(レポート: 情報発信部会・竹内浩明(NEC ソリューションイノベータ)
2026 年 3 月 11 日に開催された JDMC 主催のカンファレンス「データマネジメント 2026」の講
演の中から JDMC のメンバーが興味を持った講演をレポートします。是非ご一読ください!
[B-3] 『データ活用宣言』を起点に広がる、
三菱電機の全社横断データ活用環境づくりと文化醸成
三菱電機株式会社
本講演では、三菱電機 DX イノベーションセンター 戦略企画部の浜田理恵氏および木村友祐氏が登壇し、全社横断のデータガバナンス体制の構築と、データ活用文化を根付かせるための実践的な取り組みを紹介した。同社は午前中の表彰式において、JDMC データマネジメント賞のデータガバナンス賞を受賞している。本講演では、受賞活動の中核である『データ活用宣言』を起点とした全社施策の全体像が共有された。
前半で浜田氏は、同社が製造業としてモノ中心の収益構造から、データを起点に価値を循環させる循環型デジタルエンジニアリングへと転換を図っている点を説明し、この領域横断の価値を示す基盤として Serendie を紹介した。これは偶然の出会いを意味するセレンディピティとデジタルエンジニアリングを掛け合わせた造語であり、異なる領域の機器・システム・サービスから集約されたデータを活用し、事業横断でデータ分析する構想である。例として、交通と電力のデータを横断分析して電力の可視化・最適化提案につなげる事例が紹介され、事業を跨いだデータ連携の重要性を示した。

一方で、こうした横断活動を進める上で、同社が 3 大 DX と呼んでいる事業 DX・業務 DX・ものづくり DX がそれぞれ個別最適で進んでしまい、データがサイロ化していたという課題が挙げられた。「なぜ必要なのか」「漏洩したらどうするのか」といった反応が社内で強く、安全側に倒れた運用により部門横断のデータ共有が進まないという空気があったという。これを転換するため、2024 年にトップのお墨付きを得て全社横断のデータガバナンスオフィスを組成した。全社で対象データとルールを揃えることを狙い、IoT 機器データや ERP など、二次利用が見込まれるデータをガバナンス対象として定義した上で、共通ルール・基準・流通の仕組みづくりを進めている。同社が根幹に据えたのは、「データの資産価値最大化」と「データの適切な取り扱い」の二本柱である。守るだけではなく、データを第 4 の資産として価値創出へ転じる意思を明確化しつつ、適正利用・安全確保を前提条件として同時に強化する考え方だ。特筆すべきは、この方針を文書化した『データ活用宣言』を社外公開したことである。対外的な覚悟の表明であると同時に、社内に対しても全社として共有し、活用する方向性を説明する起点になったと述べた。
宣言をもとに、データ活用マネジメント基本方針書に加え、個別方針書・ガイドラインの整備を進めている。基盤面では、規模面から中央集権型が難しいためデータメッシュ型アーキテクチャを採用し、事業ドメイン毎にデータオフィサーを置いてマネジメントを委任している。その他、グローバル拠点連携や法規制・国際標準の動向把握、AI・データ利活用のためのモデル契約整備なども進めているところであるという。
後半では木村氏が登壇し、データ活用する上で現場からの「何をすればよいんですか?」「また仕事が増えるの?」「本当にやって意味あるの?」といった反応があることを踏まえ、打ち手を「コミュニティ形成」、「データの民主化」、「データ”分析”民主化」に整理した。コミュニティ形成では、共創拠点の Serendie Street Yokohama を起点としてテーマ別コミュニティを運営できる環境を作り、社内外イベントや情報共有の場を通じて相互研鑽を促している。データの民主化では、事業ごとにドメインデータオフィサーを置き、データ整備と権限管理を担わせ、整備担当者の孤立を防ぐためのドメインデータオフィサー会を運営して事例共有を進めているという。

そしてデータ”分析”民主化では、実践型研修に加え、生成 AI を用いたデータ分析 AI エージェントを試行し、課題とデータを与えることで前処理・解析・可視化・レポート作成まで支援する構想を示した。将来的には社内 AI チャットボットと連携し、分析の裾野拡大とドメイン知識の蓄積を同時に進め、AI レディな状態へ近づける狙いがある。
本講演では、『データ活用宣言』を起点に、前半では浜田氏が全社横断のデータガバナンス体制の立ち上げとルール・基盤整備を中心に、安全と価値創出を両立させるデータ活用環境づくりを説明し、後半では木村氏がコミュニティ形成、データ整備の推進、生成 AI や AI エージェント活用を含むデータ分析の民主化を通じた文化醸成を紹介した。とりわけ、社外公開した宣言を社内変革の起点としても活用する発想は、同様にデータのサイロ化を抱える大企業にとって有効な示唆となるだろう。