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テーマ5「DM実践勉強会」データの利活用概説(4)日本企業の海外雄飛(1)

JDMCテーマ5「DM実践勉強会」リーダ 清水孝光

前回は、敗戦後の日本で、軍事理論だったランチェスター理論が田岡信夫によって経営戦略理論に換骨奪胎され、販売強化戦略に活用されるなったことについて触れました。ランチェスター経営戦略では、市場参入時の「弱者の戦略」を経て、ある市場のトップ企業として「強者の戦略」が可能になるマーケットシェア26.1%を目指すなど、具体的な指標を提供し「シェア至上主義」を産み出します。

ランチェスター理論など様々な経営戦略のフレームワークやマーケティング理論などをベースに色々組み合わせて「データ利活用」をすることが経営・業務では必須になります。これが「データ経営」の本質だと筆者は考えます。前回、当時の日本企業をとりまく状況(マクロ環境)を分析するツールとしてPEST分析に触れました。PESTの「Economy経済」を確認すると、当時は固定相場1ドル=360円で海外市場は極めて魅力的な市場でした。

今回は、ランチェスター経営戦略から産まれたシェア至上主義を引っ提げて海外雄飛した日本企業の手法を新市場開拓・価格政策・損益分岐点分析を主眼に2回に分けて確認します。今回は、市場開拓・価格政策です。

注)文中の敬称は略します。

まず、1960年代当時から、海外雄飛する日本企業が採用した成長戦略を経営戦略のフレームワークの「アンゾフの成長ベクトル」で確認しましょう。

「アンゾフの成長ベクトル」は下図のように、「製品・サービス」と「市場」を2軸として、さらに「既存」と「新規」に区分けをした4象限で採用すべき戦略を検討する枠組みです。データ利活用によって、市場や競合動向などの様々な分析を行い、「新市場開拓戦略」だけではなく、既存製品・既存市場の「市場浸透戦略」、新製品・既存市場の「新製品開発戦略」、場合によっては「多角化戦略」にも投資を振り分ける、企業としての最適戦略を練るわけです。

4つの戦略の中での本稿の主眼は、日本国内の旺盛な内需拡大で成長を遂げてきた日本企業の「既存」製品を、海外市場という「新市場」に投入する「新市場開拓戦略」です。

「新市場開拓戦略」のポイントは、①潜在ニーズの掘り起こし②新しい販売・物流ルートの構築③新顧客層の発見・発掘です。1960年代のホンダ社が米国市場進出した事例で簡単に解説します。

敗戦後創立されたホンダ社は、当時、不可能といわれた50CCバイク(スーパーカブ)を開発し、日本国内で大ヒットさせました。その一方で、1966年のオートバイレース・世界GPで5階級完全制覇する偉業を達成し、世界トップの技術力を誇るまでに成長しました。勇躍米国市場に参入をしたのですが、思うように400 CCクラスのバイクが売れない。そこで、ホンダ社は以下の「新市場開拓戦略」で大成功を収めました。

【事例】1960年代ホンダ社のスーパーカブで米国市場開拓

①潜在ニーズの掘り起こし
当時の米国では、長距離専用の大型バイクが常識。
そこでホンダは、便利な乗り物として50CC小型バイクの潜在ニーズを掘り起こした。

②新しい販売・物流ルートの構築
バイク販売店ではなく、スポーツ洋品店・釣具店などで代理店網をつくり、一般の人が気軽に購入できる販売チャンネルを構築した。

③新顧客層の発見・発掘
都会生活を便利に快適にしたいと思っている顧客層を発掘した。

「市場開拓」のためのデータ利活用のノウハウとして、マーケティングについてここで確認しましょう。

マーケティングとは、斯界の大御所・フィリップ・コトラーの定義によれば、

「マーケティングとは、製品と価値を生み出して他者と交換することによって、個人や団体が必要なものや欲しいものを手に入れるために利用する社会上・経営上のプロセス」(Wiki「マーケティング」より)という非常に大きな概念です。

「市場開拓」のデータ利活用のために、下図の左側の例では、目標シェアを選択して達成するために、

①「事業ドメインの3軸定義(誰に・何を・どのように)」を検討し、②参入市場検討に「STP=市場細分化(Segmentation)・ターゲット選定(Targeting)、位置取り(差別化)検討(Positioning)を活用して、さらに③マーケティングミックス(4P=製品Product、価格Price、チャネルPlace、販売促進活動Promotionで具体策に落とし込むという一連のデータ利活用のプロセスとその関連を示しています。

例えば、事業ドメインの検討結果の「誰に:Who」をさらに深掘りし、新顧客層開拓の第一歩を踏み出すのが、上記のSTPの一つである「市場細分化Segmentation」です。細分化条件は、下表に示す通りで、規模・購買力・収益性などのデータを利活用して市場細分化を実施しターゲットを決めていくわけです。

市場細分化の条件内 容
測定可能性細分化された各市場の規模や購買力を、測定可能か
到達可能性細分化された各市場に到達して、マーケティング可能か
維持可能性細分化された各市場が十分な規模を持ち、十分な利益が得られるか
実行可能性細分化された各市場を訴求する効果的なマーケティングが、実行可能か

シェア重視の基本方策をとるならば、「ターゲット選定 Targeting」の際に、ランチェスター理論を活用し、早期に「強者の戦略」を実現できるようにターゲット市場を見定めることが重要になります。

なお、市場シェアを把握するためには、競合分析などの様々な経営戦略のフレームワーク、例えば「5フォース」「3C分析」等々でデータ利活用していくのですが、本稿では省略します。

本稿の目的は、あくまでも「戦略フレームワーク」「マーケティング理論」などは「データ利活用」のためのノウハウの宝庫であることのご紹介だからです。詳細は、別途公開予定です。

マーケティングの4P(製品Product、価格Price、チャネルPlace、販売促進活動Promotion)のうち、ここでは「価格政策 Price」に注目しましょう。シェア重視するためには価格の比重が大きいためです。下図に示す通り、価格政策は大別して、収益主眼の「スキミング(上澄み)政策」とシェア獲得の「ペネトレーション(普及)政策」があります。

「ペネトレーション(普及)政策」では、幅広い市場セグメントをターゲットとし、早期に量産体制に入り、

・「規模の経済性」生産規模の拡大に伴って単価が下がり生産効率が上昇する、スケール・メリット

・「経験曲線効果」累積生産量の増加に伴って、製品数量ごとの間接費を含めた総コストが予測可能な一定の割合で低下していく学習効果

によるコスト低減を図ることで、特に競合が多くなるPLC(Product Life Cycle /製品ライフサイクル)の成長期に、低い販売価格で一気に市場を押さえる価格政策です。

本稿では、1960年代頃からの日本企業が、円安を武器に米国市場等の海外市場を開拓するケースを確認しています。そのため、ランチェスター理論を活用して、マーケットシェアをKGI (Key Goal Indicator/重要目標達成指標)にし、価格政策に「ペネトレーション(普及)政策」を採用したとして、話をすすめましょう。

次回は、シェア重視といっても、ビジネスですから赤字は困りますから、最低限の収益を確保するには、どの位の売上が必要なのか、財務会計のデータを利活用して検討する方法を確認しましょう。損益分岐点のデータ利活用をみていきましょう。

※JDMCテーマ5 DM実践勉強会リーダ 清水孝光
清水技術士・診断士事務所代表
技術士(情報工学部門)、中小企業診断士、ITコーディネータ
健康経営アドバイザー
日本エニアグラム学会認定ファシリテーター
ヨガ・インストラクター(YogaWorks RYT200)
ピラティス・インストラクター(BASI MAT)

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