ICT徒然草 第3回 AI今昔物語その2

2018-12-18

ジャパンデータストレージフォーラム(JDSF)理事  落合 正隆

 
最初に、前回の最後で提示した問題を、今一度繰替えします。「AIは人間に取って代る事が可能なのでしょうか?」筆者は、この問題に対する自分なりの回答を持っていますが、それを示す前にこの問題のコアである「人間に取って代る事」をもう少し噛砕いておきます。
 
これには幾つかの「段階」があります。先ず1つは「人間の仕事を奪う事」で、ここでいう「仕事」とは、芸術的活動を含む「生産的活動」と定義します。今1つは「ポストヒューマン的存在となる事」で、これはシンギュラリティ(Singularity)の議論でも問題となりますが、換言すると「文明の進歩の主役に躍り出る事」です。後者は、哲学的問題も孕むので一旦棚上げにして、先ず前者について考察します。
 
「AIは人間の仕事を奪うか?」という問題がここ数年騒がれています。その発端となったのが、2013年に出されたオックスフォード大学のフレイ&オズボーンの研究レポートとその2年後の2015年に野村総研が日本で行った同様の調査です。この問題に関しては、HRコンサルタントの海老原嗣生(えびはらつぐお)氏が、2018年6月19日から8月15日に亘って非常に興味深い考察をネット上で発表しており、筆者も極めて強い共感を覚えましたので、その要約をご紹介する事で回答とします。
 
そこでは、人間の動作を再現するロボティクスはかなり精度の高いものが近い将来実現可能である事を前提に、それを制御するAIとのセットをAIと総称し、それが人間の仕事をどこまで代替できるかを考察しています。
 
先ず、現在のAIは「特化型AI」であり、ある特定の分野では人間を凌駕できるレベルまで進化できますが、上記の研究レポートや調査でAIによってなくなる(代替される)とされた俗にいう「単純労働」は、実は非常に多彩で細切れのタスクで構成されているため単一の特化型AIでは対応できず、無理に置換えようとすると複数の特化型AIとロボティクスが必要になるので、経済性が成立たず事実上不可能だと断じています。
 
一方で現状の「特化型AI」で華々しく自動化が進む領域もあります。それはコンピュータの中で完結し物理的作業がほとんど発生せず、1つの分野の知識でのみ習熟が求められる「スペシャリスト」です。弁護士、会計士、司法書士、社労士、税理士等、現在でいえば難関で高給な士業や通訳業務、等がその典型です。
 
また、回転寿司を例にとり、「魚を切る」および「寿司を握る」という高度な習熟が必要でかつ専門性の高いコアのタスクのみをAI化し、人間は残りの「誰でもできる些末な仕事」のみを担当する事によって、銀座の名店で供される様な寿司をずっと廉いコストで再現できるので大きな収益を上げられるものの、一方相変わらず人手不足は続くので労働力確保のために給与は上げざるを得ない、という興味深い考察をしています。これは一例ですが、こうした「仕事は楽になり、サービス(提供商品)は高品質になり、更に給与は上がる」という現象は、製造・建設・サービス・流通など大量に人々が働く分野で、事によると第一次産業でも起き、氏はこの「誰でもできる些末な仕事」を「隙間労働」と呼んでいます。
 
「特化型AI」で実現できるのはここまでで、次のステップに進むためには「汎用AI」が必要になります。これは、正に前回でAIのゴールとした「人間が(考える存在として)できる事をコンピュータにさせる事」なのですが、その第1段階が「全脳アーキテクチャ型AI」です。これは、人間の脳の構造に学ぼうというアプローチで、脳は言語野・視覚野など多数のモジュールにより構成されていますが、そのモジュール毎に機能を再現させて、それを統合して人間の脳と同じ事ができるいわば「疑似脳」をコンピュータ上に構築しようというものです(https://wba-initiative.org/wba/参照)。このアプローチで実現される「疑似脳」AIは、未だ完全な脳機能を再現するまでには至りませんが、特化型AIが苦手であった「多彩で細切れのタスク」位は十分にこなせるので、1台のAI (ロボティクスを含む)で、製造・建設・サービス・流通業に多く存在する「単純作業」を代替できると思われます。但し、これは仕事を奪うのではなく、現実には不足する労働力を補うという位置付けになります。
 
一方、営業や企画、管理などのいわゆる基幹ホワイトカラー業務は、処理すべき情報が多種多量であり、更には創意工夫・サービス精神・対人感受性などもキー要素になるので、「疑似脳」に過ぎない「全脳アーキテクチャ型AI」では対応できません。但し、営業やマネジメント等に的を絞ればある程度有用性の高いAIは実現できる事が考えられ、それに営業プロセスのコアを担わせれば、営業も「隙間労働」化して行く事が考えられますが、これも仕事を奪われる事にはなりません。https://bizgate.nikkei.co.jp/series/DF040620184168/に、氏の考察の全文はリンクが貼られていますので、ご興味がおありの方はご参照下さい。
 
さて、次の段階に進むためには、究極の「汎用AI」即ち「完全な脳機能」の再現が必要になります。これは「全脳エミュレート型AI」と呼ばれる事もあり、その実現には人間の脳機能ネットワーク(ヒト・コネクトーム)の解明(https://brainminds.jp/参照)が必要だとされており、それはどんなに早くても来世紀になると目されていますが、これが実現された後の世界はどうなるのでしょうか? 遂に「ポストヒューマン」の出現となるのでしょうか?
 
仮にこれを「究極AI」と呼ぶ事にします。筆者は唯物論者ですので「究極AI」が実現されれば、それは人間と同等な「知性」であり「人格」であると考えます。彼らを同じ「人間」だと認めて相互信頼関係を築く事ができれば、両者が共存する希望に満ちた未来を必ず実現できるはずです。筆者は「鉄腕アトム」世代です。鉄腕アトムは様々な偏見と闘い悩みながらも、人間と「ともだち」になろうとし続けました。筆者はそんな未来を信じています。
 
 
参考文献:雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生 筆
1. 「AIが仕事を奪う」はウソかもしれない 2018/6/19
2. AIの進化で、真っ先に淘汰される「意外な職業」 2018/6/25
3. AIが本当に仕事を奪うのは何年先か 2018/7/2
4. AIが進化すると営業も「すき間労働化」する 2018/7/11

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「ICT徒然草」シリーズ

第1回 歴史は繰返す      
第2回 AI今昔物語その1
第3回 AI今昔物語その2
第4回 社会貢献
第5回 サイバーセキュリティ
第6回 見えないストレージ



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