラに予約を受け付けるのではなく、コールセンターおよびインターネットのWeb予約システムで取りまとめる形にした。各ゴルフコースの予約状況は基幹システムに蓄えられたデータから把握でき、コールセンターの担当者もその情報を照会しながら予約を受け付けられる業務フローに変えた。

DWHおよびBIツールは刷新前の使い慣れたものを引き継ぎ、データマートを経由してCSVデータを抽出し、分析している。蓄えられた顧客データの件数は280万人以上に達している。

2014年には、日別・コース別の来場者数、売上などの切り口で、3カ月先までの月末着地予測を行えるシステムが完成した。この結果、予約の手薄な日時、コースを見つけて重点的に営業活動をかけることが可能になった。予測データやグラフはタブレットなど各種端末からリモートで確認できる。従来、担当者任せだったコースの値付けも、これらのデータに基づくことで適正な価格を設定できるようになった。

マーケティングの強化にもデータを活用している。顧客DBは客単価別にセグメントされており、セグメント別にメールなどで販売促進活動を展開したところ、従来の一律配信メールに比べて反応がよく、空いているコースが埋めやすくなった。営業活動もゴルフ場がそれぞれ独自に行うよりも、重複やムラが解消され、ゴルフ場間での顧客争奪なども減った。

同社は分析に必要なデータの処理作業を、高度な予測ノウハウや各種ツールを持つインドの専門企業にアウトソーシングしている。社外に委託することで、人件費などを抑えつつも精度の高い分析が可能になった。

現在、力を入れているのは、同社のWebサイトを訪問した利用者に再度訪問を促す広告を表示するリターゲティングだ。正司氏によれば2012年〜2014年の間に、Web経由での予約や物品販売が売上高に占める比率は12%から48%へと4倍に増した。顧客セグメントにマッチするコース情報を自動的にWebに表示すると、クリックした人の26%が予約するなど、「これほどうまくいくとは思わなかった」(正司氏)という。Webは広告費や人件費を抑えられるため、一連のリターゲティングによる広告効果は10億円の増収効果に相当するという。

さらに、ラウンドした顧客の成績データなどを含めて、多角的な顧客情報を利用した関連商材のクロスマーケティングにも検討している。経営のパラダイムシフトをさらに進めていく方針だと正司氏は述べた。

散在していたデータを集めるのは簡単ではない。正司氏は、それまでに築いてきた各現場の担当者との人脈が生きた、運が良かったという。現場とのつながり、信頼があってこそ、データサイエンスも生きてくる。日頃のコミュニケーションは大切だ。

(文責・柏崎吉一/エクリュ)

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