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レポート

第17回JDMC定例セミナー報告  ~情報系システムの導入を成功させるポイント

2013年6月27日、第17回JDMC定例セミナーが、TKP小伝馬町ビジネスセンターで開催された。今回「特別編」と銘打ち、データマネジメントに取り組むJDMC会員企業6社によるパネルディスカッションが繰り広げられた。主な論点は、「情報系システムの導入を成功させるポイント」「データ品質の継続的な維持向上の勘所」「関連する技術・ツール選定時の留意点」である。いずれも、データマネジメントに取り組む企業・団体から多く聞かれる悩み。パネリストは、ユーザーとベンダーそれぞれの視点から自社の取り組みについて意見を交わした。

パネリスト(敬称略・順不同)

東京海上日動システムズ株式会社
上級プロデューサー
営業戦略推進本部
営業推進システムサービス部
山田 文彦

SBIホールディングス株式会社
ビッグデータ室長
林口 文彦

ノバルティス ファーマ株式会社
情報システム事業部
マーケティング情報システム推進部 部長
鈴木 幸二

日本アイ・ビー・エム株式会社 理事
ソフトウェア事業
インフォメーション・マネージメント事業部長
塚本 眞一

株式会社データ総研
代表取締役会長
黒澤 基博

EMCジャパン株式会社
マーケティング本部
本部長
上原 宏

<モデレータ>
株式会社インプレスビジネスメディア
取締役 兼 IT Leaders編集長
田口 潤

情報系システムの導入を成功させるポイント

経営情報を可視化するBIツールやDWHなどの情報系システムを有効に機能させるには、部署横断的なデータ流通の仕組みをはじめ、各部署が管理するマスターデータの継続的な整備のための運用上のルール、組織体制が必要である。それらシステム投資やデータ管理の労力に見合うだけのメリットがあるのか。財務会計・人事給与などの基幹系システムと異なり情報系は「導入すればこれだけコスト削減される、業務効率化する」といった定量的な効果が見えにくいことが、常々指摘されている。
これについては、パネリストや会場の参加者から「ROIを論じる前に、経営層や情報システム部門、業務部門のリーダーなど関係者全員で、導入目的を確認・共有するべきだ」という意見が相次いだ。
「仮に、『経営層が物流系を可視化したいのであれば、このシステムとこのシステムには横串を通す必要がある』と具体的に話を進めていくことがコツ。在庫状況が日次で可視化されることで、意思決定やアクションのスピードが速まる、といったシナリオを関係者に理解してもらう。そうしないと各部署の賛同も得られず、中途半端なデータしか集められない」(データ総研 黒澤氏)。
経営層だけでなく、マスターデータの設定やデータを入力・管理する部署の理解や協力も不可欠である。
「当社では情報系システムの導入でもROIを明示せよと厳しく求められる。一例だが、情報系システムを導入する場合/しない場合で、各部署が経営層に定期的に報告するExcelファイルを手作業で集計・出力する時間が何分減る、といった数値を仮説として出している。一人当たりの時間単価から、経営情報の可視化に要する作業コストが割り出せる」(ノバルティス ファーマ 鈴木氏)。こうした仮説検証を繰り返す中で、情報系システムのROI算出におけるノウハウが、社内に蓄積されていく。
「外資系企業では、従業員がシステムに合わせるのが普通。正直、使いづらいなどの不満は多かれ少なかれ、どの社員も持っている。しかし、会社としてシステムの属人化を放置せず、全社で標準化することが結果的に企業のコンプライアンス等のリスクを抑えるメリットにつながっていく」(EMCジャパン 上原氏)という指摘もあった。
ほかにも、「IT部門にもそれなりの予算があるので、まずは情報系システムをIT部門主導で導入してみてはどうか」「一度入れたらカスタマイズが難しい仕組みではなく、要望に応じて柔軟にカスタマイズできるツールや開発手法を検討してみては」という発言が会場の参加者から聞かれた。

