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レポート

第26回JDMC定例セミナー報告

2014年7月23日、第26回JDMC定例セミナーがインプレス市ヶ谷セミナールームで開催された。
最初の講演は、日本電気株式会社(以下、NEC) システムソフトウェア事業部 シニアエキスパートの中村暢達氏と米増豊氏による同社のデータ活用ソリューションの紹介。NECのビッグデータ蓄積基盤と分析技術の適用事例が披露された。
続く2つ目の講演では、SBIホールディングス株式会社 社長室 マネジャーの佐藤市雄氏が登壇。同氏がリーダを務めるJDMC研究会の成果を交え、企業グループにおけるビッグデータ活用に向けた組織運営のポイントを語った。

◆講演1
今見逃せない! ビッグデータ蓄積&分析の最前線

中村暢達氏
日本電気株式会社
システムソフトウェア事業部
シニアエキスパート

米増豊氏
日本電気株式会社
システムソフトウェア事業部
シニアエキスパート

「昨今の商談から見えてきたNECに対する顧客の期待は4つに大別することができます」と同社の中村氏はスライドを示した。
1つ目が、オペレーションの最適化と高速化である。
高度経済成長期に相次いで建設された発電所や橋梁などの社会インフラが老朽化し、損壊の危険性が顕在化しつつある。損壊に起因する事故や災害を防ぐには、計画的な点検の実施に加えて、普段から小さな兆候を見逃さないことだ。とはいえ、全国にある膨大な数の設備や建造物を常時、人手で確認するのは難しい。その課題に対し、NECではM2M技術を活用。インフラ設備に設置したセンサーを介して電圧、流量、圧力、振動などのデータを高頻度に集め、大量の時系列データをインバリアント分析などにかけてインフラ設備の危険度を逐次「見える化」している。「invariant」とは平時におけるセンサー間の不変関係を指し、そこから外れた異常値を検出できれば、効率的なメンテナンスなどに役立てられる。
期待される2つ目の領域は、組織におけるコンプライアンス対応強化、サイバー犯罪や不正行為の早期発見・抑止に関するもの。法令違反の検知には、メールに含まれるテキストも手がかりになる。例えば、「他社と価格を調整する」といった文言が含まれるメールは不適切な談合の存在を示唆している。ただし、「他社」「価格」「調整」といったワードで単純にメールサーバーのデータを検索しても、通常のメールも検索結果に多数表示され、問題の早期発見は困難だ。そこでNECでは文の構造や単語の係り受け、文脈を踏まえて判別できるテキスト含意認識技術を開発して、こうしたニーズに応えている。
3つ目が製品/サービスにおける価値向上と改善である。鍵になるのは、高精度の需要予測だ。ビッグデータには通常、異なる規則性に従うデータが混在しているため、事前に分類しない限りデータを適切に分析することができない。同社の異種混合学習分析を用いると従来は専門家でも見い出すのが難しかった複雑な予測式(数学的モデル)を迅速に導き出すことができる。「ある小売企業では、販売するシュークリームの売上高と最低気温との間に負の相関関係を見い出し、その仮説に基づいて販売したところ商品の廃棄ロスを従来比30%削減することができました」(中村氏)。異種混合学習分析は、各種商材における適正価格の予測や、電力の需要予測などにも適用できると中村氏は語った。
4つ目の領域は、顧客獲得と維持、販売促進である。具体例として中村氏は人材マッチングソリューションに触れた。テキスト、音声、画像などの非構造化データを高速に解析するRAPID機械学習を活用し、離職率の引き下げに貢献した事例を示した。
「ビッグデータは非構造化データだけでなく構造化データも重要です。富士通ではデータ分析の目的や手法などはお客様と一緒に検討していますのでご相談ください」と中村氏は述べた。
続いて同社の米増氏がNECの提供する製品「InfoFrame Rational Store」を紹介。「各種機器から収集される多数のセンサーデータを分析すると同時に、多数のユーザーがアクセスし、1秒間に万単位のトランザクションが生じるようなシビアなシステム環境でも高いパフォーマンスの発揮を期待できます」(米増氏)。流通小売など膨大なデータ量の伸びが見込まれる業種で本製品の採用が見込まれていると米増氏は語った。

