日本データマネージメント・コンソーシアム

その他

ICT徒然草:ジャパンデータストレージフォーラム(JDSF)理事 落合正隆

日本データマネジメント・コンソーシアム—JDMC コラム寄稿にあたり

ジャパンデータストレージフォーラム(JDSF)

理事長 力石 高綱

 
ジャパンデータストレージフォーラム(JDSF)で理事長を務めている力石と申します。この度JDMCにコラムを寄稿させていただくこととなり、御礼申し上げます。JDSFを代表し、ご挨拶申し上げます。

JDSFは1997年に設立され、今年で活動22年目を迎えたデータ・ストレージを核のテーマとした民間企業主導のオープンな任意団体です。設立当時は「SAN」や「NAS」というIT用語が出始めた頃で、データ活用のためのインフラストラクチャテクノロジーに関係する情報が混沌としていました。そこで、データ・ストレージに関わる相互接続性の情報交換およびデータ活用や海外でのストレージテクノロジー最新情報の提供、システム・インテグレーション技術の向上、それらの情報の外部発信および教育を実現すべくJDSFは生まれました。ご存知ないかもしれませんが、毎年春と秋に行われるITの展示会であるJapan IT Weekのデータ・ストレージEXPOはJDSFが発起人となり、リード・エキシビジョン社と共同で立ち上げたイベントでもあり、外部発信の一環でもあります。

時代は進み、現在ではその活動領域をAIやIoTを中心としたデータ利活用、データセキュリティ、そしてバックアップや災害対策、アーカイブのようなデータ自体のマネジメントに広げており、直近では働き方改革もテーマの一つとして活動を開始しています。より詳しい情報はホームページにございます。是非一度お訪ねいただければ幸いに存じます(http://www.jdsf.gr.jp/)。コラムの方もJDSFの活動領域から皆様にご興味を持っていただけるよう、様々なテーマから選別し寄稿申し上げてまいります。少しでもお役に立てばと思っておりますので、何卒宜しくお願い申し上げます。

以上

 

ICT徒然草 第1回 歴史は繰返す       

 

ジャパンデータストレージフォーラム(JDSF)理事  落合 正隆
 

筆者はICT業界に関わる様になって今年で40年になりました。そこで先ずその経験を踏まえて、少しICTの歴史を振返ってみたいと思います。

歴史は繰返す、温故知新などと申します。どんなに科学技術が進歩しても、歴史を構成しているのは所詮人間ですので、古今東西・時間を超えて、人間の営みには驚く程共通点があります。ですので、歴史を振返る事により未来を見通す事ができると古くからいわれています。そこでICT業界に眼を向けると、Dog YearさらにはCat Yearといわれており、他の世界よりかなり時間の流れが速いとされています。従って、通常であれば一世代では経験できない様な歴史の繰返しを、そこでは経験できる可能性があります。ICT業界の40年は通常の何年に相等するのでしょうか? 筆者に根拠のある答がある訳ではありませんが、恐らく100年以上にはなるのではないでしょうか?

そこで、システム・アーキテクチャの基本的コンセプトの一つである「集中」と「分散」に注目して、歴史を遡ってみましょう。

筆者がICT業界に関わり始めた1970年代末は、メインフレームと呼ばれる大型汎用コンピュータがICTシステムの中核となっていましたが、当時のシステム・アーキテクチャは明らかに「集中」型でした。高価な大型汎用コンピュータの資源を、効率良く複数のアプリケーションで共用する事を目指す運用で、ユーザー・インターフェースはコマンド・ラインでした。

当時IBM社は、既に「分散」処理用のコンピュータを発表していましたが、当時の「分散」処理は現在とは異なり、ワークフローを「分散」処理するという考え方で、帯域の狭い当時のネットワーク環境では、そもそも現在の様に一つのアプリケーション・プログラムがネットワークを介して複数のコンピュータ上で処理される事は、事実上不可能でした。結果として、この「分散」処理用コンピュータは余り成功しなかったのですが、当時の「分散」処理の考え方は、今にして見ればサーバー・クライアント・モデルのルーツの様にも思えますし、当時からあったPOS端末/金融端末/ATMの様なオンライン専用端末は、現在の視点で見れば「クライアント」に他なりません。

またネットワークでは、同じくIBM社が既にSNA(Systems Network Architecture)を発表しており、これは後にISOが提唱したOSI(Open Systems Interconnection)のモデルになったともいわれますが、やはり「集中」型アーキテクチャでした。一方「分散」型アーキテクチャであるインターネットはOSI参照モデルの上で構築されていますが、これも今にして見れば象徴的な事実です。

現在のクライアント・サーバー・モデルは典型的「分散」型アーキテクチャですが、昨今主にセキュリティの観点から広まりつつあるVDIやシンクライアントは、紛れもない「集中」型アーキテクチャであり、更にクラウド・コンピューティングの普及に伴いエッジ・コンピューティングが提唱されつつありますが、これは「分散」型アーキテクチャです。正に歴史は繰り返されているといえるのではないでしょうか?

また、昨今非常に注目されているサイバー・セキュリティの課題は、「分散」型アーキテクチャの脆弱性を衝いたものが多いのですが、その対策の多くが「集中」型アーキテクチャを採用している事も象徴的に思えます。
最後に、ストレージの世界でも昨今は「分散」型アーキテクチャが現実となっている事実に注目しつつ、その歴史を振返ってみます。

メインフレーム時代および初期のクライアントサーバー・モデルでは、ストレージはホスト・コンピュータの一部であり、OSから直接制御されていました。データセットまたはファイルというデータの論理的集合の概念はありましたが、アプリケーション・プログラムは、OSの一部であるアクセス・メソッドまたはファイル・システムを介してストレージを直接制御する必要があり、後に区別のため(後述)その制御形態からは「ブロック・ストレージ」と、またその接続形態からは「DAS(Direct Attached Storage)」と呼ばれる様になりました。現在でもPCまたはサーバーの内蔵ストレージは、このタイプのストレージです。

その後Sun Microsystems(現Oracle)がNFS(Network File System)を実用化してから、アプリケーションはネットワーク越しにストレージを接続できる様になったため、これをNAS(Network Attached Storage)と呼ぶ様になり、以前のストレージはDASと呼ばれ区別される様になりました。これを契機にクライアントサーバー・モデルはより進展し、このタイプのストレージは「ファイル・ストレージ」とも呼ばれる様になりましたが、ストレージ自体のアーキテクチャは已然「集中」型でした。

近年では「ファイル」の概念を更に抽象化した「オブジェクト」という概念が提唱され、このオブジェクトを構成する実データを物理的には異なるデバイス上に分散する事によって、オブジェクトの保全性と機密性を担保するというアーキテクチャに発展しており、これは「オブジェクト・ストレージ」と称され、そのアーキテクチャは「分散」の方に振子を振っている様です。このストレージの現状については、回を改め論じてみたいと思います。

何れにしても、「集中」と「分散」の何れが優れているのかという問いに正解はありません。その時代背景や技術レベルに合わせて、これからもその振子は揺れ動いて行くでしょう。

 

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「ICT徒然草」シリーズ予定
第2回 AI今昔物語その1
第3回 AI今昔物語その2
第4回 社会貢献
第5回 サイバーセキュリティ
第6回 見えないストレージ

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