ICT徒然草 第2回 AI今昔物語その1

2018-12-19

ジャパンデータストレージフォーラム(JDSF)理事  落合 正隆

今回から2回に亘って、AI(Artificial Intelligence)今昔物語と題して、AIの歴史を振返ると共にその未来を私見も交えて考察します。
 
昨今ビジネスの世界でもAIが話題に上る事が多くなりましたが、以前から囲碁や将棋といったゲームの世界ではかなり話題になっていました。囲碁では、2016年3月に数多くの世界戦優勝経験のあるプロ棋士李世乭(イセドル)九段(韓国)が、Google DeepMindの開発したアルファ碁に1勝4敗と負け越しました。また、2017年5月には、当時世界レーティング1位の柯潔九段(中国)との3番勝負で全勝しました。現在では、最強のプログラムは、トップクラスのプロ棋士にハンデを与えても勝てる程になっています。将棋では、2017年5月に佐藤天彦名人が、当時最強プログラムといわれたPONANZAに2連敗しましたが、現在はそのPONANZAより更に強いプログラムが複数あり、もはやプロ棋士といえども人間はコンピュータに勝てないだろうといわれています。
 
現在では、自動運転を一とした様々な産業分野でAIの応用が研究されており、実務への適用も始まりつつあります。2017年6月25日のNHK特集でも取上げられましたが、AIは人間に取って代る事が可能な神や悪魔の様の存在になり得るのでしょうか?
 
さて、この問題を考察する前に、先ずAIの歴史を簡単に振返って見ましょう。前回も述べましたが、未来を考察するために歴史を振返る事は重要です。
 
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、AIの歴史はかなり古く1950年代まで遡る事ができ、ICT技術の発展と普及の歴史と密接な関係があり、1956年に開催された「ダートマス会議」において用語として初めて使用され、新たな分野として創立されました。その後数回のブームと冬の時代を繰返しながら、多くの研究者達によって少しずつ進化して来ましたが、現在のAIブームは第3次AIブームと呼ばれています。
 
コンピュータの理論的基礎を確立した1人であるアラン・チューリングは、数学的に定義可能な仮想コンピュータである「チューリングマシン」を提唱しましたが、更にある機械が知的(AIである)かどうかを判定するための「チューリングテスト」も考案しました。紙面の都合で「チューリングテスト」の具体的内容については説明を省略しますが、ご興味がおありの方は「ウィキペディア」でご確認下さい。そこで、実際にコンピュータが実用化されると、コンピュータの持つ多くの可能性に期待が寄せられ、脳機能に見られる幾つかの特性をコンピュータ上のシミュレーションによって表現する事を目指した数学モデルである「ニューラルネットワーク」の研究が、1958年フランク・ローゼンブラットが発表した論文を契機に本格的に開始され、第1次AIブームとなりました。但し、その背景には人間の知性は「脳」という器官によって実現されているという唯物論的立場がありました。この第1次AIブームによって、AIは推論や探索、自然言語の処理が可能なまでに発展しましたが、当時のコンピュータの処理能力の限界に直面し、AIの日常生活やビジネス分野での活用が未だ非現実的である事が分かると、1960年代末に終焉を迎える事になりました。
 
第2次AIブームは、1970年代に開発された人間の専門家(エキスパート)の意思決定能力をコンピュータ上でエミュレートする「エキスパートシステム」が、1980年代にAIソフトウェアとして初めて商業的に成功を収めた事がきっかけとなり始まりました。エキスパートシステムは、人間の知性の中でも専門的知識に基づく意思決定プロセスに特化した、今でいう「特化型AI」の初めてのモデルといえ、また意思決定の根拠となる知識の蓄積である「知識ベース」は、後に「機械学習」へと発展して行く事になります。第2次AIブームでは、人間を越えるAIの誕生に期待が寄せられていましたが、当時は「知識」の蓄積を行うための「学習方法」に限界があり、この理想と現実の剥離により1990年代初めに終焉を迎える事になりました。
 
手作業によるデータの蓄積がネックとなり、第2次AIブームの中では実用化が難しいとされた「機械学習」ですが、ICT技術の発展と普及に伴い比較的容易に十分大量のデータ(ビッグデータ)を蓄積する事が可能になり漸く2000年代に実用化され、それがきっかけとなり第3次AIブームは始まりました。また、第1次AIブームのきっかけとなった「ニューラルネットワーク」は多層化する事によって、任意の問題に対して比較的小さい計算量で最適化する事が可能な「機械学習」の技法となり得る事が数学的に証明されていましたが、コンピュータの性能向上およびWebの発達によるデータ調達の容易化によって、2010年代に「ディープラーニング」として実用化され、音声・画像・自然言語を対象とする問題に対し他の手法を圧倒する高い性能を示しています。
 
さて、ここまでAIの歴史を振返って来て判った事は、AIの研究は人間の「知性」をコンピュータ上に再現する事を目的として始まり、幾度かの挫折を経ながらICT技術の発展と普及によって、徐々にその目的に近づきつつあるという事です。
 
それでは、そもそも「知性」とは何でしょうか?実はAIには世界的に認められた定義が存在せず、研究者によってその定義は様々です。これには理由があります。「チューリングテスト」を考案したチューリングは数学者で、数学は通常問題(この場合は「知性」)を定義する事から始めますが、チューリングはあえてそうせず「機械は人間が(考える存在として)できる事をできるか」という命題に置換えました。従って、AIには定義が存在せず、そのゴールは「人間が(考える存在として)できる事をコンピュータにさせる事」になるのです。さて、ここで最初の問題に戻りましょう。「AIは人間に取って代る事が可能なのでしょうか?」その考察は次回に譲る事にします。
 
 

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「ICT徒然草」シリーズ

第1回 歴史は繰返す      
第2回 AI今昔物語その1
第3回 AI今昔物語その2
第4回 社会貢献
第5回 サイバーセキュリティ
第6回 見えないストレージ



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