◆講演1 MDMサミットin NY レポート
◆講演2 テーマ4「MDMの価値と進め方研究会」
◆講演1 MDMサミットin NY レポート
伊阪哲雄氏
伊阪コンサルティング事務所 代表
中谷透氏
ミッド・バレー・コンサルティング合同会社 代表
MDM(Master Data Management)とデータ・ガバナンス分野の実務者・有識者が一堂に会する米国最大規模のイベント「MDM & Data Governance Summit 2013」が、2013年10月20~22日の3日間、ニューヨークで開催された。このイベントに参加した伊阪氏と中谷氏がその様子を報告した。
今回で8回目を数える同イベントは、例年以上の活気に満ちていたと伊阪氏。同時に、日本と海外のベンダ/ユーザ企業の取り組みの差の広がりを感じたと振り返った。
「米国の企業では、マスターデータ、トランザクションデータ、非構造化データといったデータ資産のマネジメントおよびガバナンスの取り組みがすでに一巡し、定着している。軸足は今、リファレンスデータに移っている」(伊阪氏)。リファレンスデータとは、国や標準化団体などが定める公共性の高いデータの総称である。郵便番号や各国通貨コードなどがこれに該当する。仮に、一国の郵便番号が大きく変更される場合、企業は郵便番号データを参照する自社のマスターデータを一斉更新する必要がある。影響範囲の特定や作業の進め方などを含む戦略的な対応が必要になる。このリファレンスデータ管理が、同サミットにおける話題の一角を占めていたという。
キーノートプレゼンテーションでは、同サミット共同議長のAaron Zornes(アーロン・ゾーン)氏がSocial & Mobile MDMをテーマに講演した。テレビやラジオなどの既存メディアを上回る勢いを有するSNS。ここで交わされる一般消費者の口コミ情報のパワーに企業が注目し、MDMの対象として捉えていた、と伊阪氏は同氏の発言を指摘した。
伊阪氏の印象に残ったのが、フォレスターリサーチ社のMichele Goez研究員によるセッションだ。「散在したデータを全社で統合し、ゴールデンデータを維持管理するというのはMDMにおいて、もはや当然だ。その上で、顧客に関連するデータをビジネスの文脈に沿って瞬時に紐付けて抽出し、顧客管理の改善や企業の成長に役立てるゴールデンプロファイルを具現化するべき、と一歩踏み込んだアプローチを披露していた」(伊阪氏)と、MDMおよびデータガバナンスにおいて先行する米国の取り組みに触れた。
「米国ではMDMやデータガバナンスは円熟期に入っている。ビッグデータの活用も、MDMとデータガバナンスを基盤とした上で取り組んでいることは認めざるを得ない。目的意識が明確で、全社で戦略的に取り組んでいる企業が多い。一方、日本では現場のユーザが主体となってうまく活動サイクルを回している企業もある半面で、まったくなにもしていない企業もある。企業間のギャップが広がっていることを懸念している」(伊阪氏)。
これを補足した中谷氏は「米国では、CDOやデータスチュワードが配置され、組織内にデータガバナンス・コミッティーを設けるなど、社内のユーザを巻き込む体制が全社的に整えられている」と述べた。
今年、MDM & Data Governance Summit2014は米国3都市で開かれる予定。ニューヨークでは、2014年10月5日~7日に開催される。遠方だが参加費に見合うビジネスチャンスと人脈を得られるだろうと伊阪氏は確信を込めて述べた。
◆講演2 テーマ4研究会報告
水谷哲氏
富士通株式会社
SI技術本部
システム技術統括部
マスターデータは地味とはいえ、企業のビジネス活動を縁の下で支える存在だ。情報システムの中心に位置づけられることは、今後も不変といってよいだろう。JDMCの研究会のひとつ、テーマ4「MDMの価値と進め方研究会」では、マスターデータの管理・活用を次世代ICTへの突破口と考え、事例の発掘や創出を通じた問題提起と価値の訴求を行っている。
MDMはマスターデータだけでなく、トランザクションデータ、リファレンスデータとも深く結びついている。また在庫マスタのように更新頻度が早いものは、もはや“マスタ”と称しにくい。ビジネスを巡る環境や取引先、ルールが変われば“マスタ”も変わらざるをえない。そうした中、同研究会ではMDMをより広義のデータマネジメント(DM)の文脈から捉えて研究を進めている。研究会リーダの水谷氏は、これまでの研究会で議論された内容、MDMに関するエピソード、今後の可能性など100のトピックスを本講演で紹介した。
「MDMは多くの要素からなる。取り組む企業の置かれた状況もさまざまだ。今日話すトピックスは多岐にわたるが、その中から1つでもヒントを持ち帰っていただければ嬉しい」(水谷氏)。
MDMについては、費用に対してメリットが見えにくいとしばしば言われる。だがそれは正しい認識ではない。もしMDMへの取り組みが不十分であるならば、社内の専門部署に需要予測などのデータ分析を依頼しても、求める水準のレポートがすぐに出てこないだろう。「分析の基礎データとなるマスターデータの整備は泥臭い作業である。しかし、その仕組みを作り、PDCAサイクルを回し続ければ成果は次第に形になっていく。料理にたとえると最初は『コーヒー』程度だったレポートの品質がやがて『豪勢な料理』に変わっていく。時間はかかるが継続することがポイントだ」と水谷氏は述べた。
それではDMの旗振り役を社内の誰が担うべきか。「業務部門、レポートを作るデータ分析部門、情報システムを開発する部門、SEなど候補はいくつもあるが、いずれも決め手に欠く。部署を俯瞰できるプロフェッショナルな立場、経営層の直轄に近い役職であるのがあるべき姿だ。データの重複率や不良率の減少をKPIに掲げ、全社横断的にDMを推進することができるのが、いわゆるデータステュワードだ」と水谷氏は説明した。
「マスターデータを含むデータは使いこなしてこそ、初めて価値が生れる。単なるデータの物理統合、ゴールデンレコードの追求は最終ゴールではない。マスタ運用を含めて社内外のデータ資産をいかに様々な切り口で操れるか。経営を可視化できるか、が本当のミッションだ。仮説と異なる現実を直視するのは担当者にとって辛いことかもしれないが、データと向き合わずに帳簿上の数字をなめる商慣習はナンセンスだ。ファクトに基づく意思決定やアクションを伴わなければ、企業経営を正しい方向に導く大胆な変革はできない」と指摘した。
MDMやデータガバナンスが社内に定着し、その上でビッグデータの活用が進む米国。一方、MDMの取り組みにまだ温度差のある日本の企業。両国の企業文化や商慣習の違いはあるとはいえ、グローバル規模でのビジネス展開が前提のご時勢で、これ以上差が開くことは見過ごせない。日本的な土壌に適したやり方とは何か。データマネジメントに取り組む日本の企業の事例にまずは耳を傾けることが大切だろう。データを経営に生かそうとする世界的な動きの中で、日本だけが取り残されることは避けなければならない。
(文責・柏崎吉一/エクリュ)