データ品質の継続的な維持向上の勘所とは

会場の参加者からは、「マスターデータの品質は、日本企業のほうが、海外企業よりも一般的に高い印象がある」という意見もあった。とはいえ、社内でコード統一がなされていない、コード自体が付与されていない、あるいはソースデータの管理が不適切であるために分析結果の精度が低く、経営層が求めるデータが出てこない、という悩みを抱えている企業は少なくない。これでは、せっかくの“ビッグデータ”も、宝の持ち腐れとなる。
グローバルSCMを展開する企業では、「生産系と会計系のデータはグローバルで統合している。ただ、営業系は現地法人ごとにそれぞれ管理している。データの管理や粒度に関するルールが現場に定着するまでに時間はかかるが、現在は軌道に乗り、データの粒度がグローバルで揃っている。結果的に監査業務の負荷も軽減している」(前出・鈴木氏)という。
マスターデータを一度作っても、組織改編などが重なり、データ品質が低下すると、そのデータが次第に活用されなくなるケースは多い。それを防ぐために、部署横断的にマスターデータの品質を管理する専任部隊があるのが望ましい。情報システム部門がその役割を担ってもよい。ただ、日頃から業務部門との関係が良好でない場合や、情報基盤整備が優先され、業務で用いるデータの重要性が低く見積もられている場合は、ブリッジ役を果たせなくなる。情報システム部門やシステム子会社も、ビジネス視点が欠かせない。そうしなければ、社内・グループ内での存在感も薄れてしまう。
「欧米企業では一般に、データ品質の最終的な責任を経営者に持たせている。投資家に開示する財務諸表の信頼性について経営者が責任を持つことに通じている」(前出・黒澤氏)という指摘にあるように、現場任せにせず、最終的にはトップが責任を持つ仕組みを社内に確立することが重要だろう。

データマネジメントに関連する技術・ツール選定時の留意点

「データ管理と情報の共有化を目指してWebシステムの導入を予定している。その利用率を高めるコツは」という情報システム部門担当者の質問である。現場の各担当者が使い慣れたExcelなど既存システムを手放さず、なかなか新システムに移行してもらえないというのはよく耳にする話だ。
「新たにシステムを導入する際に、技術・ツール先行で進めないほうがよい。まずは業務フローを確認してほしい。既存のExcelで実現できる作業であれば、そのままでよいケースもある。Webシステムでしかできないことは何かを見極めるのが先だ」(東京海上日動システムズ 山田氏)。
新システムを導入に先立って、ベンダー各社の製品やサービスを比較する際に、機能などを○や×で相対評価したリストを参考にすることがある。ただ、最終的な製品の評価は、システム子会社など、あくまでユーザー側で行うことが重要だという点でパネリストの意見はほぼ一致した。
「製品やサービスをシンプルに検討する上で○×表は大事だが、本質的な問題から議論が乖離する不安がある。また、最終的に誰が評価し、導入を判断するのか。システム部門か、経営層か、業務部門のリーダーか、は問題の所在や、導入の目的に応じてケースバイケースで対応している」(SBIホールディングス 林口氏)という指摘もなされた。
「○×表などでユーザーに提案したいのは、自社製品の特長や比較優位性だ。ただし、最後は、ユーザーが、各製品やサービスを適材適所で活用することが最大のポイントになる。ベンダー側は、ユーザー側の熱意あるプロジェクト起案者を巻き込むと、導入がスムーズに進むことが多い」(日本アイ・ビー・エム 塚本氏)というように、製品やサービスを提案するベンダー側とユーザー側のパートナーシップ、バランスのとり方が重要になる。

会場の参加者も、パネリストに質問や意見をぶつけた。「米国では、日本と比較してSI(システム・インテグレーター)企業への依存度が低いため、企業のCIOなどが自ら製品やサービスを主体的に選択している」「外資系企業に比べると、日本企業の経営者は少しのんびりし過ぎているのではないか」と、国内外の温度差を危惧する声もあった。
データマネジメントを軽視すれば、グローバル市場で大きく水をあけられる可能性がある。経営強化やリスクマネジメントの観点で取り組みを急ぐ時期に来ている。

(文責・柏崎吉一/エクリュ)

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