JDMC主催のカンファレンス「データマネジメント2026」が、2026年3月11日に京王プラザホテルにて開催されました。「AI Ready Dataに舵を切れ」をテーマに掲げた今回のカンファレンスでは1,000名を超える多くの参加者が集まり、全46件におよぶ講演・セッションが行われるなど、大変盛況のうちに終了しました。生成AIの急速な進展を背景に、データマネジメントを取り巻く最新動向や実践事例について、企業・行政・学術界の多様な立場の登壇者から報告され、会場およびオンライン双方で活発な議論が交わされました。
基調講演を中心にトピックスをお伝えします。
尚、今後JDMC情報発信部会から、聴講した講演のレポートも公開予定ですので、お楽しみにしてください。
◆ 主催者挨拶
冒頭の主催者挨拶では、JDMC栗島聡会長より、本カンファレンスが第15回の節目を迎えられたことへの感謝を述べるとともに、開催日が東日本大震災から15年目にあたる3月11日であることに触れ、JDMCとしてデータマネジメントを通じた社会課題の解決に尽力していきたいとの思いを示しました。
続いて、生成AIが日常やビジネスに急速に浸透する今こそ、日本にとっては「千載一遇のチャンス」である一方、データが正しく管理されていなければAI活用は成果を生まないとの強い問題意識より、今年のカンファレンス・テーマに「AI Ready Dataに舵を切れ」を掲げたことを説明しました。
また、日本のデジタル赤字が拡大傾向にあることに言及し、AIとデータを活用したビジネス創出とイノベーションの加速を参加者に呼びかけるとともに、JDMCとして知見共有と実践の場を提供していく方針を示しました。

◆ JDMC AWARD 表彰式
JDMC AWARD表彰式では、卓越したデータマネジメントを実践してきた8つの企業および公共組織が表彰されました。
データマネジメント大賞を受賞した東京ガス株式会社/東京ガスiネット株式会社より清水氏、および株式会社CRISPより宮野氏からは、日々の地道な取り組みが評価されたことへ喜びと、現場でデータマネジメントを支えてきたメンバーへの感謝が示されました。また、清水氏は「データの質・量・構造にこだわりつつ、“データ・ネイティブ企業”と呼ばれるよう邁進していきたい」と力強く抱負を述べ、宮野氏は「データを整備、統合することで、お客様およびスタッフの体験を向上できる」との強い信念を語られました。
最後に栗島会長からは、受賞者への深い敬意と称賛が述べられるとともに、現場で培われた知見を社会全体に広げていくことへの期待が示されました。また、現場主導の取り組みと経営の関与が両輪として機能することでDXが加速し、そのプロセスにおいて”ガードレール”としてデータマネジメントが極めて重要な役割を果たすと強調しました。今回の受賞組織は、これら3つの要素がバランスよく噛み合っている点が評価されたとの見解が示されました。

◆ 基調講演[午前]生成AI時代のデータマネジメント
午前の基調講演では、東京大学 人工物工学研究センター上席研究員であり、株式会社Preferred Networks取締役の丸山宏氏が登壇し、生成AIの進化と、それを支えるデータマネジメントの本質について講演しました。
講演の前半では、機械学習・深層学習・大規模言語モデル(LLM)の原理が統計モデルにもとづくものであることが解説されました。LLMはあたかも人間のような高い言語運用の能力を持つ一方で、統計モデルゆえの様々な限界を内包していることが指摘されました。例えば、確率モデルに100%の正しさを求めることはできず、これがいわゆるハルシネーションの要因となり、原理的に避けられないことが強調されました。さらに、LLMは論理的な推論には弱みが残るとの見解が示され、外部ツールやアルゴリズム、データベースと組み合わせてLLMを部品として活用する発想が重要であり、現在Agentic AIとして注目されていると述べられました。
後半では、データは収集した人の目的や設計意図が反映されるとの前提に立ち、「データはファクトではない」という認識を持つことが重要であると強調しました。また、価値の源泉は、データを保有することではなく、データを適切に設計・収集・統合してよいモデルを生み出す能力にあると力説されていました。
その具体例として、丸山氏が携わった「仮想人体生成モデル」の事例が紹介されました。ここでは健康診断データやレセプトデータ、臨床データの他に、2000に及ぶ項目間の関連性を見るために新規に収集したデータを組み合わせて訓練データとし、個人属性に応じて疾病の傾向などを統計的に推定する取り組みについて説明されました。
講演の最後に丸山氏は、生成AI時代のデータマネジメントとしては、LLMの入力となるデータの質と設計が要諦であるとのメッセージとともに、データはただ持っていればよいわけではなく、「この目的であれば、こういうデータを設計しなければならない。」ということを考え抜くことが不可欠であると締めくくりました。