◆講演2
企業グループにおけるビッグデータ活用のための戦略的組織運営

佐藤市雄氏
SBIホールディングス株式会社
社長室
マネジャー

佐藤氏がリーダを務める「テーマ6:顧客行動分析による実践的なマーケティングアプローチとは」は8つあるJDMCの研究会の一つ。企業内外に存在する活用可能なデータを活用し、顧客に対して効果的にアプローチする際の留意点や課題を月に一度程度の定例会の場で探っている。
「これまでのケース研究の内容を交えつつ、ビッグデータを活用するためのテクニックではなく、『組織』のあり方について述べたいと思います」(佐藤氏)。
自身を「バリバリの文系」と称する佐藤氏だが、大学で学んだ計量経営学を生かして現在、SBIホールディングスの事業運営におけるデータの戦略的活用を推進している。SBIグループは、約290万口座(2014年3月末現在)を擁するSBI証券を始め、銀行・保険・住宅ローンなどの金融商品/サービスの提供、投資業務に加え、化粧品・健康食品・創薬などのバイオ関連事業を含む約40社の企業から構成されている。
「自動車を購入したい、と考える顧客には最適なローンや保険を提案するといった具合に、グループ力を生かしたソリューションを提案できることが強みです。とはいえグループのネットワーク価値をまだ十分に活かし切れていないのが実情です」と佐藤氏は打ち明けた。
同社には、1,700万人を超えるグループ全体の顧客基盤、さらに月間ページビュー4.4億件に上るグループサイトがある。それをビジネスに活かすため、グループ横断的な実務者会議を2012年夏以降、定期的に開催している。社長室直下の会議で、参加者は本社のビッグデータ担当部門と、各グループ会社のビッグデータ担当部門のメンバだ。データを業務に活用する現場担当者の参加も義務付けられている。ゴールの一つに各社のビッグデータをどう活用するかの方針策定がある。
「グループ各社が同じような分析を重複して行うのは非効率です。そこで各社が分析を行う際には目的を明確し、どことどこの部署が連携してやるのか、結果はどう情報共有するか、をグループ全体で議論しています」(佐藤氏)。
しかし、グループ会社各社に、本社から一方的に人材を寄越しなさい、データを出しなさいと呼びかけても各社の事情もあり、うまくいかなかったという。「調整が難航し、活動が停滞した時期もありました。そこで経営層の協力を取り付け、トップダウンでの取り組みに変えました。ただ、会議の存在自体がまだ全社に知られていない段階であり、成果を出しながら引き続き存在意義を示すことが必要です。組織的な人材育成・教育体制の標準化も視野に入れています」(佐藤氏)。
データの活用をグループ全社に浸透させていくには、「情報共有におけるポリシーの標準化などセキュリティ対策、データ統合、組織面での改革などが不可欠です。その成果は徐々に、グループの情報基盤を生かしたOne to Oneマーケティングの高度化などに現れてくると考えています」と佐藤氏。
「同様の課題を抱えている方は、ぜひ、『テーマ6:顧客行動分析による実践的なマーケティングアプローチとは」』に参加して頂ければ」と佐藤氏は呼びかけた。

SBIホールディングスの佐藤氏は、ビッグデータ活用のために社内におけるツール環境およびデータ環境の整備、社員のリテラシー向上、企業風土の変革の必要性を挙げた。分析のツールや技術は、NECの中村・米増両氏の講演にあるように近年、長足の進展を遂げている。一方、企業にイノベーションを起こすためにこれ、という特効薬はない。「各グループ会社の協力を勝ち得るため、非常に小さなものの積み重ねが重要」とSBIグループの佐藤氏は語った。
より深い知見を得ていただくために、ぜひJDMCの研究会に参加してほしい。様々な企業の声を聞くことができるはずだ。

(文責・柏崎吉一/エクリュ)

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