(丸山氏)
◆ 基調講演[午後]モビリティカンパニー変革に向けた取り組み
午後の基調講演では、ウーブン・バイ・トヨタ株式会社 代表取締役CEOの隈部肇氏が登壇し、トヨタが掲げる「モビリティカンパニーへの変革」に向けて、重点領域である自動運転、ARENE、Woven City、の取り組みについて語りました。
はじめに、自動運転技術の領域について、安心・安全な移動を実現するためのデータ活用について説明がありました。ここでは、従来のルールベースの制御からデータドリブンなアプローチへと転換することで、複雑な走行シーンにおける高いロバスト性を担保し、AIが学習を重ねてソフトウェア性能を向上させるアクティブラーニング・ループを構築することで、事故ゼロの実現に向けた持続的な改善を図っていることが述べられました。
次に、安全・安心で高品質なソフトウェア開発を実現するプラットフォームとしてAreneが紹介されました。Areneは、車種横断でソフトウェアをモジュール化・共通化するArene SDK、仮想環境でソフトウェアの検証・評価を行うArene Tools、走行データを安全に収集・分析する基盤であるArene Dataから構成されており、グローバル車種であるRAV4への採用を皮切りに、誰もが安心して移動を楽しめる社会の実現に向けてSDV(Software Defined Vehicle)の開発を本格化していく考えが示されました。
続いて、実際に人が暮らす環境で人・モノ・情報・エネルギーの多様なモビリティを実証する場であるWoven Cityについて紹介されました。Woven Cityは街のかたちをした「テストコース」であり、安全・安心で快適なモビリティをヒト・クルマ・インフラの三位一体で検討する点や、インベンションをデジタルとリアルの両面で回すデジタルツインの技術によってスピードを高めている点が大きな特徴であることが説明されました。
講演の最後に隈部氏は、Woven Cityは多様なプレイヤーの強みを「カケザン(掛け算)」する共創の場であり、「未来の役に立ちたい、自分以外の誰かのために」という考えに共感いただける方に是非ご活用いただきたいとの思いを語り、講演を締めくくりました。

(隈部氏)
◆ パネルディスカッション:データマネジメント人材活躍への道~日本企業の現状課題と国家試験への期待~
本セッションでは、企業におけるデータマネジメント人財の育成・活躍を阻む課題を整理しつつ、国家試験を含む資格制度に対する期待や、今後の人財育成の方向性について議論が行われた。

まず経済産業省の渡辺氏より、デジタルスキル標準(DSS)における要素が「5要素から6要素へ」拡張され、追加された要素がデータマネジメント領域であることが説明された。
あわせて、データを価値に変える基盤としての人財育成の必要性と、制度整備への期待が語られた。
渡辺氏の講演に続き、パネルディスカッションに登壇する株式会社リクルートの阿部氏、KDDI株式会社の木村氏、株式会社三菱UFJ銀行の藤咲氏から、各社のデータマネジメント人財育成に関する取組紹介があった。
各社の取組は要点が多岐にわたるため、ここでは一部のみ記す。例えば阿部氏からは、企業における理想の組織像をまず描き、各役割に必要なスキルを定義したうえで、そのスキル定義に対応する人財を育成するアプローチを採っているとの説明があった。データマネジメント人財の定義が十分に明確化されていないこと、また当該人財を募集しても採用が難しいという現状を踏まえた、現実的な取組であると感じた。
各社の紹介のあとは、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の内田氏も加わり、藤咲氏をモデレーターとしてパネルディスカッションが行われた。
なかでも印象に残ったのは、データマネジメント人財とデータサイエンティスト人財の今後に関する議論である。データサイエンティストが担う領域の一部は生成AIの発展により代替・支援される可能性がある一方、データマネジメントは生成AI活用におけるルールメイキングやガバナンスも含め、今後も重要性が高まるポジションであることが示された。
特にデータマネジメント人財は、データのドメインナレッジを有することで、データの正しさや重要性を評価できる人財として活躍が期待されるという。
現在は「データサイエンティスト」という役名に比べ、データマネジメントの価値を端的に伝える役名が浸透していないことが、価値の周知を妨げる要因ではないかという話もあり、データマネジメント全般にわたる議論が深まっていた。

本セッションは遅い時間帯の開催にもかかわらず会場は大盛況で、追加の椅子を運び込んで対応していた。また1時間30分の長時間の設定であったが、途中退席者もほとんど見られず、参加者が最後まで熱心に聴講していた。以上からも、新しい資格制度やデータマネジメント人財育成への関心の高さがうかがえた。
今後も、JDMC情報発信部会から聴講した講演をレポート予定なのでお楽しみに!